第148話 「セナを襲う陵辱の蛇舌。サイガ、怒りの抜刀」(ストーリー)
「はっはぁ~!ティル、ここにいやがったか!」
テントを覗き込むと同時にゲイルは目的のティルを見つけ、歓喜の声を上げた。
身体強化魔法により向上した筋力は簡素な作りのテントを容易に引き倒し破壊する。二人の姿が衆目にさらされた。そこには、ゲイルに怯え縮こまるティルとそれを身を呈してかばうセナがいた。
一歩、一歩と、蛇が獲物を狙うようにゲイルはティルに歩み寄る。縮こまり、怯えるティルには、その足音が蛇の舌の音のようにも聞こえた。
「ひ、ひぃいいいい」
セナの影でティルが声を震わせる。
「ちょっと、情けない声出さないでおくれよ。あんた男だろ?」
「そのねぇちゃんの言う通りだぜティル。腹くくって、首を差し出しな」
舐めた剣を握り直し、ゲイルは切っ先をティルに向けた。
それを見てさらに怯えた声をあげる。
あまりのティルの怯え具合にセナは顔をしかめると、正面に向き直りゲイルをにらみあげた。
「お?なんだ、ねえちゃん?負けん気の強ぇ良い面構えだな。そこの小僧よりよっぽど男らしくて勇ましいぜ」
「はん、あんたみたいなのに誉められても嬉しくないよ、この蛇親父」
セナのこの一言で、ゲイルの顔から笑みが消えた。生気の失せた暗い目になると、直後、セナの顔を蹴りあげる。
「ぎゃ!」
蹴りの衝撃でセナの体がわずかに浮き上がってのけぞり、ティルがそれを支えた。
すぐに体勢を立て直したセナだが、口からは血を垂れさせる。
「セナ!」
たまらずサイガが名を叫んだ。
ゲイルが視線をサイガに向ける。
「うるせぇのがいるな。おい、誰かそいつを黙らせとけ」
ゲイルの命を受け、冒険者二人がサイガを挟むように近づくとそれぞれが首筋に刃をあてがった。
「おい、ねえちゃん。威勢の良いのは結構だが、立場をわきまえな。てめぇらの生殺与奪は俺の機嫌ひとつだ。つまんねぇ態度とったら、痛いじゃすまねぇぞ」
血を流しながらも毅然として気勢を崩さないセナ。
そんなセナと相対して、ゲイルはなにかに気づき顔を近づける。
「ほぅ、ねえちゃん、ずいぶん綺麗な顔してやがるな。なかなか見ねぇぐらいのべっぴんだ」
ゲイルは感心して、思わず生唾を飲んだ。
本人が美醜に拘りがないことにつけ、美の化身であるナルや美男美女ばかりのエルフであるエィカと行動を共にしているため話題にならず埋もれがちだが、セナも容姿は美女のそれなのだ。
ゲイルはしゃがみこみ、血にまみれた顎を指で持ち上げると、その整った顔を全方位からなめ回すように眺める。
「へへ、いいな。見れば見るほど綺麗な顔だ。その上、気も強いときてる。こいつぁ楽しめそうだ」
ゲイルの口が大きく開き、舌が顔を見せる。
その蛇さながらの一連の仕草に、気の強いセナですら、鳥肌が全身を駆け巡るほどに不快感を覚えた。
「な、なにをするつもりだい・・・?」
「さぁてね、なんだと思う?」
セナの質問にゲイルは質問で返す。
その答えを探るためにセナが思考をめぐらせるが、直後、ゲイルの手が胸を鷲づかみにし、停止させた。
「こういうことだよ。ねえちゃん」
「な、なにを・・・」
野蛮な行動に、セナは言葉を失う。頭は混乱し、顔は嫌悪に歪んだ。
◆
「きさま・・・!」
瞬時に怒りが頂点に達したサイガが前のめりになるが、冒険者が首筋の剣に力を込め無言で牽制する。
身体弱化と強化の効果はサイガは充分理解している。その開いた戦力差は冷静にサイガの動きを止めさせた。
◆
「く、くそ、ふざけるな!やめろ!やめろ!ひ、ひぃっ」
おぞましい手が胸を掴み、湿った舌が首筋を舐め上げる。
セナは思わず目を閉じて拒絶の意思を示す。
平素のセナなら、力の加護に任せてゲイル程度の体格は容易に引き剥がせる。だが、弱化魔法は加護にもその効果を及ぼしていた。
セナはこれまでの生涯の中で感じたことがないほどの脱力感に襲われていた。
貞操を侵されそうになるセナの後ろで、ティルはいまだに震えていた。
今、正にその目の前で、一人の非力な女性が劣情によって汚される最中にありながら、青年は手を震わせ怯えた目で、凝らすでも逸らすでもなく、なすがままの状況を見ていた。
『おい!ティル!なにをしている!私を握れ!振れ!この状況を黙って見ているつもりか!?こんなことを許すつもりか!?』
バルバロッサが今までにないほどの怒号を発する。主と見込んだ男の醜態と眼前の悪行で、サイガ同様に怒りが頂点に達しているのだ。
「く・・・くそ・・・恐い、恐い・・・けど・・・」
恐怖に目を閉じながらも、ティルはバルバロッサを掴む手に力を込める。
『そうだ!勇気を奮い立たせろ。私が信じたお前ならそれが出来る!浴びせてやれ、カイザーライトニング!』
「ぎゃあ!」
バルバロッサの刃が青い雷を宿し、それを放とうとした矢先、ティルの手に激痛が走り、思わずティルはバルバロッサを手放した。
「バカヤロウ、いいところで邪魔するんじゃねぇよ」
激痛の正体は、ゲイルの剣だった。
ゲイルはセナを押さえつけ、その体を堪能しながらも、握った剣でティルの腕を突き刺したのだ。
「ぐ、ぎゃああああああ!」
ティルは絶叫した。ゲイルの剣には先端から毒を発する機構を有する。そこからティルの腕に毒が注ぎ込まれたのだ。種類は痛みを激化させる神経毒。患部は件の傷に加え、強い香辛料と焼けた鉄を押し当てられたような痛みに襲われていた。
「ひっ、ぐ、ああああああ・・・」
痛みのあまりに、ティルはうずくまってしまった。
『この男、そんなものまで・・・おのれ・・・この力が自由に使えれば・・・』
バルバロッサは、己が人の身でないことを呪った。
「そうら、お披露目だ!」
セナの肩を左手で抑え襟を右手で掴むと、ゲイルは服を強引に引き裂いた。
健康的な肌と下着が露になり、セナは悲鳴を上げる。
「い、いやぁあああああ!」
「お。いいねぇ、心地いい声だ。もっと聞かせてくれよ。そのほうが盛り上がるってもんだ」
女の悲鳴に興奮を覚える。ゲイルは真性の外道だった。
◆
今にも汚されんとするセナを、サイガは黙って見守ることしか出来なかった。
その内では怒りが嵐となって激しく渦巻き、暴れまわっている。
噛み締められた奥歯からは血が滲み、力んだ全身には血管が浮かび上がる。
だれの目から見ても『憤怒』の形相は明らかだった。
その様に、首筋に剣を当てる冒険者は、無抵抗のサイガに対して恐怖を覚えた。
◆
力尽くで押さえつけられながらも、セナは全力で抵抗した。
手足を大きく動かし、体を捻ら拘束から抜け出そうと試みる。
「おら、いい加減観念しろ。弱化した状態でどう抵抗しようが無駄だ!」
「ふ、ふざけるな!あんたなんかに汚されるなら、死んだほうがましだよ!」
「ああそうかよ、だったら、死にたくなるまでやってやる・・・よっ!」
ゲイルの右の拳がセナの顔に叩き込まれた。その衝撃で後頭部が地面で弾む。
「あ・・・ぐ・・・」
脳震盪で意識が朦朧となる。
さらに拳が数発顔を叩くと、セナは言葉を発することはなくなった。
圧倒的な弱者としての立場の精神が、抵抗を諦めさせる。
「へ、やっと大人しくなったか。おい、お前ら、何人かこっちに来てこいつを抑えてろ。俺が終わったら、次の相手をしてくれるってよ!」
ゲイルに応じた冒険者三人が下卑た笑顔でセナを囲んだ。見下ろす顔が悪魔の微笑みに見える。
「へへへ、マジでいい女だな」
「ああ、顔がはれてるのが勿体ねぇ」
「団長、やりすぎですぜ。口がつかえなかったら、楽しみも半減だ。ひゃひゃひゃ」
冒険者達は、これからのおこぼれに興奮を抑えきれずにいた。
「そんじゃあ、そろそろ本命といこうか!」
ゲイルの両手がセナの腰に伸び、ズボンにかけられる。力を込めて左右に開くと、音を立てて千切れ裂けた。
下着姿にされ、陵辱が現実として形をとり始めたことで、セナの頭の中を恐怖が支配した。
次いで、恐怖は心に侵入すると激しく暴れまわり、セナに最後の抵抗を試みさせた。サイガに助けを求め、喉が張り裂けるほどに声を発する。
「いやぁああああああ!サイガぁ!助けて!助けてぇえええええ!」
◆
悲痛なセナの叫びは、耳に届くと同時に、サイガの心臓を激しく躍動させ、血液を極限まで沸騰させた。
両手が腰の忍者刀と魔法剣に伸びた。
「てめぇ!」
「動くなっつってるだろ!」
サイガの反応に、冒険者二人は首に当てていた剣を動かした。しかしそれは不発に終わった。
「ぎ、ぎゃあああああ!」
「ひぃいいいいい!」
サイガの命を狙った冒険者二人は、苦悶の絶叫を上げて地面に落ちた。倒れたのではなく落ちたのだ。
その体は、二人揃って四肢が消失していた。
◆
「おいおいなんだぁ?情けねぇ声あげやがって。いいところなんだから集中させろよ、縮んじまうだろ」
届いた悲鳴に、ゲイルは動きを止めてサイガの方へ顔を向けた。
強化魔法の庇護の下、余裕綽々だったゲイルだったが、その光景に動きを止めた。
「な、なんだぁ?どういうこった?」
ゲイルは目を疑った。
そこには、鬼神のごとき憤怒の形相で二刀を構えるサイガと、両手足を失って地面に転がる二人の冒険者の姿があった。
あまりにも無惨な手下の姿に、ゲイルは目をむいた。
イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。
挿し絵がセンシティブなので、少し間を空けてあります。↓
襲われるセナ
激怒するサイガ
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