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第137話 「黒聖母シャノン到着。吹き荒れる無慈悲なる魔法」(バトル)

「はやく、はやく!」

「いそいで、こっちだよ!」

 喧騒、怒号、悲鳴が飛び交う暗闇の一角楼露天通りの中を、猫に先導されシャノンは走る。二匹と一人は、真っ直ぐミコのもとへと向かっていた。

「ごめんなさい、みなさん。すぐにお助けしますから、今は、少しだけ耐えてください」

 シャノンは聞こえる悲鳴から気をそらしつつ、商人達への謝罪の意を表した。

 王女シフォンに仕える六姫聖は、本来、民を守る役目を担う。しかし、現状の対応をサイガとその仲間に託し、シャノンはミコを目指す。それが次の一手につながる最善の行動と信じているからだ。


「着いた。ここだよ!」

 一角楼南部の建材置き場に到着したところで、先導していた猫が「にゃあ」と鳴いた。それが到着の合図であると理解したシャノンは視線を奥に向ける。そして、そこにひろがる光景に絶叫した。

「ミコ!」

 転がる男達の死体の中央で血だらけでうずくまるミコの姿がそこにあった。

 ミコの姿を確認するや否や、シャノンは駆け寄って回復の魔法をミコに施す。

「ああ、ミコ。こんなに傷だらけになって、しっかりして、すぐに治してあげるから!」 

 シャノンの掌から白い光が発すると、ミコの傷は見る間にふさがり、露出していた肉や骨が再生する肉体に埋もれていく。それにともない、苦痛に歪んでいたミコの顔は穏やかな寝顔へと変わっていた。

「見事なもんやね、そんなら、ついでに下にいるお嬢ちゃんも助けたってな。猫の娘はその娘を守るために、瀕死になるまで耐えたんやからね」

 女の声が聞こえた。ミコに施す回復魔法を絶えさせることなく、シャノンは顔を向ける。そこにはシズクヴィオレッタの姿があった。重ねられた建材の上に腰掛け、嫌がるギンジを押さえつけて撫でていた。

「あなた、四凶の・・・」

「シズクヴィオレッタや。憶えとってや六姫聖のお嬢ちゃん」

「シャノン・ブルーよ!四凶が何の用?」

「名前は知っとるわ。まぁ、そない警戒せんとってや。うちがおらんかったら、その猫娘、死んでたんやで。感謝の一言ぐらいあってもええんやない?」

 王と王女。国民に知られてはいないが、二人は対立している。そして、そこに属し組する互いの最大戦力の名を知らないわけはなかった。

 当然、その戦闘力も把握の上であり、その事実は警戒心を掻き立てる。

「そういうこと。じゃあ、ここに転がっている死体は・・・」

「うちがやったんや。そこの猫娘は手ぇ出してへん。ずっとそこの娘に覆いかぶさって、庇っとったで。目ぇ覚めたら、褒めたってや」

「ミコが・・・人を守った?この娘が・・・そう・・・。ありがとう、このことはミコに伝えておくわ」

 シズクヴィオレッタの賛辞に、シャノンは空いた手でミコの頭を撫でていた。その瞳は慈愛に満ちていた。


「ほな、うち行くわ。まだ賊共が暴れとるからな。陛下の築いた治世を乱す奴等は、おしおきしたらんとな」

 ギンジを解放したシズクヴィオレッタはゆっくりと立ち上がり、再び刀を抜いた。その足は今だ続く喧騒のほうを向く。

「な、なんだぁああ!?こいつぁ!おい、お前ら、こっちに来い!仲間がやられてるぞ!」

 突然の怒号に、シズクヴィオレッタは足を止めた。シャノンも顔を向ける。

 怒号の主は新たな冒険者達だった。シズクヴィオレッタに斬られた十人が先だって呼びつけていた増援が到着したのだ。

 冒険者達は侵攻の際の商人や用心棒達の反撃によって負傷をしていたが、興奮剤によって荒ぶり、痛みに鈍感になって、破壊衝動が優先された行動をとっていた。そのため、全身血まみれになりながら武器を持ち笑っている者もいた。


「ちっ、雑魚が増えよったな。まぁええわ、すぐに始末したる」

 シズクヴィオレッタが静かに刀を構えた。柄を上、切っ先を下にした逆斬りの構えだ。

「待って、あなたは他のところの討伐をお願い。こいつらは私が相手をするわ!」

 静海一刀流の技を披露しようと一歩踏み込んだ瞬間、シャノンはシズクヴィオレッタを止めた。

「は?自分なに言うてんの?そっちは回復で手一杯やろ?無理しんとき」

「ふふ・・・なに言ってるのはこっちの台詞よ。私は六姫聖よ、この程度の連中、回復しながらでも相手にできるわ。疑うんなら、そこで見ていて」

 ミコの成長した雄姿に触発され、シャノンの心には闘争心の火が灯っていた。

 

 シャノンは右手から発した癒しの光でミコとクレアを包んだまま、左手を天にかざした。左の掌に白い光が生じる。

「慈愛の光よ、その力を内に宿らせ、癒しの力を絶えず注げ!『湧命泉域ゆうめいせんいき』」

 続いて、シャノンは更にもう一つの魔法を左の掌の中に発生させた。

「時の神、いたずらな童心の矛先を、今、我が怨敵に向けよ!『時神ときがみ戯園ぎえん』」

 白に続いて鈍色にびいろの光が生じる。

 生じた二つの光が白、鈍色の順で放射状に広がり、増援の冒険者を包み魔力で満たした。

 

 魔法の光を受け、冒険者達の体に異変が発生した。負っていた傷が塞がり、回復を始めたのだ。シャノンが放った魔法『湧命泉域』は人間の持つ自己治癒能力を促進し、永続的な回復状態をもたらす魔法なのだ。

「ちょ、ちょっと、あんた、何してくれてんの?敵の傷治すなんて、何考えてんねん?」

 冒険者達の事態を目の当たりにし、たまらずシズクヴィオレッタはシャノンに怒鳴った。その言葉どおり、シャノンの行為は愚かとしか言いようがなかったのだ。

「安心して。そんな馬鹿げた真似するわけないでしょ。よーく見て」

「はぁ?」

 怒るシズクヴィオレッタに、シャノンは冷静に冒険者達を指しながら笑ってみせた。

 促され、シズクヴィオレッタは冒険者達を見る。


 癒しの光を受けて自己治癒能力が向上し、傷が完治した冒険者達は、喜びの奇声を上げていた。

 体から傷や痛みが消えたことにより、更なる戦いに興じることのできる悦びを全身で表現する。

「ひひひひひ・・・傷が消えやがった!」

「やったぜ!これでまた人が殺せるぞ!」

「ぎひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 狂ったように喜び続ける冒険者達。だが、その感情の昂りが最高潮に達したところで、冒険者達にさらなる変化が訪れた。

 冒険者達全員の皮膚が、乾いた土のようにぼろぼろと剥がれ落ち始めたのだ。

 それは決して、削いだり捲れるのではなく、脱皮や日焼けのように新たなものに入れ変わるのと同じ現象だった。


 冒険者達の体におきた変化の原因は、シャノンが『湧命泉域』と同時に放った『時神の戯園』によるものだった。

 補助魔法『時神の戯園』は魔法やアイテムの効果を操る魔法だ。魔法やアイテムと同時発動させることにより、その効果を促進、遅延、延長、短縮といった範囲、時間を自在に操り、本来の効能以上の利用が可能となるのだ。

 そして、今回シャノンが用いたのは、湧命泉域の自己回復機能向上の促進が目的だった。

 促進された自己回復機能は、冒険者達の傷を回復し続けた。それは、傷が塞がった後も続いた。それにより、行き場をなくした回復機能は、代謝機能を加速させた。その結果が、急速に代謝が促され、老廃物となり土のように剥がれ落ちた皮膚細胞なのだ。

 強制的に促進される代謝。だが、その資源は無限ではない。冒険者達は、皮膚の生成に必要なタンパク質を急速に失い、瞬く間にやせ細り、老人のような体となった。


「に、肉・・・肉を食わせてくれぇえええええ!」

「腹ぁぁ腹がへったぁあああ!」

 急速にタンパク質を失い、冒険者達は飢餓状態に陥った。肉体を構築する成分が不足した体はそれを求め、最も手近なタンパク質に喰らい付いた。人間だ。

 冒険者達はお互いの体に喰らい付き合い、貪り合った。弱った顎でなんとか肉を食いちぎり、咀嚼し、飲み込み、タンパク質を補充する。そして遂には、その歯は内臓に到達し、一人また一人と食され命を落としていった。

 冒険者は、最後のひとりとなったところで、タンパク質の浪費が補充を上回り、皮膚と共にその命を地面に落とした。



イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。


魔法を発動させるシャノン

挿絵(By みてみん)

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