第154話 「勃発、四凶対異界人。チートスキルの脅威」(ストーリー)
ルゼリオ王国異界人管理局長オーリン・ハークが差し向けた、十人の異界人から構成される特務部隊が一角楼を目指す。
それと同時に、王都フォレスから一角楼に向かう一つの飛行物体があった。
その物体は、地上から見上げたとき、まるで十字架のように見えた。
オカルトに傾倒した思考の者なら、迷わず拝み、信仰や畏怖の対象としてしまうほどの不可解な物体だったが、その正体は、国王テンペリオスに仕える四凶の一人、『とどまることを知らないジョンブルジョン』が四肢の義手義足を変形させた飛行形態で空を飛び、西に向かっている姿だった。
両手を翼のように広げて飛翔するその姿は、正に空飛ぶ十字架だったのだ。
空を飛ぶジョンブルジョンは一人ではなかった。その背には、もう一人の四凶『老練たるソウカクサタンコール』の姿があった。
ソウカクサタンコールはジョンブルジョンの背に腰掛け、馬のように乗りこなしていた。
「ほっほぅー。これはすごいな。魔法でもないのにこれほど自由自在に空を飛べるとはのぅ。おまえさん、なかなかその手足を使いこなしとるな」
全身に高空の冷たく強い風を受け、ソウカクサタンコールは上機嫌に笑う。
「ソウカクサタンコール殿、あまりはしゃがないでいただけるか?下手をすれば落ちてしまうぞ」
本来、ジョンブルジョンの飛行形態は自身のみの一人用で、背に人を乗せての移動は想定していない。そのため、小柄な老人とはいえ人を乗せて飛行することに不安を抱えていたのだ。
「はっはっは。なーにを言うておるか。わしが空から落ちたぐらいで死ぬものか。着地の瞬間に受身を取ればなんも問題ないわい」
「まったく・・・気楽なものだ。こっちは前にも背中にも気をつけねばならんというのに・・・」
能天気なソウカクサタンコールの言葉に、ジョンブルジョンは深くため息をついた。
「しかしソウカクサタンコール殿、一つ疑問なのですが、なぜ姫のおられる中央都市グランドルではなく、一角楼に向かうのですかな?陛下の手紙を届けるのであれば、真っ先に姫の元へ向かうべきではないのですか?」
「なにを言うとる。寝返るというのであれば、四凶がその面を揃えておらねば、説得力がなかろう。そのためには一旦合流する必要があるんじゃよ」
「確かに、いくら四凶の長のソウカクサタンコール殿が出たところで、一人であれば独断の暴走と思われかねませんな」
「そういうこっちゃ。それに、目的はもう一つあるぞ」
ソウカクサタンコールは口角を上げて人差し指を立てる。
「もう一つ?それはなんですか?」
「オーリンの戦力を分散させる」
「は?」
「考えてもみろ、オーリンは陛下を廃したいと望んでおる。しかし都合が悪いことに、その陛下の側には、常に四凶の誰かが仕え手出しが出来ん」
ジョンブルジョンは黙って頷く。
ソウカクサタンコールは続ける。
「だがこの度、一角楼に四凶の二人が出向き、さらにそこに、残った二人が合流するために王都を出る」
「確かにこれはオーリンにとって好都合ですな」
納得して、ジョンブルジョンは感心した。
「うむ。そうなれば、オーリンはこれ幸いと、目の上のタンコブである我らを消すために戦力を出すはずだ。それも、四凶を討つためにとびきり強力な連中をな」
「しかも、一角楼には六姫聖やサイガ一行といったオーリンの今後の計画に邪魔な連中が揃っている」
「一網打尽とするには実に好都合。じゃろう?」
「そうですな。そうなればかなりの戦力が派遣されることが予想できます」
「そしてそれらオーリンから派遣された連中を無力化させれば、オーリンの戦力を大幅に低下させることが出来る」
「さらに、姫の信頼も得ることができるじゃろうな」
「なるほど。つまり、我々が囮となって敵をひきつけ、さらにその囮で敵を討滅するということですか」
「そういうこっちゃ。ま、実力の伴ったわしらにしか出来ん作戦じゃな」
作戦の概要を知らされ、ジョンブルジョンには一つ気になることがあった。
「これはソウカクサタンコール殿の考えで?」
「いいや、姫の側におるあの六姫聖の娘っ子の案じゃ」
「なんと、あの女、今回の騒動に気付いているのですか?」
「うむ。その上で、秘密裏にわしに話を持ちかけてきおった。王の心中も察して読みきってな」
「なんと・・・」
目的のためには主君すら欺くその非情さに、ジョンブルジョンはおぞましさを感じていた。
◆
ソウカクサタンコールとジョンブルジョンが計画を確認しつつ西に向かう姿は、地上からはまるで空を飛ぶ十字架のように見える。
そしてその姿は、同じく一角楼を目指す、異界人十人の集団、特務部隊の中の一人に目撃されてしまった。
「おい!隊長!空見てみろよ空。なんかいるぞ!」
空を飛ぶ十字架を見つけた特務部隊の一人、ハルルが先頭を自身の足で走る隊長に声をかけた。
ハルルの発言に、特務部隊全員が空を見た。
「なんだ、十字架?魔物か?シュドー、確認できるか?」
先頭を走る隊長の男が、部隊中ほどを大型バイクで走る金髪、隻眼の男、シュドーに尋ねた。
「おうよ、まかせな!」
シュドーと呼ばれた男は大声で応じると、右の手に金鎚を出現させた。チートスキル『無限武具精製』のためのツールだ。
「そらよ!」
懐から小さな金属板を取り出し、金鎚で叩くと、金属板は瞬時に双眼鏡に変化した。
造りだした双眼鏡を目に当てると、シュドーは空を飛ぶ十字架を見た。
「どうだ、何かわかるか?」
隊長がシュドーに尋ねる。
「なんてこった、ありゃあ人間だぜ。人間が手と足からジェット噴射で空を飛んでやがる」
「人間だと?手足からのジェット噴射ってことは・・・まさか、四凶のジョンブルジョンじゃないか?こんなところでなにを・・・」
シュドーの答えに、隊長は心当たりがあった。義手義足を装着し戦闘を行う四凶の存在は、相対したことはなくとも、音に聞く。その特徴が、シュドーの言う空飛ぶ十字架と一致するのだ。
「隊長殿、王の側仕えの四凶が何の目的もなく出てくるとは思えない。おそらく行き先はわれらと同じ、一角楼だろう」
思考する隊長に、後方から騎馬で近づいた漆黒の甲冑を纏った女が声をかけた。
「そうか。何の目的かはわからんけど、四凶同士で合流されると厄介だな。おい、シュドー、あれを撃ち落せるか?」
隊長は再びシュドーに尋ねた。
「楽勝だよ。そーら、よいしょっと!」
新たに取り出した金属板をシュドーが金鎚で叩いた。澄んだ金属の音が響くと、金属板はロケットランチャーへと変化した。『無限武具精製』は、本人が知る武器ならどんなものでも精製できるのだ。
「追尾機能付きの特別製だ!いくぞ、馬の奴等は離れてろ。馬がビビッちまうぞ!」
シュドーに従い、騎馬の数名がシュドーのバイクから離れる。
「そら、落ちろや!」
ロケットランチャーが発射された。曲線を描きながら、飛行するジョンブルジョンへと弾頭が突撃をしていく。
◆
「お、おい!なんだあれは!?なにかきてるぞ!」
地上から迫る飛来物を察知し、ジョンブルジョンは飛行を中断し、空中で停止した。下方に目を凝らし飛来物を確認する。
「ろ、ロケットランチャーだと!?くそ、異界人の特殊技能か!」
ジョンブルジョンは迎撃の体勢をとった。左手を構築魔法珠でグレネードランチャーに変化させると、飛来するロケットランチャーに撃ち込み相殺した。
激しい衝撃波が空中の四凶二人を襲う。
「く、なんて衝撃だ・・・高度が維持できん!ソウカクサタンコール殿、仕方ないが、地上に降りるぞ!」
義足の機能を損傷させたジョンブルジョンが地上に降下した。
その先には、十人の異界人たちが足を止めて待ち構えている。
意図しない遭遇戦が始まろうとしていた。
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