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第135話 「一角楼大混乱。動き出す戦士たち」(ストーリー)



 一角楼を取り巻く明かりが、一つまた一つと消えていく。

 露天通りに備えられていた松明や照明用の光の魔法珠が黒狼軍の斥候隊によって、次々に破壊されているのだ。

 さらに、明かりが消えたことを合図に、南からは先鋒隊が燎原の火のように北上侵攻を開始していた。

「なにかが侵入しているな。賊か?」

 南から北に、流れるように喧騒が移動している。サイガは窓から見える暗中の状況から事態を読み取った。

「昼の不穏な気配が関係してるのかしら?」

「恐らく、そうでしょうな」

「なら悠長にしてられないわ。死者が出る前に対応しましょう」

 シャノンは立ち上がった。その目には、使命感の炎が宿る。

 同時にサイガも立ち上がる。シャノンの治癒魔法の効果で、昏睡の影響は皆無だ。

「私は一度、冒険者ギルドに赴き、ギルド長と連携の態勢をとります。サイガさんは‥」

「おれは打って出ます。賊の数を減らして被害をおさえましょう」

 

 方針が決まり、二人は同時に頷いた。その直後。

「きゃ!」

 シャノンが悲鳴を上げた。後ろからなにかが尻を突き上げたのだ。

「な、なに?」

 突然のことに戸惑いながら、シャノンは後ろを見る。しかし、そこには誰もいない。

「にゃあ」

 下から声がした。目を向けると一匹の猫がいた。

「え?ね、猫?」

 猫はじっとシャノンを見ていた。

 数秒後、猫は宙に顔を向けて口をフガフガと動かし始めた。匂いを口腔内で循環させ、確認するフレーメン反応だ。猫はシャノンの湿度を確かめていたのだ。


 フレーメン中の猫のそばに、また一匹、猫が現れた。会話を始める。

「どうだ?」

「うん、湿ってる。この建物のなかで鼻を突っ込んだお尻で一番だ。鼻の中に粘り着くみたい。それに魔力もすごく強い」

 二匹の猫はギンジの命を受け、一角楼の一階から栗色の長髪の女の尻に片っ端から鼻を突っ込んでいた。そしてシャノンのもとにたどり着いたのだ。

「じゃあこの人が、ミコ様が言ってた‥」

「うん、シャノンって人だ。すぐ連れてこう」

 真剣な会話を交わす二匹の猫だが、サイガとシャノンには、「みゃうみゃうみゃうみゃう」としか聞こえない。


 しばらく様子を見ていると、二匹の猫はシャノンのスカートに噛みついた。揃って後ろに引っ張り、シャノンをどこかに導こうとする。

「え、なに?なに?この猫たち」

「どこかに連れていこうとしてるみたいだな。猫‥ということはもしかして‥」

「ミコのところに連れていこうとしてるってこと?」

「シャノン殿、これはもしや、火急の事態かもしれません。すぐに猫と一緒に行ってやってください!」

「わかりました。では、冒険者ギルドには‥」

「残念ですが賞金首のおれが出動要請をするわけにはいきません。ここは一角楼の自治機能に託しましょう」

 サイガの提案を受け頷くと、シャノンは猫に従い部屋を駆け出した。

 サイガは外を向くと、賊の討伐のため窓から飛翔した。


 ◆


 セナ、エィカ、リシャクの三人は冒険者として登録をされているわけではないが、その実力は冒険者に当てはめるなら中級程度にはなる。

 そんな三人が、ミコを求め一角楼南を探索している最中、ティル率いる狂気の冒険者達の襲撃が始まった。

 南方から迫る馬群はキャラバン隊のテントや露天を踏み荒し、冒険者の武器は逃げ惑う商人たちを後ろから斬りつける。

「あいつらなにやってんだい?あんな、無抵抗の人たちに!」

 惨状を目の当たりにして、セナは怒りを露にした。蛮行を止めるため手には鉄鞭を握り、一直線に冒険者に駆け寄る。エィカとリシャクも続いた。


「おらぁ、死ね!」

 我が子を先に逃がした、父親の商人の背に向かって槍が突き出された。

 穂先が背に届く。その瞬間、冒険者の前方から飛来した二つの黒い弾丸が槍を弾いた。

 一発目は穂先に当たり向きを変え、二発目が槍を握る手に命中した。

 指の骨を折られ、冒険者はたまらず槍を手放した。

「ぢ、ぢぐじょお、誰だ!」

 攻撃を妨げた怨敵を探し、弾丸がきた方向を見る。

 そこにあったのは、冒険者に向かって大きく口を開けたリシャクの姿だった。

 リシャクは口から『ダンガンコガネ』を高速で発射し、弾丸のように冒険者を狙撃したのだ。

 さらに追撃のダンガンコガネが二匹発射され、冒険者の額と喉に命中。冒険者は失神して地に落ちた。


「こいつら一体なんだい?行動に見境がなさすぎるよ。賊にしても悪質だね!」

 セナの指摘通り、老若男女見境なく凶刃を振るう冒険者たちは、知性を持たない魔物より厄介なものだった。

 一定の習性や理念が存在しないため、標的を次々と変え、一太刀浴びせては次、また次と無為に負傷者を増産することとなっていた。

「エィカ、こうなったら片っ端からぶっ飛ばしていくよ!」

「はい、こっちも細かいことは考えず、滅茶苦茶にやってやります!」

 冒険者たちの行動は厄介なものだったが、戦闘力自体は脅威ではなかった。それは、強敵との戦いにおいて人格が凶暴化するエィカが平素のままでいられることが物語っている。そのため、三人は必要以上の危機感を抱くことなく、下級冒険者たちを各個撃破することが出来た。


 セナの鉄鞭が空気を揺らしながら、歩兵の冒険者に迫る。

 冒険者は咄嗟に、剣でその一撃をパリングしようと長剣を構えるが、セナの力の加護は剣と腕を振りぬき、同時に弾き飛ばした。

 あまりの鉄鞭の威力に、冒険者の剣を握る手は大きく円を描いて後方へ向かう。さらに衰えない勢いは、肩関節の限界を超えて腕を吹き飛ばし、遂には肩を破壊した。

 骨折の鈍い音と共に、冒険者の体が後ろ向きに独楽のように何度も高速回転する。その遠心力は凄まじく、人間独楽の足は地から離れ、体を浮き上がらせた。

「そうら、もう一丁!」

 浮き上がった体に、セナは追撃の鉄鞭を振り下ろした。

 鉄鞭に叩かれた瞬間、空中人間独楽と化していた冒険者の体が、垂直に地面に叩きつけられた。

 一瞬の出来事に冒険者は反応することもかなわず、地面の上に無残な姿をさらすこととなった。


 軽々と人一人を戦闘不能にするセナに負けじと、エィカも弓に矢を番える。本数は十本。矢筒ごと番えたと見まがうほどの矢の束だ。

 矢が十本同時に放たれた。しかしその矢に殺意はない。あくまで襲われる商人を助けるために戦力を奪うのが目的だ。

 十本の矢は逃げる商人達を追う冒険者達に迫り、武器を持つ手を貫き無力化させた。

 十本の矢を同時に放ち、その全てで最大の成果を得る。エィカは超人的な離れ業を容易にやってのけた。

「みなさん、今のうちです。早く逃げてください!」

 エィカに促され、商人達は家族や仲間を誘導しながら一角楼を目指し走り出した。


 遠方の商人達の姿が消える。それを見届け、エィカは視線を冒険者達に移した。

 興奮剤の影響で、冒険者達は行動不能に陥るほどの痛手を負わない限り戦闘を継続する狂戦士と化している。

 十人の冒険者達は武器を持ち替えると、なれない動作で構え、エィカを囲んだ。

「ぐ、ぐるるるる・・・」

「ぎひひひひ・・・」

「ごろず・・・ごろず・・・」

 最早、既に理性は遠方に消え去り、残されたのは狂った獣。エィカは嫌悪感を隠すことなく顔に出し、弓を構えた。

「こんな戦い、何の意味もないのに・・・」

 思わずエィカは心中を吐露した。


「あまり気負いするな。こいつらは薬で気が狂っているんだ。人間の心なんてない、遠慮せずに叩き伏せてやれ」

 下から声が聞こえた。そこには、いつの間にかエィカの足元でくつろぎながら虫をつまむリシャクがいた。

「く、薬?」

「こいつらからバサラミツバチの匂いがする。バサラミツバチの蜜は体内に入ると戦意を高揚させる効果があるんだ。こいつら、蜜から作った薬を飲んでる」

「戦意を高揚させる?でもこの感じ、とてもそれどころじゃ・・・」

「バサラミツバチの蜜は魔物用の興奮剤だからな。人間に与えたら脳が破壊されてただの戦闘狂になる。酒と合わせるとなおさらだ。きっと、誰かに盛られたんだろう」

 地獄の将にして蠱毒の主のリシャクは、戦闘などにまつわる知識長ける。今回はそれが見事に生きた。

「じゃあ、この人たちはどうすれば・・・」

「殺すか、セナみたいに動けなくしてしまうしかない。この状態はもう正気に戻ることはないから、容赦するなよ」

 跳ねるように立ち上がると、リシャクは足の関節を一つ増やし身長を伸ばすと、両手を蟷螂の鎌に変化させ、口から触手のような三本の舌を出し、異形の戦闘態勢に移行した。

「子供みたいで、かわいい見た目だけど、やっぱり地獄の住人なのよね」

 エィカはあらためてリシャクが自分達とは別の生命であることを認識した。



イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。

鉄鞭を振るうセナ

挿絵(By みてみん)

エィカ

挿絵(By みてみん)

リシャク

挿絵(By みてみん)

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