第156話 「圧倒的熟練の御技。力の匠ソウカクサタンコール」(バトル)
「三人まとめてかかって来い」。
ソウカクサタンコールのその一言は、戦闘に長けたスキルを有し好戦的な性格のハルルとぺティの二人の闘争心に一気に火をつけた。
ハルルは拳を力ませ、ぺティは剣を握りなおし刃をきらめかせる。
「おいぺティ、二人一緒って言ってるぜ、どうすんだよ?」
「なら、期待通りにやるとしよう。いくら四凶最強とはいえ、我々のスキルを相手になめてかかれば痛い目にあうことを教えてやろう」
怒りのあまりにハルルは顔を引きつらせ強張った笑顔となる。
ぺティも先ほどまでのソウカクサタンコールへの敬意は消え去り、激情の相となった。
「そんじゃあ、ジジイの血祭りに・・・」
「参るとするか」
ハルルとぺティが同時に前に踏み出した。
「・・・・・・」
二人が踏み出しところで、その肩に後方から無言の手が触れた。ハルルの左肩とぺティの右肩。それぞれの内側に位置する方だ。
振り向くと、肩に触れていたのは三人目の異界人、ムクだった。
「おう、あんがとな」
「心配は無用よ」
ムクの行動に含まれた意味は他者に理解は出来ずとも、特務部隊員同士では良く知るところなのだろう。二人はムクに礼を言うと、改めて前へと進んだ。
◆
異界人の二人と同時に、四凶の長、ソウカクサタンコールは軽やかな足取りで進みだしていた。
足は足裏全体に重心を乗せたべた足。左右の足は一直線に並び、腰は固定してわずかに重心を落とす。肩と首も揺れることなく固定され、肘から先は力を抜いて下に垂れる。
戦いの直前でありながら、その全身から受ける印象はリラックスそのもので、それはまるで散歩に出かけるようでもあった。
激しい殺気と穏やかな殺気。両極端な殺気を纏った双方の距離が縮まる。
怒りの二者と緩やかな一者。熱と冷。水と油。
相反する双方が、あと一歩、手を伸ばせば始まってしまうほどの距離まで近づく。
ハルルが睨む。
ぺティが見下す。
ソウカクサタンコールは目を伏せたまま速度を緩める。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
立ち止まり、沈黙する三者。
そして数秒の後、焦れたハルルが右の拳を繰り出した。同時に、ぺティが剣を振り上げる。
ソウカクサタンコールから向かって左から拳、右下から白刃。その命を狙って一撃必殺、殺人級の攻撃が迫る。
「甘いわ」
拳と剣を前に、ソウカクサタンコールは呟いた。その声は、必殺の動作の二人の耳にはっきりと届いた。
「な・・・」
「そんな、うそ?」
攻撃という激しい動きの最中でありながら、老人の声が届いた理由に、異界人の二人は言葉を失う。
ソウカクサタンコールは、究極の破壊力の拳を掌で、すべてを切り裂く刃を指で捕らえ、攻撃を食い止めていたのだ。
「ど、どういうことだ、ジジイ!」
狼狽する胸中を誤魔化すため、ハルルは声を荒げ威嚇の態度を示す。
「どうもこうもあるかい。おぬしの拳はわしには届かん。あと、そっちのお嬢ちゃんの刃もな。あまりに鈍いから、素手で捕まえてしもうたぞ」
笑うソウカクサタンコール。その体は微動だにせず、肩から先の動きだけで攻撃を無力化していた。
「そんな、私のスキルが発動しないなんて・・・一体どういうこと?」
「教えると思うか?バカタレ」
「く・・・っ」
ぺティは自身の発言を直後に恥じた。いくら信じがたい光景を目の当たりにしたとはいえ、敵に手の内を尋ねるなど、あまりにも恥知らずな物言いだったからだ。
四凶の長にして最強の男、ソウカクサタンコールは、力の流れを見切り、触れた力を自在に操ることが出来る。
これは、そもそも武術の達人だったことに加え、長年の修業の後、あらゆる技や魔法の根源たる力を感覚で理解したソウカクサタンコールだけの到達点なのだ。
今、その手に触れられ、力を思いも寄らぬ方向に流された異界人二人のチートスキルによる攻撃。ハルルとぺティはこれまで味わったことのないほどの無力感に襲われていた。
「くそったれがぁ!力が入らねぇ!」
「剣が、微動だにしないなんて、こんなこと今までないのに・・・」
初体験の状況に、二人は愚策を犯した。無駄に力み、体を前後に動かしたのだ。これは、戦いのみならず、一般的な状況においても効果的なものではない。原因を理解しないままでの強引な抵抗は、往々にして不幸な結果へとつながる。
そして、そのときが訪れた。
拳と剣に送られる二人の力の流れが、ソウカクサタンコール側へと向いた瞬間、その力を自身の方向へ引き寄せると、攻撃を封じていた両手を離し、拳と剣を解放した。
突然解放された力は、当人たちの予期せぬ方向に向かう。それは、だれもが一度は体験したことがあり、そして大抵は良くない結果に終わる。
ハルルとペティも正にそうなった。
前方に向かって体勢を崩したハルルの右腕に、ペティの解放された剣が下方から襲い掛かった。
剣は、ハルルの右腕に食い込むと、淀みない流れでその腕を斬り飛ばした。切断面から血が噴き出す。
「ペティイイ!てめぇ、やってくれたな!ざけんじゃねぇぞ、おらぁ!」
痛みをこらえながらハルルは叫ぶ。
本来なら、この結果に差し向けたソウカクサタンコールに怒りは向くべきなのだが、腕を失うという事態にその動揺は怒りの行き場を誤らせた。
「き、貴様、許さない!」
取り乱すハルルと反して、ペティは冷静に攻撃に転じた。ハルルの醜態が頭を冷やさせたのだ。
不可解な技を使う老人から数歩離れると、ペティは三回空を斬った。
直後、空中に斬撃の軌道に沿った刃が発生し、ソウカクサタンコールに飛来する。
ソウカクサタンコールは三つの飛刃を緩やかな足取りで躱す。
「見事な技じゃが、動きが直線では避けてくれというとるようなもんじゃ」
「直線だと誰が言った?」
「ん?」
そのペティの言葉どおり、三つの飛刃はその方向を変え、再びソウカクサタンコールに迫る。
それに応じ、さらに再び緩やかな足捌きで舞うように三つの刃を躱す。
「どうだ、相手をしとめるまで飛び続ける必殺の刃、その名も『追走刃』。追撃は死ぬまで止まらないぞ!」
「ほぅ、当たったら即死の攻撃がどこまでもついてくるのか。こいつぁ厄介じゃな」
「その通りだ。さらに、この斬撃は数を無制限に増やせる。さぁいつまで避けられるかな!」
剣聖ペティは更に剣を振った。その数は二十。計二十三の飛翔する刃が矢継ぎ早、止まることなくソウカクサタンコールを襲い始めた。
「ハルルの腕のかたき、とらせてもらうぞ!」
「うるせぇ、斬ったのはてめぇだろうが、ボケが!」
右腕を縛り止血をしながらハルルは叫んだ。
「おい、あまり斬撃を増やすなよ。こっちまで巻き添え食っちまうぞ!」
「わかってるわ。それじゃあ、これが最後。いけっ!」
ペティが締めの五十発目の斬撃を放った。
五十の斬撃が代わる代わる飛来するソウカクサタンコールの周囲は、既に何百という切断跡が刻まれていき、それは増え続ける。
しかしそれでも老練の戦士は、軽やかな足取りと攻撃を読みきった体捌きで上下左右に体を動かし無傷のままでいた。
「ふざけんなよあのジジイ・・・なんでアレがかすりもしねぇんだ。本当に人間かよ!」
剣聖のスキルによる、触れれば即決着のつくペティの斬撃。そしてそれが絶え間なく襲い来る追走刃の包囲網。
ペティそしてハルルの知る限り、これまでこの攻撃でここまで生き延びたものはいない。全て最初の三刃で決着がついていたのだ。
「なんてこと。まだ仕留めきれないなんて・・・」
「くそが、とんでもねぇジジイだ。・・・・・・お、おい、ペティ・・・あれ・・・」
「ええ。わかってるわ。なんで、何であんなことが出来るの?」
飛び交う刃に変化が起こった。飛刃の数が明らかに減り始めたのだ。その原因は勿論、ソウカクサタンコールだった。
攻撃を避け続けることに飽きたソウカクサタンコールは飛刃を正面から受け止めると、その力を散らし無効化したのだ。それも一度だけではなく、刃が飛来するたびに捕らえ、遂には全ての飛刃を消滅させてしまった。
ハルルとペティは呆然としてしまった。
「終わったようじゃな。それじゃあ、反撃といこうかの」
ソウカクサタンコールは再びゆっくりと歩き出した。
イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。
ソウカクサタンコール
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