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第126話 「邪悪なる冒険者達の策謀。動き出す一角楼襲撃計画」(ストーリー)

 太陽が頂点を過ぎ正午になった頃、サイガたちは一角楼に到着した。

 一角楼はそれ自体が商店、ギルド、住居などの集合施設となっているが、その周辺にもかつての宿場町の名残で小規模の商店街がある。

 さらに空いた土地は、多くのキャラバン隊がキャンプ地として利用しており、在庫の整理をかねた露店が立ち並ぶ。置かれる商品はその都合上殆どがガラクタだが、万が一の掘り出し物を求めて古物商が集うため、一角楼はその内外で全く質の違う賑わいを見せるのだ。


「すごいね。見たこと無いものばかりだよ。武器や防具もたくさんあるし、何のために使うのかわからない道具もたくさんだし、目移りしちまうよ。なぁサイガ、記念になにか買っていっても・・・」

「ダ・メ・だ。どうせそのままゴミになるだけだ。それよりも六姫聖と合流する方が先だ」

「ええ~~、せっかく楽しそうなとこなのに勿体無いよ。そんなこと言わずにさ、ちょっとだけ、ね?ね?」

「そうですよ、サイガさん。殺伐とした旅に、一時の安らぎの時間を設けましょう」

「そうだ、そうだ、さつばつはだめだ。やすらぎだ」

 ごねるセナによくわからない主張をするエィカが続き、とりあえずリシャクが真似をする。要するに三人揃って遊びたいのだ。

「だいたいさ、六姫聖の人たちは何処にいるかわからないんだろ?だったら、とりあえず歩いて回る必要があるんじゃないかい?」

「むぅ、言われてみれば、確かにそうだが・・・」

 欲望が手伝って、セナは頭の回転が速くなっていた。

 このままでは、サイガが何を言おうが、セナは遊覧に結びつけると感じたサイガは、その口を閉じさせるために、仕方なく三人の意見をくむことにした。

「しかたない、一旦見て回るか。だが、あまりハメを外しすぎるな・・・っ!なんだ、この不快な気配は?」

 三人の意見を受け入れようとしたとき、サイガは不穏な気配を察した。探るような舐めまわすような、悪意渦巻く邪悪な気配。

 サイガは思わず殺気を纏った警戒の姿勢をとった。

「ど、どうしたんだい?いきなり恐い顔になって・・・」

「・・・・・・いや、なんでもない。どうやら思い過ごしのようだ」

 心配するセナを尻目に、気配を探る。一通り探ったが、その正体を見つけられず、数秒後にサイガは警戒を解いた。

「すまない、心配させたな。行こうか」

「は、はい・・・」

「やったーいくぞー」

 セナとエィカの顔に不安の色を残したまま、四人は露店通りへと歩みだした。



 一角楼から一キロほど南、キャラバン隊を見下ろす小高い丘の上、望遠鏡でキャラバン隊の様子を伺う二騎の姿があった。

「おーおー、ずいぶんと賑やかなことだな。ここ最近、クロストやワイトシェルで物騒な事件が多かったから、武器や資材の入り用になって商人の需要が高まってやがるからな。きっとたんまり抱えてやがるだろうぜ」

 悪辣な笑みを浮かべならがら、望遠鏡を覗く男は隣の男に語りかけた。

「それで、やるのは今夜か?噂ではあの賞金首を狙うのは冒険者だけではなく、王国正規軍の連中まで動員されていると聞く。急がないと首をとられるのは俺達になりかねないぞ」

 先に口を開いた男の名は『ゲイル』。冒険者集団『黒狼軍』を率いる四十代の中級冒険者で、実力なら上級と言われている。中級止まりなのは、他の冒険者の成果を横取りする過去の素行の悪さ故だ。しかし、結果のために手段を選ばない性格は、似たような素行の連中を従えるのに効果を発揮していた。

 ゲイルの言葉に応えたのは、副官の『レグオン』。駆け出しの頃よりゲイルと共に欲望の赴くままに暴れ回る冒険者だ。ゲイルほどは直情的ではなく、冷静さがある分、ゲイルを支えるために黒狼軍の副官を務めている。


「サイガって野郎が一角楼に到着したのは確かなんだろうな?」

「ああ、それは間違いない。先ほど、街道で拾った冒険者の連中が、返り討ちにあったそうだ。時間から考えても、既に到着しているだろう。細かな動向は、キャラバン隊に潜入している斥候からの連絡待ちだ」

 レグオンの手はずで、キャラバン隊にはいたるところに斥候が忍び込み、露店の位置や商人の詳細を調べ上げていた。先ほど、サイガが察知した気配はこの斥候達のものだった。

 ゲイルは、サイガ討伐にかこつけて、キャラバン隊の物資を強奪しようともくろんでいるのだ。

「そんじゃあ、実行は今夜だ。んじゃあ、誰を行かせるかだが・・・」

「新入り連中の中に、ティルとかいう田舎者がいた。あれぐらいの世間知らずなら、言われたとおりに動くだろう」

「そうか。ならそいつに、名誉あるご指名といくか。で、そいつぁどいつだ?」

「赤いバンダナを巻いた、王冠を模した柄の剣を持った若い男だ」

「あいよ、そんじゃ、行って来るぜ」

 そういうと、ゲイルはさらに南にある黒狼軍の駐留地へと騎馬を向かわせた。レグオンも後に続いた。


「おい、ティル。団長が呼んでるぞ」

 仲間からそう言われて振り向いたのは、赤いバンダナを巻き、王冠を模した特徴的な柄の剣を持った青年だった。

 青年の名は『ティル』。冒険者の立身出世を夢見る田舎から出てきたばかりの青年で、年は二十歳。出世のための足がかりとし、国民的英雄である特級冒険者『レディム・ルーグストン』の有する冒険団である『黒狼軍』に在籍している。


 ティルがキャンプから少し離れた団長ゲイルのテントを訪ねた。

 ゲイルは両脇に女奴隷をはべらせて酒をあおっていた。テント内に充満する強い酒の匂いに、ティルは一瞬むせる。

「おう、来たか。まあ座れ」

 着席を促され、ティルはテーブルを挟んで正面の椅子に腰を下ろした。

「聞いたぞ。おまえ、特級になりたいらしいな」

 用件を尋ねる前に、ゲイルが切り出した。咄嗟に「は、はい!」と元気に返事をする。

「そんじゃあよ、今日はおまえに手柄の機会をくれてやるぜ」

「え?て、手柄・・・ですか?」

「そうだ。俺達が賞金首のサイガって野郎を追ってるのは知ってるな?」

「はい。賞金額が十億の過去最高額の男ですね」

「そいつが今、北の一角楼に潜伏して、さらに多くの手下をキャラバン隊に偽装させてるって情報が入った。てことで、おまえには今夜、一隊を率いてその偽装したキャラバン隊を奇襲してもらう。一番槍を勤めて、その武名をとどろかせてやりな」

 言い終わると、ゲイルは新たに注がれた酒を一気に飲み干す。


「あ、ありがとうございます。しかし、何故、ぼくなんかに・・・そんな大事な役目を?」

 立身出世を夢見て田舎を出る者など大勢いる。ティルと同隊にも同じような境遇の下級冒険者は少なくない。その中で、あえて指名を受けたのだ。ティルの疑問は当然だった。

「実はよ・・・」

 グラスを置くと、ゲイルは重々しく口を開き語りだす。

「おれも昔はおまえのように田舎から飛び出してきて、上を目指して我武者羅にがんばったんだよ。だけどよ、いくら頑張ったって、努力したって、巡り合わせが悪けりゃそれが生きることはねぇ。そんな苦しみを若いやつらには味わって欲しくねぇってだけさ」

 少し遠くを見る芝居をしながら、再びグラスに口をつける。わざとらしい仕草だが、純粋なティルは見抜けない。

「団長・・・あ、ありがとうございます!」

 心遣いに感銘し、ティルは礼を述べると共に大きく頭を下げた。その姿に疑う素振りは一切無かった。

「そんじゃあ、作戦の詳細は後でレグオンから伝えさせる。おまえは戻って、一緒にいくやつらを見繕っときな」

 ゲイルに命じられ、ティルは作戦のためにテントを出た。


 希望に満ち溢れた表情のティルがテントを出ると、入れ替わるようにレグオンが入ってきた。

 ゲイルの前に一枚の紙を広げる。一角楼周辺のキャラバン隊の詳細図だ。

「先ほど見てもらったとおり、キャラバン隊は一角楼の南側、街道沿いに集中している。ティルには、商人に偽装した極悪人サイガの手下共と伝えておき、五十騎ほどを与えてここで無差別に暴れまわらせる」

「んで、被害がある程度出たところで、俺達が登場。罪の無い商人を狙う、極悪非道な冒険者達を皆殺し。助けられた商人たちには感謝され、どさくさ紛れに色々いただいちまうって算段ってことだな」

「ああ、運がよければ、一番手柄のサイガも討てるだろう」

 二人の計画の通り、黒狼軍は、もとよりサイガを討つつもりは毛頭無い。一角楼に駆け込んだサイガ討伐にかこつけて、無知な田舎者を焚きつけ突っ走らせ、強盗の罪をかぶせようというのだ。

 ゲイルは長い中級冒険者生活で、悪辣な手段、策謀に長けていたのだ。

 計画の段取りを取り決めると、レグオンはテントを出た。ゲイルは最後の一杯の酒を煽ると、邪悪な計画に顔を歪めながら奴隷の女をベッドに押し倒す。嬌声がテントから漏れ聞こえてきた。



ティル イメージイラスト(AI)

挿絵(By みてみん)

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