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第145話 「笑う卑劣なる冒険者。アールケーワイルド、怒りの鉄拳制裁!」(バトル)

 女神の彫刻をあしらった銀の杖の先端から発せられた光が、一角楼側の冒険者たちの傷を癒す。

 癒しの光を施したのは六姫聖のシャノン・ブルー。ミコ、クレアを一角楼に預けた後、怪我人の救護と支援に駆けつけたのだ。

 シャノンの癒しの魔法は重軽傷を問わず負傷者に施されると、その光は死者以外の全てを救った。それはほぼ一瞬の出来事だった。


 回復にいそしむシャノンの後方で、セナ、エィカ、リシャク。そしてシズクヴィオレッタは黒狼軍側の冒険者たちを制圧しつつあった。

 中級冒険者の集団だけあって、その実力と数に手こずりはしたものの、到着と共にシャノンにより施された防御魔法により大半の攻撃を半減無効化。さらには四凶シズクヴィオレッタの圧倒的な刀技により一刀につき一人と、冒険者は驚異的な速度でその数を減らしていた。

 それらの働きがあり、黒狼軍側の冒険者たちはレグオンを除き残すところ十人ほどとなっていた。


「よし、こっちは片付いたね。エィカ、リシャク。そっちはどうだい?」

「はい、こっちも終わりました。拘束完了です」

「こっちもだ。蜘蛛の糸でグルグル巻きだ!」

 セナに応えながら、子供の姿に戻ったリシャクが捕縛した冒険者たちを放り投げ積み重ねる。

 十人分の人の山が出来上がると、リシャクは仕上げに固まる唾液を大量に浴びせて動きを完全に封じた。


「うぇぇ、なんやそれ、気っ色悪いなぁ。あんた人間とちがうんか?」

 リシャクの行動に、既に納刀していたシズクヴィオレッタは嫌悪感を隠さず感想を発した。

「ふふん、そうだぞ。私は誉れ高き地獄の将、蠱毒の主リシャクだ。尊び敬うがいい」

「じ、地獄の将?そんなんが、なんでこんなところにおんのや?」

「こいつらと一緒にいると、色々楽しいんだ。強い上に見たことない戦いを体験できる。そして今日もお前らのような奇妙な技を使う強者と会えた。ほら、楽しいだろ」

 リシャクは屈託のない笑顔を見せた。

 幼い見た目に反して、悟ったような物言いに、外見だけでミコと同じような印象を抱いていたシズクヴィオレッタだったが、その印象を改めた。好奇心は強いが、そこに子供のような迂闊さがなかったからだ。


 ◆


 黒狼軍の副団長を務めるだけあって、レグオンの槍術は見事なものだった。

 近、中距離と、立ち位置によって巧みに用いる槍の部位を使い分ける。

 さらに決して勝利をあせって急所を狙うのではなく、決定的な一撃のために布石を置くような戦い方をし、攻める、退くを的確に切り替えていた。

「でりゃ!でりゃ!でりゃ!ぬぅうううう、ひらひら避けやがって、少しは大人しくしろ!」

 アールケーワイルドが大振りの拳を連続で繰り出すが、レグオンは鮮やかな足捌きで躱し、生じた隙を柄や穂先で攻める。

 脇腹、脛、上腕、胸と、致命傷ではないものの、アールケーワイルドの体には、多数の打撲や切創が刻まれた。


「くっ、どういうことだ?これだけ攻めて、どうして決定打が与えられない?」

 傷は増えるが消耗する様子の見られないアールケーワイルドに、レグオンは戸惑う。

「がっはっは、当然だ。ワシの体は四凶の中でも特に頑丈に出来とるんだ。そんななまくらの槍では、切り傷程度しかつけられんぞ!」

 アールケーワイルドは豪快に笑い飛ばす。体中、血と傷にまみれながらも、その勢いは衰えることはなかった。


「だったら、これはどうだ!」

 レグオンが槍を引いた。前後を反転させ、穂先と石突が入れ替わる。

「しっ!」

 短く息を吐きながら、レグオンは石突をアールケーワイルドの心臓目掛けて突き出した。

 殺傷力の劣る石突での突きに疑問を抱きながらも、受け止めるべくアールケーワイルドは警棒を胸前で構える。

 しかし、石突は警棒に届く前にその動きを止めた。

「!?フェイント?・・・ぬぉっ!!」

 様子を伺おうとしたアールケーワイルドの下半身に衝撃が走った。

 レグオンは意識を上半身にさせ、その隙にアールケーワイルドの金的を蹴り上げたのだ。具足を纏った蹴りは重く、睾丸を体内にめり込ませた。


「ぐ、ぐぉおおおおおおお!あああああああ!」

 頑丈を自負するアールケーワイルドだったが、全ての男共通の急所を激しく攻められ、さすがに激痛に耐え切れず股間をおさえ内股でうずくまった。丸くなった姿勢のまま、魔獣の咆哮のような声をあげ苦しみに耐える。

「き、きさま。こ、ここを狙うとは・・・卑怯だぞ・・・」

「何度も言わせるなよ、これは試合や決闘じゃない。勝つことが重要なんだ。それが冒険者の生き様であり、俺たちの信念だ。そのために手段は選ばん!」

 レグオンは再び槍を反転させ持ち直すと、穂先を悶絶をあげながら睨み続けるアールケーワイルドの顔に向けた。位置は胸の下までさがり、狙いやすい場所にあった。


 穂先の動きが止まり、槍の狙いが定まった。あとは真っ直ぐ突くだけで決着となる。

「痛みが強すぎて、避けることも守ることもままならんだろう。さぁその苦しみから解放してやろう。死ね!」

 槍が直進した。

 レグオンの言うとおり、アールケーワイルドに体を動かす余裕はない。その目には徐々に迫り来る、銀色の殺意の光を放つ穂先が映る。

 ついにその命を奪うべく、鋭い穂先がアールケーワイルド口の中に侵入した。

 

 勝利を確信したレグオンが笑った。声に出すことはないが、その口角は邪悪に歪む。

 だが、その勝利は物理的に阻まれた。口腔を通過し、頚椎を貫通するはずだった槍が急停止したのだ。

 思わぬ事態に対応できず、突きの勢いにのまれたレグオンは槍を掴んだまま一歩踏み出してしまい、バランスを崩した。

「な、なんだ。なぜ止まった!?・・・ば、馬鹿な!」

 動揺したレグオンの視線が穂先に向く。そこにあった光景は、レグオンを更に狼狽させた。


 くいしばる歯。止まる槍。

 アールケーワイルドは穂先を歯で挟んで、文字通り食い止めていたのだ。

 男の急所への攻撃による悶絶は、うずくまり苦しむ以外の行動を許さない。だが、そんな中でも、痛みに耐えるべく食いしばられた歯は、存分に働きを見せた。

「歯で槍を止めるだと!?ふざけるな!」

「ふふぁへへなんお、おわんふぉ(ふざけてなんぞ、おらんぞ)」

「ふぁふぃをふぁふぁ、ちぇちゅしゅらはみふはふ(ワシの歯は鉄すら噛み砕く)」

「やひほほへふはふぉ、あはへひはえほ(槍を止めるなんぞ、朝飯前よ)」

 

 良く聞き取れないが、アールケーワイルドの歯が人知を越えた物体であることをレグオンは理解できた。しかし、受け入れることは出来なかった。腕に力を込め、必死に槍を引き抜こうとする。

「おのれ!放せ!放せ!この化け物!」

 全力の力を込め、何度か槍を引いたところで、アールケーワイルドは口に更なる力を込めた。

 超人的な咬合力が発揮され、槍の穂先は煎餅やビスケットのように容易く砕け散った。

 解放された槍とその主は、勢い余って後方へ転がる。レグオンは思わず槍を手放した。


「くっ、おのれ!」

 レグオンが体勢を立て直し、手放した槍を拾うために手を伸ばす。

 槍を掴んだ。しかしそこで、槍が上から激しく押さえつけられた。レグオンの指が槍と地面に挟まれる。

「ぎゃああああ!」

 思わずレグオンは叫んだ。槍は回復したアールケーワイルドが踏みつけていたのだ。


「さぁて、これで動けないな。武器もなし、顔面もがら空き。そんじゃあ、こいつで終わらせるか。さぁ、歯ぁ食いしばりな」

 笑顔で勝利宣言をするアールケーワイルドは右の拳を力強く握り込んでいた。拳から前腕、上腕と血管が浮かび上がる。筋肉が膨張するほどの握り拳だ。

「や、やめ、やめ・・・」

 迫る決定的瞬間への恐怖に、レグオンは命乞いの言葉もままならない。

「やめん!どりゃあああああ!」

 拒絶と咆哮とともに、アールケーワイルドの右の拳骨が顔面に叩き込まれた。これまで通り大振りの、容赦のない拳だった。

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