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第149話 「発動!怒りの戦闘モード。乱れ舞う刃は悪漢を刻む!」(バトル)

「おい、レグオン、一体何があった?あの野郎、何しやがった!?」

 両手足を失って地面に転がり、絶叫をあげながらもだえ続ける二人の冒険者。そして、それを鬼神の表情で見下ろしながら二刀を握り肩で息をするサイガ。

 その姿に冷たい汗を背中に感じながら、ゲイルは状況を見ていたであろう副官のレグオンに問いかける。

「わ、わからん・・・」

「なんだと?」

「わからん、何をしたのか全くわからん!あいつが剣を抜いた瞬間、二人の手足が消えた」

「まさか、剣を抜いた瞬間に手足を斬ったってのか?馬鹿な、魔法で弱化してんだぞ、そんな芸当が・・・」


 動揺を隠せないゲイルとレグオン。二人の会話が終わる前に、サイガが一歩踏み出した。

 その一歩は重い一歩だった。身体弱化の魔法は単純な歩行にすら影響を及ぼしていた。

「ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・ぐぅううう!」

 前に向かって踏み出すごとに、サイガの体は強い疲労感に襲われる。弱化した体力にとってその肉体と装備は過剰な重荷となっていたのだ。

 しかし、その苦しみをものともせず、サイガは更に歩を進める。痛みと苦しみを怒りが凌駕していた。


 ◆


 サイガにとって、セナは希望だった。

 見知らぬ世界に降り立ち、最初に出会い、受け入れられ、数日を共に過ごした。病床の母の看病をしつつも常に輝くように明るく振舞い続けた彼女に、光のようなまばゆさと太陽のような暖かさを感じていた。

 村を出て旅を続ける中でも、その生来の明るさは、先行きの見えないサイガに今を生きる強さを与え続けてくれていた。

 そんなセナから笑顔を奪い、悲しみの声を上げさせたゲイルに、サイガはこれまでに無い最大の怒りを抱き、その怒りは『蹂』の状態を強制的に発動させた。


 『蹂』の状態の最大の目的は、敵を生かさず殺さずの状態に追いつめることにある。

 限界まで追いつめられた敵は、尋問等の際、肉体の限界による精神的苦痛から解放を求め口を割る。それを促すための状態なのだ。

 その効果は、夕刻に繰り広げられたミコとの死闘で証明されている。

 サイガが発動させた『蹂』の状態は、身体能力でサイガを上回るはずのミコを瀕死の重傷にまで追い込んだ。

 『蹂』の状態は、自身の理性と肉体の限界を強制的に取り払うことで、理性が働くならば躊躇うような手段や選択を下す。

 そして肉体も、限界を迎えようが、目的を達成するためには、例え後に体が崩壊しようとも止まることなく戦いを行うのだ。

 

 サイガは身体弱化の魔法のなか、怒りによって発動した『蹂』の状態で戦闘を可能としていた。しかしその代償は大きく、一挙手一投足に甚大な被害が発生していた。

 進むために踏み出す足の筋肉は常に断裂を続け、二刀を握る手は爪が捲れ上がる。

 骨も軋み、血管はちぎれ、視界がかすむ。

 体中のいたる箇所で限界を超えた代償が発生していた。


 ◆


「お、お前ら、あいつを止めろ!これ以上近づけさせるな!」

 限界を超えながら徐々に接近するサイガの姿に、ゲイルは恐怖を覚えた。震える手で剣を握りなおすと、前方を指し部下に命令を下す。

 ゲイルの命に、冒険者達は二の足を踏んだ。サイガの殺気はそれほど凄まじく、さらに地に転がり呻き続ける冒険者二人がその進路を阻むことの愚かさを結果で教えていたからだ。

「バカヤロウ!ビビるな!強化と弱化の魔法が効いてるんだ。油断しなけりゃ、あいつらみたいになることはねぇ!」

 

 叱責され、冒険者達が動き出した。

 四人がそれぞれ武器を手に取り、進路を塞ぐ。

 ただでさえ鋭い目を、サイガは怒りで更に鋭くさせ、一人を見据えた。


 目が合った冒険者が、たまらず攻撃を仕掛けた。両手で握り締めた槍を顔面に向けて突き出す。

 身体強化の魔法の効果は冒険者の全身で発揮されており、それは動体視力、目においても例外ではなかった。

 そして、その強化された動体視力は、自身にもたらされた悲劇を克明にとらえた。


 攻撃を仕掛けた冒険者を連続で悲劇が襲う。

 まず、突き出された槍の穂先が忍者刀に斬り捨てられ、戦力が失われた。

 続いて、槍の柄を掴むサイガ側の腕の手首から先が槍もろとも魔法剣で切断される。

 そこから、忍者刀、魔法剣、忍者刀、魔法剣と交互に腕を切り刻みながら、腕、肘、二の腕、と斬撃が腕を上ってくる。

 

 肉体の限界を超えたサイガの連続の斬撃は、わずか一秒にも満たないほどの時間で繰り出された。

 しかし、強化された動体視力は、一瞬の惨劇を永遠にも思えるほど濃密で圧縮された時間で映し出す。

 冒険者は自らの体が消滅していく過程を、目をそらす暇もなく強制的に視認させられた。

「ひ、ひぃいいいいい!う、腕がぁあああああ!」

 冒険者が状況を理解したのは、その腕が肩まで刻まれ消滅したときだった。

 数秒送れて恐怖がその口から飛び出した。


 右腕を失った冒険者が傷口を庇うために左手を患部に伸ばす。しかし、それはかなわなかった。

 左腕は、サイガが右腕を刻む際についでに斬り落としていたのだ。意識外の出来事に、左腕はいまだに槍を掴むような動きを繰り返していた。

「ひぃ、た、助けてぇえええ!」

 両腕を失った冒険者が、踵を返し逃げ出そうとしたが、サイガに後頭部を向けた瞬間、首にクナイが打ち込まれた。

 クナイは頚椎に深く食い込み、冒険者の神経を、首を境に上下に分断した。

 制御を失った足は、もつれ、絡み、冒険者は顔面から土に滑り込んだ。


 体の殆どの機能をわずか数秒で失った仲間を見て、残る三人の冒険者が構えを威嚇から攻撃に転じさせた。

 三人の視界が黒く染まった。

 「煙幕?」と冒険者達は疑ったが、それは違うことを眼球を襲った激痛が教えてくれた。

 冒険者三人は、同時に両目を横一文字に切り裂かれ、揃って失明したのだ。


 突然の訪れた暗闇と痛みに、冒険者三人は揃って武器を手放し、手を顔にあてがう。

 サイガは再び刃を横一文字に走らせた。

 傷口を覆う手が手首から斬り離され宙を舞う。

 両手首に新たに激痛が生じるが、視認することがかなわない。冒険者達は叫び声をあげながらうずくまり、「目」、「手」と失った部位の名を呼び続けた。


「ば、ばかな・・・速い、速すぎるぞ!あいつには弱化魔法が効いていないのか?」

 容赦のないサイガの凶刃に、レグオンは震えた。敵を目の前にしながら恐怖の言葉が漏れ出る。

「バカヤロウ、良く見ろ。魔法は効いてる。無理やり体を動かしてやがるんだ。あいつ、またおかしな技を使ってやがるんだよ!」

 サイガの『蹂』の状態に、ゲイルは見覚えがあった。

 ほんの数十分前、一対一で対峙した際に見せた『律』の状態による意識と肉体の調和。それによる戦闘力の向上だ。


「レグオン、やれ!ヤツは強引に戦ってやがるんだ。今のお前なら勝てる!やれ!いけ!」

「あ、ああ!」

 団長ゲイルの怒号に、レグオンが槍を握り攻撃を決意した。全力を込めた突撃のために一撃に意識を集中させる。

「おっと、それをさせるわけにはいかんな」

 声と共にレグオンの後方から重い金属音、拳銃の撃鉄を起こす音が聞こえた。次いで後頭部に冷たい感触、金属が触れた。

「武器を手放して、両手を挙げろ。おかしな動きをすれば、即『ズドン!』だ」

 声に従い、レグオンは武器を落とした。観念した顔で両手を挙げる。


「きさま、いつ目を覚ました?」

「残念だったな。ワシは眠りが浅いんだ。あの程度の衝撃じゃあ、十秒も眠れんぞ」

 声の主はアールケーワイルドだった。

 レグオンに地面に叩きつけられたアールケーワイルドは、数秒後には目を覚まし状況の流れを伺っていた。そして、黒狼軍一味の目がサイガに集中した時を狙ってレグオンの後ろを取ったのだ。


「さあ、厄介そうなのはおさえたぞ!サイガ、思いっきりやってやれ!」

 アールケーワイルドの応援を受け、サイガは全身を痛めつけながらも決着のために歩を進めた。

 怒りに燃え上がる忍は終始、言葉を発さないままだった。


イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。


『蹂』の状態で前進するサイガ

挿絵(By みてみん)


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