第155話 「立ちはだかるチートスキル。ジョンブルジョンよ西へ走れ」(バトル)
ロケットランチャー迎撃の際に発生した衝撃により、ジョンブルジョンの義足の飛行機能に障害が生じた。
義足は異音と黒煙と共に出力が低下。ジョンブルジョンはソウカクサタンコールを背負ったまま地上へと迫っていた。
「まずいな、ソウカクサタンコール殿、妙な連中が待ち構えているぞ。まさかあれが、オーリン・ハークの子飼いの異界人共か?」
「まあ、有無も言わさず攻撃を仕掛けてくるってことは、そう考えるのが妥当じゃろうな」
「どうされますか?さすがに十人相手では分が悪い・・・」
「ジョンブルジョンや、おぬし、煙と音の爆弾が作れるだろ?」
「スモークとスタングレネードですか?作れますが、一体なにを?」
「あいつらが攻撃を仕掛ける前に、その爆弾を使って視界を遮れ。その虚を突いてお主はそのまま西へ急ぐんじゃ。この事態をアールケーワイルドらに教えてやらねばならん」
「わ、わかりました。しかし、ソウカクサタンコール殿はどうされるおつもりで?」
「わしは何人かを引き受けよう。お主の成功率を少しでも上げてやろう」
「承知しました。では・・・」
作戦を理解したジョンブルジョンは、構築魔法を使いスモークとスタンのグレネードを作りだした。
そんな二人に、異界人たちの視線が注がれている。
◆
降下を続ける四凶の二人を、異界人特務部隊の十人は足を止め、迎え撃つ準備を整えていた。
「よーしよし、降りてきたぜぇ。早くこっち来い、ボコボコにしてやるからよォ」
褐色の肌の女ハルルが二人を見つめつつ、何度も拳を繰り出す仕草を繰り返す。その動きから、格闘技を得意としていることがわかる。
「いや、ここは私が出よう。噂に名高い四凶の腕前を堪能したい」
ハルルの横に、漆黒の鎧を纏った女が歩み出た。剣を携え、鋭い眼光を上空へ向ける。
「はぁ?んだよ、ぺティ、横取りしようってのかよ?てめぇはいつもすぐ終わらせるから面白くねぇんだ。ちったぁ遠慮しろや!」
「ふん、殴ることしか出来ん蛮人が。貴様は暴力が振るいたいだけだろう。見ろ、あの四凶の男の背にいる老人を。あれは、四凶のリーダー、ソウカクサタンコール殿。私は武人として純粋に御仁と手合わせしたいのだ」
「はっ、気取ってんなよ。要は人が斬りてぇんだろ!」
いらつきを隠さず、ハルルは顔をぺティに近づけ睨みつける。
眉間の皺は深く、眉は怒りで震えている。
「はぁ・・・あんたらいい加減にしろよ。そんなことで喧嘩なんかしなくていいよ。どうせあっちは戦う気なんてないからさ」
女二人の醜い諍いに耐えかね、細身の青年が声を発した。節目がちで大人しめな印象だ。
「あ?どういうことだよ、アラシロ?」
割って入ってきた青年に、ハルルは怒りの矛先を向ける。
しかしその時点で、アラシロと呼ばれた青年は、上空の二人を指していた。
「ほら、くるよ」
アラシロ青年の言葉どおり、ジョンブルジョンから何かが来た。何かの物体が二つ、右手から放たれたのだ。
「おいアラシロ、視えてたんなら先に言え!あれなんだよ!」
「なんか、煙とデカイ音の爆弾。えーと、なんだっけ?」
「スモークとスタングレネードだ!あいつも精製が使えるのか!?」
名称を探すアラシロを、無限武具精製のスキルを持つシュドーが補足した。
投じられた二種のグレネードを、異界人たちが迎撃に応じようとしたところで、スモークとスタンが発動した。
粘りつくような黒煙と、耳元で爆発が起こったような爆音が瞬く間に異界人たちを包み込んだ。
異界人たちを強烈な耳鳴りが襲う。そんな中で、アラシロだけは直前に耳を塞いで難を逃れていた
アラシロのチートスキルは『未来予知』。十秒先の未来を知ることが出来るため、アラシロは奇襲にも対応が出来るのだ。難点は、アラシロに協調性がないため、仲間達と情報が共有できないということだ。
◆
人と馬が混乱する黒煙の中に、ジョンブルジョンが降り立った。
即座に義足を変形させ、靴底に車輪とブースターを出現させると、前方、西の一角楼へと向かって急加速を始めた。
「はっはっは、諸君、出迎えご苦労。だが、今の私達に遊んでいる時間はないのだ。君達は私の尻でも拝んでおきたまえ!」
加速したジョンブルジョンが煙から飛び出した。
それを受け、動きを察した特務部隊長の男が指示を出した。
「くそ!追え!やつらを一角楼に行かせるな!」
ジョンブルジョンを追って、真っ先に隊長が飛び出した。続いて、九人が隊長を追いかけて煙を脱する。
「どこにいくつもりじゃ?わしはここにおるぞ!」
十人の背後から、ソウカクサタンコールの声が響いた。その声に、思わずハルルとぺティ、さらにスキンヘッドの無表情の男が立ち止まった。
しかし、隊長を含めた七人は振り返ることなくそのまま西へ走り続けた。
「ハルル、ぺティ、ムク。そっちは任せたぞ!」
隊長の男が叫んだ。
直後、鋭い無数の斬撃が生じ、黒煙を細切れに切り裂いた。
黒煙を斬ったのはぺティのチートスキル『剣聖』。その剣はあらゆるものを切断する。
裂かれた煙は雲散霧消し、そのあとにはソウカクサタンコールの姿が残されていた。
「ほっほっほ、煙を斬りおるか。なかなかの技じゃのう。しかもなかなかのべっぴんじゃな。こいつぁ楽しみじゃわい」
正面に立ちはだかるぺティの顔を見て、ソウカクサタンコールは喜び笑う。
「おいジジイ、こいつばっかり見てんじゃねぇ。私だっているんだ。たっぷり楽しませてやるよ!」
剣を構えるぺティの横に、拳を鳴らしながらハルルが並び立つ。
「さぁ、覚悟してもらう・・・ぜ!」
ハルルが地面を拳で叩いた。
国政によって整備されていた街道に、巨大な亀裂が走り、陥没隆起によって、異界人三人の足元に十メートル以上のクレーターが発生した。
チートスキル『破壊神』により、ハルルは全てのものを破壊する攻撃力を誇るのだ。
「く、何も考えずに地面を殴るなんて野蛮な。少しは考えなさい!」
乱れた足元に体制を崩しながら、ぺティはハルルを非難した。ハルルは行動に後先を考えないため、事態を悪化させることが多々あるのだ。
「うるせぇよ、これは挨拶だ。派手にやらねぇとつまんねぇだろ!」
三人は後方に跳び、体勢を戻した。そんななかで、ムクは無表情のまま一言も発することはなかった。
「やれやれ、随分と元気なもんじゃ。それじゃあ、相手をしてやるとするか。三人まとめて・・・かかってきなさい」
ソウカクサタンコールも足場を確保すると、緩やかに構え、余裕の微笑で三人の異界人と対峙した。
静かだが激しい闘気が全身を包んだ。
イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。
ジョンブルジョン
ハルル チートスキル『破壊神』
ぺティ チートスキル『剣聖』
ムク チートスキル『???』
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