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第127話「ミコ・ミコ大暴走。発動せよ禁断の奥義」(ストーリー)

 サイガたちが合流予定の六姫聖を探し、キャラバン隊の露店通りを歩き回って三時間ほどたった頃、当の六姫聖のミコ・ミコとシャノン・ブルーはようやく一角楼に到着した。

「ああ、やっと着いたわ。もう、ミコったら、なんであんな時間に昼寝するのよ」

 二人の到着時間は、当初の予定より大幅に遅れていた。予定の通りならば、昼も過ぎた頃には到着と考えていたのだが、昼食の直後、ミコを睡魔が襲い、否応無しの昼寝の時間に突入してしまったのだ。そのため、到着は夕方になってしまっていた。

「それにしても随分な人数ね。クロストやワイトシェルでの騒動が影響してるのかしら?」

 馬を繋ぎながら、シャノンは商人達でごった返す一角楼の周辺を見渡した。馬の背にはいまだに眠気の取れないミコが流体物のようにぶら下がっている。

「うみゃ・・・もう着いたのか?」

 周囲の様子の変化に、ミコが目を覚ました。滑るようにずるりと地面に降りると、目をこすりながらゆっくりと立ち上がる。

「ええ、ようやくね。さ、早く合流して、グランドルへ行きましょう。異界人だけでなく、冒険者たちまで集まってきちゃったら、面倒なことになるわ」

「わかった!・・・じゃあすぐに見つけてやるぞ。で、どんなやつなんだ?」

「そうね・・・見た目の特徴は、ここに・・・」

 そう言うと、シャノンはナルから預かっていたメモを手に取る。そこには。

『鋭い眼光の人相の悪い黒一色の男』

『明るい茶髪、目鼻立ちの整った美人顔だが、芋臭さが漂う田舎娘』

『エルフ。ゆるい空気を出しっぱなしのおっとりエルフ』

『よくわからん虫を吐く緑の小娘』

 と記されていた。

「・・・・・・なにこれ?」

 シャノンはそっと紙をたたんだ。


「なあシャノン、なんか、すごい気持ちが悪いぞ、ここ。嫌な気配のやつらがいっぱいだ」

 眉間にしわ寄せ、警戒心と威嚇で喉をうならせながら、ミコが後ろからつぶやいた。尻尾も落ち着かずに左右に揺れている。

 ミコが察したのは黒狼軍が放った斥候の気配だった。斥候たちは、いたるところでキャラバン隊の配置や、人員の観察を行っていた。その気配をミコは野性の勘で察知していたのだ。

「・・・あなたが言うのなら、間違いなさそうね。目的はわからないけど、悪い連中がいるのね?・・・あれ?ミコ?」

 シャノンの呼びかけにミコは応えない。不思議に思ったシャノンがミコを見ると、ミコは前方の一点を睨んでいた。

「ど、どうしたの?ミコ?」

「ふ・・・ふぅうううううう!ぐぅるるるるる・・・」

 ミコは自我が消失していた。前方にある何かのせいで、正気を失っていたのだ。

「え?い、一体なにが・・・?」

 シャノンもミコと同じ方向に視線を向ける。そこにあったのは、鋭い眼光の人相の悪い黒一色の男。サイガの姿があった。その周りには同じく紙に書かれていた特徴の三人がいた。


「え?あの姿、と、いうことは、あれがサイガさん?え、じゃあ、ミコ・・・まさか・・・」

 サイガを認識したところで、シャノンは気づいた。ミコが睨み、殺意を向けていたのはサイガだったのだ。

「ふしゃああああああ!!」

 シャノンが制止するために振り向く前に、ミコが飛び出した。両手に爪を装着し、必殺の攻撃を仕掛けた。

「まさか、さっきの気配にあてられて暴走してる?くっ、とにかく・・・逃げて!サイガさん!」

 大声を出しなれないシャノンが腹から振り絞って声を上げた。

 声はなんとか雑踏に飲まれずにサイガに届いた。


「さ、サイガ!あぶない!」

「きゃあ!!」

「うわ、なんだ!!」

 前方から急襲を仕掛けてきた謎の黒い物体に、セナ、エィカ、リシャクが揃って驚きの悲鳴を上げた。

 シャノンの声が届くより早く、ミコは動いていた。しかし、サイガは百戦錬磨の危機察知能力でその攻撃を刀と鞘で受け止めた。

 強者と強者の気迫がぶつかり合って、衝撃が走る。思わず、セナたちと周囲の商人達が身をかがめる。

「くっ、こんなところで仕掛けるなんて、何を考えている!?くっ・・・でりゃあ!」

 小柄な娘に対して気は乗らなかったが、その戦闘能力に手加減は悪手と理解したサイガは、ミコを全力で蹴り上げた。


 奇襲を仕掛けた黒い物体、ミコは驚異的な身軽さを見せた。サイガの蹴りを足で受け止めると、その勢いに乗って後方に身を翻した。

 着地と同時に、再びミコは飛び出した。

「ん゛な゛ぁあ゛あ゛あ゛!」

 唸り声を上げながらの爪の連撃。サイガは足を止めず受け流しながら移動を開始した。猛獣のように暴れ回る小娘の被害を抑えるために、人気ひとけの無いところに移動するためだ。


「な、なんだい?あの猛獣みたいな娘は?」

 突然の事態に、セナとエィカは思わず腰を抜かして膝を着いていた。そこにシャノンが駆け寄る。

「う、うちのミコが突然ごめんなさい。サイガさんの仲間の皆さんですね。私達は六姫聖のシャノン・ブルー。あの娘は同じ六姫聖のミコ・ミコです。あの娘、なぜか急に暴れだしてしまって・・・」

 事態の現状を述べながらも、シャノンは必死に息を整える。ミコの凶行は、一気にシャノンの心拍数を上げていた。

「むー、あいつの気性、すごく魔物や獣人に近いな。だから、さっきからサイガが感じてた嫌な気配にあてられたのと、サイガの殺気に引き寄せられてるんだ。あーいうやつは、死ぬか眠らせるかしないと止まらないぞ」

 幼い容姿ではあるが、地獄の将であるリシャクは、その知識と考察をもってミコの状態を分析してみせた。


 リシャクの考察どおり、ミコはサイガの殺気にあてられて我を失っていた。六姫聖である以上、強い自制心で己を律するはずなのだが、その性根が野性に近いミコは、あっさりと理性の壁を破壊してしまった。それだけ、サイガの殺気は本能に訴えかけてきたのだ。

「ふしゃあ゛あ゛ああ!に゛ゃに゛ゃに゛ゃあああああ!」

 右腕、右足、左足、右足、左足と空中で体を回転させての連撃。左腕を下から振り上げる死角からの大振り、両腕で刺突の連撃、急速に身をかがませてからの下段廻し蹴り。ミコの連撃は間が発生せず、反撃の隙を生じさせない。

 ようやく隙を見つけて反撃に出るも、攻撃が形になる前に五番目の武器『尻尾』がそれを阻み、攻撃のタイミングを狂わせる。

「あの尻尾は何だ?本当に生えているのか?意思があるように攻撃を遮るぞ?」

 ミコが人間の姿をしているだけに、猫のような動きはサイガの認識を混乱させ、尻尾の妨害行動を予想できずにいた。

「くっ、この娘、身のこなしと雰囲気・・・とても人間とは思えん。何者か知らんが、殺すしかないか?」


 素性の知れない娘とはいえ、命を脅かす攻撃を仕掛ける行為に対抗するために、サイガが刃に殺意を込めた。そのとき。

「待って!その娘を殺さないで!一分だけ時間を稼いでください。私が魔法で眠らせます!お願い、一分だけ!」

「な、何!?」

 シャノンの精一杯の叫びがサイガに届いた。その瞬間、サイガの動きが一瞬止まる。

「しゃあああああ!」

 その一瞬は致命的な一瞬だった。

 乱れ撃つような連撃を放つミコの動きは、一瞬というわずかな隙間に、意識ではなく本能で攻撃を送り込んだ。

 両手の刀と鞘。さらには篭手でかろうじて爪の斬撃を凌いでいたが、しかし遂には押し切られた。


 十のうちの最後の二撃がサイガの顔を襲った。

「ぐぁっ!」

 サイガがたまらず声を上げた。

 聞きなれない声に、セナとエィカは目を見開く。

「くっ、ぜぁっ!」

 距離をとるために、サイガはミコを蹴り飛ばした。

 高速で放たれた蹴りを、ミコは両脚の裏で受け止めると、後ろに跳んで着地した。ダメージを受けた様子は無い。


「さ、サイガさん・・・」

 エィカがサイガの顔を見て絶句した。サイガの顔、額と鼻頭から赤い二本の筋、血が垂れていたのだ。

「う、嘘だろ?サイガが出血してる」

 見慣れない姿に、セナも言葉を失った。いくら六姫聖相手とはいえ、子供相手にサイガが血を流したのだ。


 顔を流れる赤い二筋。

 サイガは血をぬぐった。幸い傷は浅く、一度の払拭で血は止まった。

「一分、稼げばいいんだな?」

 視線をミコに定めたまま、サイガはシャノンに確認した。

「はい、それだけあれば充分です」

「そうか、ならば・・・少し無茶をすることになるな・・・」

 そう言うと、サイガは呼吸を整え、封じていた状態『蹂』(じゅう)を発動させた。

 おぞましいほどの殺意が全身を包んだ。


イメージイラスト ミコ・ミコ(AI) シャノン・ブルー(AI)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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