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第128話 「乱れ舞う本能の凶刃。シャノンよ、ミコを眠らせろ!」(バトル)

 全身の毛を逆立て、狂ったように唸り声を上げ続けるミコ。サイガの反撃を受け一旦距離をとったものの、再度攻撃を仕掛けるために背を丸めたところで、何かに気付いて足を止めた。

「ぐぅう゛う゛う゛う゛・・・ふーーーーっ!しゃあああああああっ!」

 正面からにらみ合った状態で、ミコはより一層声を上げて敵意をむき出しにした。サイガの内側から得体の知れない気配があふれ出してきていたのだ。

 サイガが発動させた『蹂』の状態は、その命の危機を、強くミコの野性に訴えかけていた。


 向けられた殺意の矛先を感じ取り、ミコは更なる警戒態勢に移った。

「な゛ぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛!ふぎゃああああああ!」

 ミコの全身の毛が逆立ち、尻尾が直立した。皮下脂肪が消え、筋肉の線が浮き出る。黒目が縦に細り、二足から四足になった。さらに威嚇の声は音波兵器のように周囲の耳をつんざく。

 ミコは四足になることで、より猫の猛獣に近い戦闘が出来るようになるのだ。


 ミコの姿が消えた。次の瞬間には、サイガの顔の横に黒い爪が現れた。

 突如訪れた命の危機に、サイガは爪の進行方向に合わせて横転し、難を逃れる。

 爪は頬を掠めていた。血の筋が宙に生じた。ミコの身体能力はサイガを上回っていた。

 更なる出血に、エィカは思わず両手で顔を覆った。

「くっ・・・この形態になって、攻撃速度と正確さが飛躍的に向上した。いかん、このままでは、いずれ追いつかれて致命傷をもらう。まずいな、集中が途切れれば『蹂』が発動できん・・・」

 サイガの『蹂』の状態は完全ではなかった。ミコの猛攻と殺気はサイガにそのいとまを与えなかったのだ。

「仕方ない・・・半端な状態になって、無駄に怪我をさせてしまうが・・・背に腹はかえられん。いくぞ!」

 『蹂』が発動した。ミコが警戒していた得体の知れない気配がその片鱗をのぞかせる。


 半端ではあるが、サイガは自らに課していた封印を解除した。その状態の名は『蹂』(じゅう)。敵の命を侵略することだけを目的とした、最も残酷な状態の一つだ。

 サイガは、暴走状態のミコを自身の最も残酷な状態と拮抗する敵と判断したのだ。

 しかし、一つ懸念がある。発動の状態が半端なため、ミコを鮮やかに制圧出来る保証がなくなってしまったことだ。

 『蹂』の状態は、殺意を優先し人格を喪失する狂戦士と化すのだ。しかし、半端な状態での発動は、無駄な傷を負わせてしまう恐れがあった。


「ふぅぅぅぅぅう・・・はぁっ!」

 ミコの猛攻を凌ぎつつ、サイガの『蹂』が発動した。そのおぞましい気配を察し、ミコは一旦距離をとった。

 蹂の状態を発動したサイガに対し、ミコは正に獣の喧嘩の如く警戒の姿勢のまま、目を離すことなく低く唸り続ける。

 サイガが動いた。前に一歩踏み出したつま先で土を蹴り上げる。目潰しだ。それは、動きの中に平然と組み込まれており、当たり前のように土を前方に飛ばす。ミコはそれを避けようともしない。だが、その対応が仇となった。

 土の中には、小型の閃光弾が混ぜられていた。土が二人の視線の直線上に来た際にサイガが投じたのだ。


 閃光弾がミコの眼前で爆ぜた。

「ぎに゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛!」

 絶叫と共に両目を押さえて、ミコはサイガに背を向けた。

 しかしそこで、光への恐怖と闘争本能がせめぎあい、ミコはその場で足を止め僅かに躊躇った後、闘争本能に従いサイガへ振り返った。が、それはむざむざと的を差し出す結果となった。

 立ち止まったのは一秒ほどだったが、その短い時間でサイガの準備は整っていた。サイガは振り向いたミコの首を喉輪で掴むと、深く踏み込んで体を持ち上げた。

 小柄なミコの体は、サイガの腕力にかかれば容易に浮き上がる。


 体を浮き上がらせ持ち上げると、サイガは首を掴んだままミコの背を近場の建物の石壁に叩きつけた。衝撃で壁に亀裂が走りミコは吐血。その光景に、野次馬達は恐怖にかられて散っていった。

 本能的にミコは両手で首を絞める手を掴み、足の爪をサイガに向けて蹴りこんだ。いわゆる猫キックだ。

 だが、蹂の状態のサイガは、容赦なく左右の脛に忍者刀の峰打ちを叩き込み、蹴りを迎撃した。捲れた脛からは骨が露出する。

「げっ、痛ったぁ・・・」

「きゃあ!」

 その痛々しい様に、セナとエィカが揃って目をそらす。


 さらにサイガは追撃した。

 忍者刀で三度、腹を斬りつける。

 壁に固定されたままのミコは、見えないままで二撃を爪で防いだが、一撃は皮下脂肪のない腹を真横に裂く。

 あまりの痛みに、ミコは苦しみにまみれた悲鳴混じりの鳴き声を上げる。

「い゛や゛ぁああああああ!い゛や゛ぁああああああ!」

 耳を塞ぎたくなる絶叫と共に、両手足を振り回すミコ。その無秩序さに、サイガは思わず手を放した。

 すかさず、液体のように体を動かしてミコは下方にすり抜け、左に逃げる。そのついでにサイガの左腿を斬りつけていた。


「ぬぐっ!」

 まさかの反撃にサイガは多少ひるむ。斬られた左腿は僅かに引いて攻撃を回避していた。

「ちょ、ちょっと、シャノン様、まだ術は使えないのかい?二人とも容赦なさ過ぎて、早くしないとどっちかが死ぬまで終わらないよ」

 鬼気迫る戦いにあせるセナが、シャノンに詰め寄る。シャノンはそんな声を意に介さず詠唱を続けている。

「その身に張り巡らされし命の網よ・・・痛み、慈しみ、悲しみ、怒り、あらゆる報せを届き満たす羅よ・・・」

 詠唱が進むにつれ、魔力が女神をあしらったロッドに集中する。


 サイガが手裏剣を無数に投じた。数は十。

 ほぼ同時に正面から迫る十の殺意を、ミコはほぼ同時に、六枚のヒクイドリのような黒く大きい爪で弾いた。

 動きは派手ではなく、前に差し出した手と僅かに動く指と爪。最小の動作で手裏剣を上方に弾き、攻撃を無効化した。

「に゛ゃ!」

 さらにミコの手裏剣への対応は、弾くだけでは終わらなかった。

 弾かれ宙に舞った十枚全ての手裏剣を、手の六本の爪を振り下ろし、同時にサイガに向けて打ち返した。


 直線で放った攻撃が直線で返された。

 虚をつかれたサイガは回避が遅れ、全ての手裏剣を両腕の防御で受け止めることとなった。

 平素の冷静な状態のサイガならば、この程度の反撃は予測の範疇なのだが、半端な『蹂』の状態がサイガの反射能力を著しく低下させていた。

 しかしサイガは、反撃をただ許したわけではない。防御の姿勢、手裏剣を受けながら前に出ると、反撃の打ち返しの動きが終わりきっていないミコに飛び掛り、腕を左足で押さえ、その顔に手裏剣ごと腕を押し付けた。

 手裏剣はミコの左目、下唇、頬、耳と、顔のいたるところに突き刺さった。

 たまらず、ミコはさらなる絶叫を上げた。

 双方の攻撃、反撃は共に加減を知らなかった


 二人の攻防が続き、共に赤い飛沫を飛び散らせて足元に血溜りを作り始めた頃、永い集中と詠唱が終わり、シャノンの魔法が発動した。

「このドラ猫娘、少し眠ってなさい!『涅槃の揺り篭』!」

 発動した魔法はシャノンが独自に開発した魔法『涅槃の揺り篭』。脳に作用し、睡眠を促す物質を強制分泌させ、急速に昏睡させる術だ。

 通常なら成人男性が一瞬で十時間以上の昏睡状態に陥るが、ミコの耐久性はそれとは比較にならないほど強い。シャノンは、通常の三十倍以上の濃度の魔力をミコに送り込んだ。


「ぬぅおおおおおおお!りゃあああああ!・・・う!」

「にゃにゃにゃに゛ゃに゛ゃあ!にゃあ・・・あ・・・」

 鬼気迫る攻防を繰り広げる二人に変化がおきた。サイガ、ミコ共に動きが鈍り始め、遂には手を止めたのだ。

「にゃあああ・・・あ・・・くぅ・・・」

 何かが口から抜けるような声を出して、ミコは顔から地面に倒れた。続いて、サイガも両膝を着いてうずくまった。

 ミコはシャノンの強烈な睡眠魔法で一瞬で意識を失い、サイガはその余波で戦意を失うどころか、意識まで朦朧となっていたのだ。

 シャノンの補助魔法はその効果の強さゆえに、攻撃魔法以上に命を脅かすのだった。

 

 こうして、シャノンの補助魔法によって超獣ミコ・ミコの暴走は収まりをみせた。


イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。

サイガ(『蹂』の状態)

挿絵(By みてみん)

ミコ・ミコ(暴走状態)

挿絵(By みてみん)

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