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第130話 「自由奔放な獣の子。その名はミコ・ミコ」(ストーリー)

 一角楼の建屋内は、一階が武具などの販売店や冒険者ギルド。二階が飲食店や雑貨店。三階が宿泊施設。四階以上が居住区となっている。

 そして、今、その三階の一室のドアが激しく開かれ、謎の黒い物体が勢いよく飛び出してきた。

「うわぁーーーー、みんなのバカーーーーーー!!」

 飛び出してきた謎の黒い物体の正体は、六姫聖の一人、『超獣』のミコ・ミコだった。

 ミコはシャノンの痴態を口走ったために、当のシャノンに叱られ、セナにたしらめられ、エィカに呆れられ、リシャクに馬鹿にされた。そのため居た堪れなくなったミコは、泣きながら部屋を飛び出し、三階の共同部のバルコニーから外へ出ると、一角楼の壁を三角蹴りを駆使して地上に降り、そのまま一角楼南部の露天商通りに姿を消した。


 サイガが搬送されていた一角楼の一室は、暴れたミコのせいで部屋中に埃が舞い上がっていた。セナがあわてて窓を開け、エィカが風の精霊で外へ埃を吹き飛ばす。

「やれやれ、とんでもない暴れん坊だね。あれで本当に姫に仕える六姫聖なのかい?」

 呆れながら、セナとエィカ、シャノンは乱れた部屋を整えた。サイガも手伝おうとベッドから出ようとしたが制された。

「実は、ミコ・・・あの娘は、最近まで人間とは別の環境で育ってきたの」

 ミコという人物は、その素性を知らなければ他者の目にはただの奇人として映ってしまう。それを危惧したシャノンは、ミコの生い立ちを語り始めた。


 ミコが六姫聖となったのは、今から六年前、ミコがまだ十歳の頃だった。かつて、赤子のミコは捨て子として獣人族が暮らす森の入り口に置かれていた。そして、そんなミコを偶然拾ったのが、かつて国外からの侵略者を人間達と手を取り合い撃退した救国の英雄の一人『猫母王グランキャットマザー』の名で知られる猫科の獣人族の王女『タマティ』だった。

 タマティの下でミコは十年間育てられた。その間、兄猫達と共に暮らし、遊び、喧嘩を繰り返すことで、猫科の生活習慣と身のこなしを学んだ。さらにミコは生まれ着いての身体能力の高さから、人間と猫の双方の長所を活かした独自の狩猟術を編み出し、その野性と戦闘力は育ての母であり英雄と呼ばれたタマティを凌駕するまでになっていた。

 拾われたミコが猫科の獣人たちのもとで育てられ十年が経過した頃、家族達と楽しく暮らしていたミコだったが、母タマティは不安を覚えていた。人間であるミコが獣人族と生活を共にすることで、人間でも獣人でもない混沌とした存在になることを危惧したのだ。

 そこで、タマティはかつて戦場を共にした国王テンペリオスに事態を相談し、それを受けたテンペリオスはさらに王女シフォンへ話を持ちかけた。


 シフォンは、当時、結成の最中さなかだった六姫聖にミコを迎えた。

 だが、ここで大きな問題が起こった。育ての親から引き離されると察したミコは大いに暴れたのだ。

 ミコの暴れぶりはそれは凄まじく、すでに六姫聖であったナル、メイ、リンが魔法と肉体を用い、母であるタマティ、兄猫達が総動員で捕獲を試みるものの、人間の器用さと猫科の柔軟性を併せ持つミコは、半日以上逃げ回り、抗い、攻防を繰り返した。

 そして最後は、メイの爆炎によって全身を焼かれ動きが鈍ったところを、リンが拳で叩き伏せ、ナルが氷で封じることで終わりを迎えた。この後、この捕獲劇に関わった全員が一ヶ月以上の入院を余儀なくされた。


「ということで、ミコは姫が預かることになり、現在では私達が共同であの娘を教育しているんです。なので、年齢は十六歳なのですが、人間としての教育はまだ六年。ですから、まだまだ、寛容さが必要なんですが・・・はぁ・・・」

 言いながら、シャノンは大きなため息をついた。寛容を意識してはいるが、やはり股が湿っていると言われてしまえばその理性は一瞬で吹き飛ぶ。咄嗟のこととはいえ、その未熟さを反省していたのだ。

「なるほどね、じゃあ、体は大きくても心はまだまだ六歳程度の女の子ってワケだ」

 納得した言い回しで、セナは立ち上がった。

「それなら、何が悪いことかもよくわかってないんですね」

「て、ことだね」

 セナに続いて、エィカがミコに理解を示しながら立ち上がる。


「ど、どうしたの?あなたたち」

 立ち上がる二人にシャノンがその意図を尋ねたが、二人は同時に笑って答えた。

「迎えに言ってくるよ。そのうえで、何が悪かったのか教えてあげれば、ミコ様もきっとわかるはずさ」

「だったら私も一緒に・・・」

「待ってください」

 シャノンが立ち上がろうとしたところを、サイガが止めた。シャノンがサイガに振り向く。

「ここは、セナたちに任せてもらえませんか?セナとエィカならミコを下手に刺激すること無いでしょう。それに、なにやら外に不穏な空気があります。今は、この体を癒していただけませんか?」

 サイガは二人への信頼を述べる。と同時に、昼ごろより露店通りにはびこり続ける謎の気配を懸念していたのだ。

「わ、わかりました。それでは二人にお願いします。ミコは拗ねると暗くて狭い場所に逃げ込むので、そういった場所を探してみてください」

「さ、さすが猫だね・・・」

 その習性に苦笑いしながら、セナはエィカと共に部屋を後にした。その背後には、ちゃっかりと後についていくリシャクの姿があった。

 

 三人を見送り、サイガとシャノンは外へと視線を向ける。

「露店通りの怪しい気配。ミコを乱したのは恐らくあれが原因です。あの娘は獣並に敏感なので」

「やはりそうでしたか。おれも、なんとなくは首筋が冷えるような感覚がありましたが、これから一波乱あると睨んでいた方がいいでしょうな」

「ええ。ですので、そのためにも今は治療に専念しましょう。安心して、私にかかればすぐに終わりますわ」

「信頼していますよ」

 再びサイガはベッドに横になり、シャノンは掌から発した癒しの魔法をサイガに施した。



イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。

セナ

挿絵(By みてみん)

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