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第152話 「王都に渦巻く暗き邪心。オーリン・ハークはその牙をむく」(ストーリー)

 王都フォレスの玉座の間において、四凶の一人、ソウカクサタンコールが国王テンペリオスの密書を受け取り玉座の間を後にしたのと同じ頃。

 フォレスの別施設、科学技術開発局棟内の副局長室に二人の女の姿があった。共に技術開発局長ドクターウィルのもとで副局長を務める優秀な科学者で、異界からもたらされた科学技術を理解運用し、ルゼリオ王国の発展に努める科学者だ。

 金髪の眼鏡をかけた小柄の女がドクターギア。機械に関する研究開発を得意とする。

 青髪で背の高いモノクルの女がドクターワット。生物学を得意とする。


 副局長の二人は葛藤していた。向かい合い、沈黙し、どちらかが口を開くのを、同じ考えを逡巡させながら重い時間を過ごしていた。

「・・・どうするんのよ、ワット?」

「どうすんのって、あんたはどうなの?人に聞く前に、自分の考えをおっしゃいなさいな」

 沈黙を破ったドクターギアの問いかけに、ドクターワットは青く長い髪を指でいじりながら返した。

 二人は同じ立場だけあって、お互いに忌憚のない言葉遣いで意見を交換する。


「私は・・・正直まだまだドクターウィルから学びたいことは多いわ。だけど、このままじゃ、いつまでも助手のままよ。研究材料だって、お下がりのものしかもらえない。私は独立して自分の研究がしたいの」

 ギアは力強く主張した。

「それは私だって同じよ。だけど、私たちの知識や応用力はまだまだドクターウィルに遠く及ばない。この程度の誘惑で学びの機会を棒に振るのは懸命ではないわ」

 重々しく口を開くドクターワット。その手には一枚の紙が握られていた。


 ワットの握る紙には、二人に対する謀反への誘いの文が記されていた。

 差出人は『異界人管理局長オーリン・ハーク』。国民に秘匿された影の存在でありながら、そこに有する異界人という人材で王宮内でも絶大な存在感と影響力をもつ異界人管理局の長官を勤める人物だ。

 オーリン・ハークには、かつてより黒い噂が絶えなかった。それは、管理する異界人の数に比例してその影響力、発言力が肥大したオーリンは自身を王を凌ぐ存在だと誤認しているという話で、近いうちにその王座を簒奪する動きに出るだろうというものだ。

 そして今、噂がその手紙によって真実となったのだ。


 オーリンからの手紙には、謀反の内容が書かれていた。

 それは、蜂起と同時に王及び親王派を一掃する。その際、真っ先に標的となるのが、四凶、ハンニバル、ドクターウィルの六人で、以上の六名の投降は受け入れることはなく、必ず拘束。最悪の場合抹殺する。という内容だった。


「・・・」

「・・・」

 二人の間にまた沈黙が生まれた。

 頭上には、この世界で唯一、科学技術開発局に許された蛍光灯が二人を照らす白い光を煌煌と放っていた。

 ワットが手紙を握る手に無意識にわずかに力を込めた。手紙のつぶれる音が静寂の部屋に響く。


 ◆


「どうだ、王の精神に侵入は出来たか?」 

 王都フォレスの科学技術開発局とはまた別の棟。異界人管理局の一室、局長オーリン・ハークの部屋で、そこの主オーリンは、執務用の椅子にふんぞり返りながら、王の精神への攻撃を行った特殊能力スキルを有する異界人に成果を尋ねた。

 

 異界人は頭を振った。

「だめです。今日は王の体調がいいため、精神防御が強くて侵入が出来ませんでした」

「そうなると厄介だな。王の正気の時間があれば、対策を一気に進められかねん。・・・時期がきたかも知れんな」

 白髪のオーリン・ハークは意を決したように呟いた。強く頭を掻くと立ち上がって、通信用の魔道具に語りかける。

「特務部隊、集合だ」


 数分後、異界人管理局長官オーリン・ハークの執務室には、十人の異界人が現れた。

 集合した異界人十人は、全員、特殊能力スキルを有する。更にその能力は他の異界人の特殊能力よりも特別なものだった。ゆえにこの十人は特務部隊と呼ばれていた。


 中央に立つ、部隊長の男が一歩前に出た。

「いよいよですか?オーリン殿」

「ああ、脆弱な王を廃し、真の力を持つ俺がこの国をいただき、果ては大陸も支配する。そのために、最大の障害となる姫に組する一党を排除する」

「で、何をすればよろしいのかな?」

「お前たちは西の地の一角楼に向かってもらう。今、彼の地には六姫聖と四凶がいると諜報部からの情報があった。これに乗じ、一角楼を封じ、親王、親姫の連中を殺して戦力を削ぐ。そのためにはお前たちの能力が適任だ」

 オーリンは邪悪な企みを語り、邪悪な笑顔を見せる。

 それを受け、特務部隊の隊長も口角をゆがめて笑った。


「そうか。それじゃあ、全て殺してしまって、構わんな?」

「ああ、皆殺しにしてやれ」

 オーリンの命を受け、隊長は踵を返すと、部隊を引き連れて出口に向かう。

 扉に手をかけたところで、隊長の男がだれにも聞こえない声で呟いた。

「へへへ・・・サイガ待ってろよ」


 ◆


 科学技術開発局。副長官の二人が人知れず悩み続けるその上階、開発局長官室兼研究室では、長官のドクターウィルが室内に並べられた無数のモニターを睨みつけていた。

 その画面には、副長官室、異界人管理局、玉座の間が映し出されていた。

「どうやら、ぼちぼち動き出す頃か。思ったより早かったな。やはり、特異点の影響が大きいか・・・」


 モニターに映しだされた映像は、全て隠し撮りされたものだ。

 ドクターウィルは、王都中の重要な地に無数の小型カメラを仕掛け、常に情報を収集している。今回は、そのいくつかに数日前から国内の変動の兆しとなる会話や不穏な様子が映されたため、その動向に目を光らせていたのだ。


「やれやれ、わしにゃあ、誘いは無しか。まぁそうだろう、オーリンごときじゃ、わしは手に余るだろうからな。カカカッ」

 スケルトンキングの指で作ったマドラーで混ぜたコーヒーを飲みながら、皮肉を含んだ声で軽快に笑うドクターウィル。

 命を狙われる状況にあっても余裕を崩さないのには理由があった。

 それは、ドクターウィルにとって最も大切な、研究の材料、資料、結果。その他あらゆる情報が全てバックアップ済みなうえ、亡命の準備も万端に整っているからなのだ。


 ドクターウィルのこの行動は、国王テンペリオスは既に承知済みだった。

 ルゼリオ王国にドクターウィルが現れ、王国発展のためにその科学知識、技術で協力することとなったとき、その身のふり方を一切制限しないという盟約を交していたのだ。

 ウィルの行動と人格は部下や周囲から冷血といわれる。しかし、科学者という人種は、時に研究を優先させ、感情を失うことがある。ドクターウィルはその最たる人物であり、長年身を寄せた国王テンペリオスに上を抱くことはなかったのだ。

「さーて、それじゃあ、夜逃げの荷物をまとめるとするかね」

 コーヒーを飲み干すと、ドクターウィルは行動を開始した。立ち上がると重要な資料を鞄へ放り込んだ。





イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。


ドクターウィル

挿絵(By みてみん)


オーリン・ハーク

挿絵(By みてみん)


ドクターギア

挿絵(By みてみん)


ドクターワット

挿絵(By みてみん)

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