表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/322

第132話 「忠臣たちの燃える心。刃よ弾丸よ、民を守る盾となれ」(ストーリー)

 一角楼の三階、宿泊施設内の一室からミコが飛び出してから一時間ほど後、同じ三階の一室の中、南向きの出窓から身を乗り出し、外を観察する人物の姿あった。王に仕える四凶の一人、『人情一路』の通り名を持つアールケーワイルドだ。

「んん?んーー?おい、見てみろ。南の方の丘、なにやら妙な動きがあるぞ」

 そう言うと、アールケーワイルドは同じ方向を確認するように、同室のシズクヴィオレッタを促した。

 後方のテーブルで晩酌の最中だったシズクヴィオレッタは、酒を注ぐ手を止め、アールケーワイルドの隣に立つと、自身の望遠鏡で確認する。が、夜の闇はその姿をおぼろげにする。そこに映るのは遠方にある少数の小さな光だった。


「なんなんあれ?暗ぉてよぉわからんわ。蛍とちがうん?」

 距離にすると約二キロ。南の暗がりに動く小さな光にシズクヴィオレッタは目を凝らす。

「そんな風流なもんのわけあるかよ。明かりの数を最低、最小限にして隠してはいるが、ありゃ夜襲の動きだ。数はよくわからんが、数十人規模だぞ。しかも指揮官は素人だな」

「え?なんでそんなんわかんの?」

 アールケーワイルドの洞察に、シズクヴィオレッタは思わず正面から目をそらし、隣の無骨な男を見る。

「明かりの動きだ。右や左にフラフラ動いているだろ。明かりを減らしたせいで、夜の足場を把握できとらん証拠だ。足場の確保もできとらんなら、統率力も低い。明らかに錬度が足りとらん」


 アールケーワイルドの指摘の通り、南から一角楼を目指す一群は、黒狼軍より出陣したティル率いる下級冒険者の一団だ。

 出立して一時間後の現在、夜襲を気取られぬように明かりを最小限に絞り、足元を確かめながら進軍を続けているため、昼間に馬を走らせるよりも数段その歩みは遅れていた。

 四凶の二人はその姿を目撃したのだ。


「はぁ~、あんな暗がりでわかんのや、見事なもんやね・・・って、あんた裸眼やん!」

 アールケーワイルドの洞察力に感心した直後、その姿を見たシズクヴィオレッタは驚きの声を発した。暗い遠方の動きを細かく観察するアールケーワイルドは望遠鏡を用いることなく、裸眼で観察を行っていたのだ。

「夜の望遠鏡は見づらくて苦手なんだよ」

「やからって、裸眼で見えるもんなん?」

「ワシの視力は十以上あるからな。この程度なら、微細にとは言わんが大方の動きは読める」

 そういいながら、目を凝らし遠方を睨むアールケーワイルド。その眼光は鋭い。


「賊、やろか?」

「おそらくな。狙いが何かはわからんが、どちらにせよ臣民である一般人に犠牲を出させるわけにはいかん。出るぞ」

 アールケーワイルドはのっそりと立ち上がると、腰のホルスターに手を伸ばし、巨大なリボルバーを取り出した。

「一、二、三、四、五。おし、装填完了っと」

 シリンダーに弾を詰め、軽く回転させ銃身を閉じて組み上げると、リボルバーをホルスターに収めた。

「随分と古臭いモン、使とるんやね。マグナムリボルバーなんて、手間がかかるだけやないの?」

 愛用する日本刀を眺めつつ、シズクヴィオレッタは呟いた。

「男の武器っつったら、やっぱりやかましい拳銃だろ?」

「は?なんなんそれ?」

「へへ・・・冗談だよ。恐い顔しなさんな。ワシはフルオートや重火器じゃ、命が実感できないんでな。やっぱり、反動や衝撃がなきゃあ、奪うことも奪われることも軽く考えちまう。殺しの道具を使うからには、その責を実感して背負う。ワシなりのけじめさ」

「ふぅん、難儀なもんやね」

「そういうお前さんだって、日本刀一本だけなんて、随分硬派じゃないか」

「ウチも魔法やら弓やらは、よう好かんのよ。長年連れ添った相棒やからね。ウチのやりたい動き、全部やってくれんのよ。それに、命を感じるには直に斬ったらんとね。ふふ・・・」

 日本刀を鞘から僅かに抜き、刀身に写る自身を眺めながら、シズクヴィオレッタはしみじみと息を漏らす。

 シズクヴィオレッタは妖艶な色香を纏うが、目元と口元のほくろがその色香をさらに際立たせる。

「はは、そりゃあお互い様だな。使い馴染みは利便に勝るってこったな」

「そやね」

 立ち上がり笑いあうと、二人は部屋を出た。


「おい、おまえ!そこでなにをやっとる!?」

 二人揃って一角楼を出たところで、アールケーワイルドは一角楼内部の様子を伺う不信な人物に声をかけた。

 不審な人物の正体は一切わからない。黒いマントで全身を覆い、フードを目深に被り顔を隠していたため、その性別すらも判別が出来ないのだ。だが、その人物が男であることは即判明した。人物自ら声を発したのだ。

「な、馬鹿な!?俺の隠行を見破ったというのか?」

「やかましい!見破るもクソもあるか!こんな街中でそんな怪しい術使っとるヤツ、見破る以前に不審者だ!」

 不審人物の疑問には答えてはいないが、よくわからない理屈でアールケーワイルドは押し通した。


「なんなんこいつ?もしかして、こっちに迫っとる賊と関係あんのやろか?」

 後ろから怪訝な顔で問いかけるシズクヴィオレッタの言葉に、不審な男は目を見開く。その反応に、アールケーワイルドは図星であることに感づく。一瞬でホルスターからリボルバーを抜くと、銃口を男に定めた。

「動くな!動けば撃つぞ!」

「くっ・・・!」

 一度の瞬きも許さない早業に、男はなす術もなく両手を挙げて無抵抗の意思を示す。

「アホ、なにやってんの、そんなやかましいモン使たら、揉め事やっとるって教えるようなもんや!」

「す、すまん、明らかに反応したもんだから、つい咄嗟に抜いちまった」

 頭より先に体が動くアールケーワイルドをシズクヴィオレッタが制した一瞬、二人の視線が男から離れた。そして、男はそれを見逃さなかった。

 男は懐に手を差し込むと、魔法珠を取り出した。色は弱いオレンジ。攻撃ではなく信号弾代わりの微弱な光魔法だ。

「予定変更だ!ここで計画を強行する!」

 男が魔法珠を投じるため上空に向かって構えた。


「しまった!・・・やらせるか!」

 己が招いた失態を取り返すため、シズクヴィオレッタは前に出た。

 和服のため大股で歩くことは出来ないが、それを考慮した歩法を用いた剣術『静海一刀流』(しずみいっとうりゅう)を用い、穏やかな歩みで、一瞬で男の眼前に迫り、刀を抜き放っていた。

 逆手の刀が左下から右上へ男の体を断つ。まるでそこに何もないかのように通り抜ける刀に斬られ、男の体は斜めに分断された。


 シズクヴィオレッタの剣技は見事という他なかったが、男の覚悟も見事なものだった。両断され、地に向かって落ちる最中においても、己の任務を全うし、信号弾を上空へと投じたのだ。その行動は、四凶の二人の予想を上回るものだった。

「くそっ!見事だ!」

 男の覚悟をアールケーワイルドは思わず賞賛した。シズクヴィオレッタも苦々しく信号弾を目で追う。


 上空で信号弾が爆ぜた。それは、魔法というにはあまりに弱く、一瞬だけ遠方で光る稲妻のように弱く短い、見落としてしまうような光だったが、その合図を待ちわびていた黒狼軍の面々は、それを皮切りに自身に課せられた任務を遂行し始めた。

 一角楼周りに備えらえている松明や照明用の魔法器具などが、潜入していた軍団員たちにより次々と破壊され使用不能となっていく。

 一角楼は徐々にその光を失い、闇に包まれ始めた。


イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。

シズクヴィオレッタ

挿絵(By みてみん)


アールケーワイルド

挿絵(By みてみん)

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ