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第150話 「全力の大決戦。集う力が悪を討つ!」(バトル)

 侵食する弱化魔法を強制的に『蹂』の状態で押さえ込んだサイガの体は、一歩踏み出すごとに肉体を傷つけ、地面に地を滴らせる。しかし、怒りに奮い立つサイガの目は怨敵のゲイルを捕らえ逃がすことはない。

 ゲイルは、皮肉なことに蛇に睨まれた蛙のように体を硬直させていた。


「くそっ!使えねぇヤツラだ!こんな有利な状況でなにやってやがる!」

 体を硬直させながらも、ゲイルは手下に対して怨嗟の言葉を吐く。

 事実、副官のレグオンを始め冒険者達は、弱化魔法と強化魔法の併発という状況下において、サイガたちに決定打をあたえられることなく副団長の戦力無効化と瀕死の重傷の冒険者を数人出すという、お粗末な状態に陥っているのだ。ゲイルが嘆くのも当然だった。


「へっ、だがよ・・・」

 ゲイルが下方に手を伸ばした。痛みに耐えて顔を覆っていたセナの髪を左手で掴むと、引き上げて首に刃を当てる。

「こうすりゃどうだ、十億よ!?そっから一歩でも近づいてみろ、このねえちゃんを救うどころじゃないぜ!」

 追いつめられた悪党らしく、ゲイルは人質をとった。

「うう・・・サイガ・・・ごめん・・・」

 血の流れる口から、微かな声でセナが悔いる言葉を漏らした。目からは涙がこぼれ落ちる。

 ゲイルの行動とセナの姿に、サイガの内の怒りは更に激しくなり、眉間の皺は深さを増す。

「おっと、恐ぇ顔しても無駄だぜ。てめぇが妙な技を使って体を動かしても、五芒血界陣は健在だ。その距離を詰める前に首が飛ぶぜ!」

 刃が首筋で光る。


 ゲイルの言葉どおり、二人の距離は直線とはいえ十メートル以上離れている。一歩一歩を踏みしめながら進む事しかかなわない今のサイガでは、この距離は決して覆ることのない現実となって立ちはだかっていた。

 サイガは歩みを止め、両手の武器を手放した。怒りに狂った『蹂』の状態とはいえ、目的を見失うことはなかったのだ。

「ようし、大人しくなったな。おい、てめぇら、あいつを囲め。全員で一気にやっちまえ!」

 残った冒険者六人が、武器を手放し怒気を放ちながら立ち尽くすサイガを囲んだ。


「お、おい、お前ら、話を進めるんじゃない。こっちにも人質がいるんだぞ。いいのか?撃っちまうぞ!!」

 着々と進むサイガ殺害のための包囲陣に、レグオンをおさえていたアールケーワイルドがたまらず声を上げた。

 必死のアールケーワイルドからの呼びかけに、レグオンが肩を揺らして反応し、ゲイルが視線を向ける。

「無理だな」

「な、なんだとぉ?」

 ゲイルは余裕の笑みで応えた。その言葉に思わずアールケーワイルドは動揺を見せる。

「もしレグオンを撃てば、おまえは人質という後ろ盾を失う。そうなりゃ、サイガの次はお前を囲んで殺すだけだ。あとわかってんだよ、サイガと違って、お前に出来るのは引き金を引くのが精一杯だろ?今は大人しくレグオンとお互いを縫いとめておけばいいんだよ。わかったら黙ってそこで見てな!」

「くっ・・・見抜かれていたか・・・良く見てやがるぜ」

 ゲイルの指摘どおり、アールケーワイルドの警告ははったりだった。レグオンと共に二人は膠着の状態に戻る。


「そんなら、ウチが邪魔させてもらうで」

 声と共に、サイガを囲む冒険者たちの側にシズクヴィオレッタが舞い降りた。

 着地と同時にその刀の優雅な舞は、サイガの後ろの冒険者二人の首をはねる。

「な、なんだと!?きさま、なぜ動ける?」

「あんたと同じで、卑怯な手使たんや」

 ゲイルの怒りの問いに、シズクヴィオレッタは笑って答えた。

 さらに滑らかな足捌きで、サイガの左右と前方の四人の冒険者の間を縫うようにすり抜ける。

 その動きはあまりに鮮やか過ぎて、冒険者達は仲間が殺された直後であるにもかかわらず、対応することが出来なかった。

 シズクヴィオレッタが納刀し、鍔の音が鳴る。直後、四人の冒険者は複数の肉片に姿を変えて崩れ落ちた。


「露は払ったで。シャノン、次はあんたの番や!」

 活気に満ちたシズクヴィオレッタの声を受けて、シャノンが詠唱を終えた直後の補助魔法を発動させた。

 女神をあつらえた銀の杖から鈍色の光が迸り、一角楼麓の広場、五芒血界陣内に広がると、身体弱化の魔法を無効化した。

 『蛮神の地団駄』(ばんしんのじだんだ)。魔法の効果を強制的に消滅させる特級魔法だ。

「ごめんなさい。強化魔法は解除できませんでした。あと、弱化魔法の無効化も一時的です。すぐに決着を付けてください!」

 シャノンが詫びる。

 如何にシャノンの魔力が強く、発動させた魔法が特級とはいえ、ゲイルが使用している禁術の強制力を超えることは出来なかった。


「な・・・一時的とはいえ、禁術を無効化するだと?馬鹿な、そんなことが・・・」

 思いもしなかった事態に、ゲイルは動揺する。それだけ禁術の威力は強いのだ。

「やっぱり、あんた気付いてへんかったんやな。あんたの弱化魔法、未完成やで。見てみ、魔法陣が四角や」

「なんだと、人柱が足りない・・・一体、いつの間に・・・?」

「最初からや。ちょっと前にウチが一人斬っててん。ま、たまたまやけどな」

「くそぉおおおおお!!」

 シズクヴィオレッタから語られる真実に、ゲイルは目をむき歯噛みする。


 ◆


「リシャクちゃん、人柱を倒して。弱化の魔法を止めるの!」

 一時的に弱化から解放されたエィカが、リシャクに呼びかけると同時に弓に矢を番え、即射った。

 風の精霊によって加速した神速の矢が、人柱の一人を射抜いて陣を崩す。

 リシャクも口から、金属並みの硬度と弾丸並みの飛行速度を誇る『ダンガンコガネ』を撃ち出し、もう一人の人柱を撃ちぬいた。

「よし、これで人柱は二人。もう陣は組めないぞ」

 二人の狙撃により、弱化魔法は完全に封じられた。


 ◆


「くそっ、狙撃の強ぇやつがいたか!陣が崩れやがった!だがまだだ、強化の陣は生きて、俺の手には人質。サイガ、いくらお前が素早く動こうが、動いた瞬間に俺の剣はこの女の首を斬るぞ!」

 セナとその首にあてる剣を強調すると、ゲイルは徐々に後退を始めた。逃走を図ったのだ。

「おい、ゲイルどこへ行く?俺はどうなるんだ!?」

 目を疑う光景に、レグオンは思わず怒鳴った。

「すまんなレグオン、お前の尊い犠牲は忘れんぞ」

 下卑た笑顔でゲイルは返した。


「お前らも全員そこを動くなよ。少しでも動いたら首を斬るからな」

 魔法陣内の全ての視線がゲイル一人に集中する。しかし、そんな目をものともせず、ゲイルはサイガとの距離を広げる。

「じゃあな。最後に笑うの俺だったようだな。ぎゃはははは・・・ぐぁあ!」

 ゲイルの不快な高笑いは、同じ口から発された悲鳴で途切れた。


「ぐあああああ、な、なんだ・・・これは・・・」

 ゲイルの悲鳴は突然右肩を襲った激痛によるものだった。

 視線を移すと、そこには金属の突起物が肩から飛び出していた。剣の切っ先だった。

「こ、この剣は・・・ティル、てめぇかぁああああ!」


 ゲイルを襲った剣はバルバロッサだった。

 ティルがバルバロッサを握り締め、後方から肩を貫いたのだ。

「ぼ、僕だってやってやる・・・女の人を傷つけるなんて・・・絶対許さない!」

 いまだに震える手を勇気で御し、ティルは決意の言葉を述べる。

『いいぞ、ティル。私の力を貸してやる。さあ、思いっきり上に振りぬけ!』

 主の奮起にバルバロッサは喜びの声を上げ、有する力の一つ『カイザーバーン』を発動させた。

 バルバロッサの刃が熱を帯び赤く変色、発光する。


「あ、熱い!な、なんだ・・・剣が、燃えてやがる!?」

 バルバロッサの姿に、ゲイルは驚愕する。

「ぬぅわああああああ!」

 気合と共に、ティルがバルバロッサを振り上げた。

 熱された刃が肩上部を斬り開く。

「ぎゃあああああ!」

 肉、骨と切断され、ゲイルの右腕は脇の肉でかろうじてつながっている状態になった。剣は地面に落ちていた。


 ティルの攻撃により、ゲイルの左手が緩んだ。セナが自由を取り戻した。

 解放されたセナは即座に行動に出た。右肘でゲイルと突き飛ばすと、自身も前方に離脱する。

 セナの突きにより、ゲイルがバランスを崩す。


 状況の急速な変動を見とめたサイガが、ゲイルに向かって急襲を仕掛けた。限界を超えていた体が更に悲鳴を上げる。

 接近するサイガを迎撃しようと、ゲイルが残された左腕を前方に構える。

 その腕を、サイガは真っ先に攻撃した。忍者刀が触れた瞬間に肘から先が斬り刻まれ消滅した。


 ゲイルが左腕の消滅を認識するより早く、サイガの刃はその本体に到達した。

 一瞬にも満たないほどの短い時間で、怒りの『蹂』の状態の刃はゲイルの全身を刻んだ。

 そこに慈悲はなく、ゲイルは右目、右耳、口の尋問に必要な最低限の部位以外を回復不能なほどに刻み込んだのだ。

 数瞬の後、弾けるように血を撒き散らし、毒蛇ゲイルは地面に倒れた。

 怨敵ゲイルと同時に、全てを出し尽くし完全に限界を迎えたサイガが無言で倒れた。

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