第143話 「入り乱れる冒険者達。勃発、一角楼防衛大乱戦!」(バトル)
一角楼の麓の広場で、南方から突如として流れ込んできた賊たちを一角楼に滞在していた冒険者達と協力してほぼ制圧し終えていたセナたちは、新たに地響きを立てなが近づいてくる殺気立った一団を感知した。
一団の正体は黒狼軍副団長レグオンの率いる黒狼軍主力部隊だった。目的は一角楼へ救援要請に向かうティルを抹殺し、計画の露呈を避けること。さらに、あわよくばその罪をティルに擦り付け、商人達を賊から救った謝礼と賞賛の金品を受けることだった。
「この音、こっちに向かってきてるね」
「そうですね。それもすごい大勢。あ、南のほうです」
セナが一団の気配のする方を向く。エィカもそれにならって、同じ方を見る。
夜の闇、南の方向から迫りくる馬蹄の音。セナたちは音の方に目を凝らすと、そこからぼんやりと騎馬が現れ、セナたちに向かってきた。それは事の次第を報せに来たティルだった。
「そこのおねぇさ~~~ん、た、たすけてくださぁああああい!」
ティルは今日一番の情けない声を発した。
セナたちの元に駆け寄ると、ティルはすぐさま下馬し、セナにすがり付いてきた。本能的に強者を見出したのだ。
「お、お願いします、助けてください!」
「はぁ?なんだいあんた?あんな大群引き連れて、しかも助けてくれって、意味が解らないよ。少しは説明をしな!」
涙目ですがりつくティルをセナは叱り飛ばした。その勢いにティルは「ひっ」と声を上げてひるむ。
二人が不毛なやり取りをしている間に、レグオン率いる中級冒険者の一群は数メートルのところまで近づいていた。
先頭の馬が足を止め、馬上の男、レグオンがセナに語りかけてきた。
「お嬢さん、その男はこの一角楼を襲った賊の頭目です。捕まえてしかるべき場所に突き出しますので、お渡し願えますか?」
レグオンの物言いは穏やかで業務的だった。あくまで仕事の一環という体を装っていたのだ。
「賊の頭目?こいつが?」
ティルを表す立場に、セナはサイガと同じ違和感と疑問を抱いた。「こんな情けない男が賊を率いる頭目?」と。
「さあ、もう逃げられんぞ。大人しく縛につけ」
怯えるティルを連行しようと、レグオンが手を伸ばしながら近づく。
だが、その手がティルの手首を掴もうとしたとき、セナがティルの襟を引きレグオンから体を引き離した。
レグオンの手は空を掴む。
「・・・なんのつもりかな?お嬢さん」
紳士的を装ってはいるが、目の奥の怒りは隠せない。明らかにレグオンは苛立っていた。
「しかるべき場所に突き出すって言うなら、ここには冒険者ギルドの職員もいるんだ。犯罪者相手ならこっちに任せてもらったほうが話が早いだろ。あと、あんたなんか胡散臭いんだよね。後ろの連中も含め、あんたらのほうが、よっぽど賊の面構えだよ!」
人を見た目で判断するセナは決して褒められたものではないが、その言葉どおり、レグオンの引き連れてきた冒険者達は、そろいも揃って悪辣な風体だったのだ。
その上、時折聞こえてくる言葉は粗野そのもの。どちらが賊かと聞かれれば、迷いなくレグオンたちを指すほどだった。
「あれ?あいつの顔、見た事ないか?」
セナとレグオンの間に緊張が張り詰め、後方からは冒険者達が睨む。その様子を見て、一角楼側の冒険者達から、声が漏れた。
黒狼軍の中級冒険者達の殆どは、所謂、前科者や素行の悪い冒険者達だったのだ。その中には、現在進行形で悪事を重ねる者たちも多数いた。黒狼軍がこれまで働いてきた悪行は、それだけ根深いものだった。
「た、たしかに、あいつは他の冒険者の殺人で指名手配中のヤツだし、強盗や強姦の容疑者連中までいるぞ」
「あ、あいつは俺たちの報酬を持ち逃げしたヤツだ!やっぱりこいつらのほうが悪党じゃないか!」
一角楼側の冒険者達から、次々と黒狼軍側の冒険者の悪行が告げられる。心当たりがあるのか、レグオンの背後の冒険者達の顔が一言一言につき次第に険しく醜く変わっていった。
「セナさんの直感が当たったみたいですね」
セナの横に、弓に矢を番えたエィカが並び立った。
「こいつら嫌だな。なんだか見ててイライラする。虫の報せかな?カカカカカ!」
戦闘形態のリシャクがエィカと反対側のセナの隣に立つ。戦闘用に少し伸びた身長と手足が、幼女から少女を思わせる体型になっていた。両腕を鞭状に変化させ、音を立てて地面を叩く。
「どうやら、一番厄介な展開になってしまったか。こうなったら・・・全滅させるしかないな!」
レグオンは深いため息をつき、武器を構えると冒険者達に攻撃の指示を出した。
総勢百人に上る中級冒険者達が、一斉に突撃を開始した。
状況を理解した一角楼側の冒険者達は、各々武器を手に取り、応戦を始めた。数は冒険者、自警団等含め、総勢五十人ほど。数では劣っていた。
両勢が激突した。
防御に長けた者、熟練の者が前線で騎馬の突撃を受け止め、魔道士たちが補助魔法と攻撃魔法で援護する。一角楼麓の広場は瞬く間に騒乱に包まれた。
「ちょっと肩借りるよ!」
前衛の全身鎧の冒険者の肩を踏みつけ、セナが黒狼軍に飛び掛った。
降下と同時に振り下ろした鉄鞭が中級冒険者の右肩に食い込み、鎖骨と肋骨を砕いた。冒険者は気絶し落馬する。
着地して体勢を立て直すと、セナは両腕で握る二本の鉄鞭を振り回す。その威力は、一振りごとに冒険者を馬ごと防御ごと叩き飛ばし、打ち崩す。
エィカは風の精霊の援護を受け、誘導された矢を後方支援の魔道士たちに命中させて無力化させていく。
リシャクは鞭状の腕で複数の冒険者達を落馬させる。
落馬したところを一角楼側の冒険者達が拘束していった。
乱闘が始まって五分ほどで黒狼軍側の冒険者は三十人ほど数を減らしたが、それでも数で勝る黒狼軍側は徐々に一角楼側の戦力を減らし押し始めていた。
如何にセナやエィカたちが並みの冒険者達より優れた戦力だとしても所詮は素人。戦闘慣れした中級冒険者の集団戦は、個々の戦力を何倍にも高める効果があったのだ。
さらに黒狼軍の冒険者達は数だけでなく、個人の戦闘力でも一角楼側の冒険者達を上回っていた。その差が、奮闘を続けるも、戦線をじりじりと後退させていく。
「まずい、このままでは一角楼まで攻め込まれる!増援は望めないのか?」
窮地の仲、冒険者の一人が声を上げた。だが、その願いはむなしくレグオンの槍の一撃に消える。
「おい、逃げるなティル!こうなったのも、そもそもお前が大人しく殺されないのが原因だ。観念して首を差し出せ!」
穂先についた血を振り払いながら、レグオンはティルに歩み寄る。
「ひ、ひぃいいいいい!た、たすけ・・・」
『情けない声を出すな!正面を向いて私を構えて迎え撃て!』
レグオンの気迫に怯えて、涙声で命乞いをするティル。対峙はするものの、恐怖で震える手はバルバロッサを掴むが今にも落とさんばかりだ。
槍がティルの心臓目掛けて突き出された。レグオンもゲイル同様、長年の冒険者活動による卓越した槍の腕を誇る。その槍が水平、直線で急速前進する。
槍の先端が怯えきったティルの胸に触れる寸前、レグオンはその手を止めた。
進んだ分、槍を引き戻し、数歩離れると防御の構えをとる。
「え?な、なに?」
レグオンの謎の行動にティルはポカンと口を開ける。
『呆けるな!口を閉じろ!』
バルバロッサが叱る。
ティルはあわてて口を閉じた。
轟音が響いた。
そのあまりの音の大きさに、ティルは更に体を硬直させる。
音の後、ティルの横を、後ろから飛来した何かが空を裂いて通過した。
そしてほぼ同時に、ティルの目に映る数人の黒狼軍冒険者の頭部、上半身、肩が一瞬で砕け散った。
後方から飛来した何かは、冒険者数人を貫通、粉砕した。その数は五人だった。
レグオンの防御の構えは、この攻撃に備えたものだったのだ。
「な、なに?今の・・・?」
謎の攻撃に、ティルはまたしても呆ける。
「へぇ、ワシの攻撃に気付いたのか。お前さん、勘が良いな」
ティルの左隣に、青い制服のむさ苦しい男が、のそりと現れた。その手には、銃口から煙を上げる大型のマグナムリボルバーが握られている。攻撃の正体はその拳銃の弾丸だった。
そして、銃を撃ったのは四凶の一人、『人情一路』のアールケーワイルドだった。
「おいボウズ、お前は退がってろ。臆病者は邪魔だ」
アールケーワイルドはティルの肩を掴むと、己の後ろへ送った。
「お?おまえ、レグオンだな?」
「私を知っているのか?」
「当然だ。陛下の統治を乱す悪漢の面は把握しとる。ということは、ゲイルもいるな。どこだ?」
「自分で探せ」
「そうだな。なら、お前をふんじばってから、そうさせてもらうぜ!」
アールケーワイルドはリボルバーを収納すると、金属製収納型の警棒を伸ばし、レグオンに殴りかかった。
イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。
リシャク 戦闘態勢
レグオン
警棒を振るアールケーワイルド
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