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第125話 「戦士達の集う地、その名は一角楼」(ストーリー)

「あ、あの異界人、急に倒れたまま動かんが、まさか・・・死んだのか?あの猫娘の戦闘力といい、六姫聖はそろいもそろって、信じられん戦い方をしやがるな」

 夜間、野営をしつつモーテルでの六姫聖の戦闘を遠方の丘の岩陰より望遠鏡で観察していた、四凶のアールケーワイルドは戦慄していた。

 ミコの凶悪な爪は手足を振り回すごとに命を奪い、シャノンの補助魔法はその高すぎる効果で体機能の異常を招き知らぬ間に死へと導く。一般的な戦闘における、剣や魔法といった主流の戦法から大きく逸脱した手法。そしてそれを使いこなす様は、六姫聖の異常性を遠方からの視覚情報だけで雄弁に物語る。

 アールケーワイルドの隣で同じく望遠鏡を覗くシズクヴィオレッタも、己の真価を発揮できぬままに命を落としたスドウの骸に思わず短い念仏を唱えた。


「なんなんあれ?ちょいと小突いただけで人殺せるなんて、えぐすぎやろ。あんたの計画やと、陛下に気取られんように姫さんとつながるためには、うちが嘘でもあの娘らと一戦交えなあかんわけやろ?下手したら死んでまうで」

 シャノンの、死を招く規格外の補助魔法に、いずれ訪れるあろう未来を想像して、シズクヴィオレッタは背筋を凍らせる。

 王側の不信を買わぬまま王妃シフォンと通じるためには、姫との敵対の構図を崩さぬまま四凶側の意思を伝える必要がある。アールケーワイルドが立てた計画は、交戦し敗れることであえて捕虜となり、姫側への情報の流出路を確保することだった。そのためには、味方である王派を欺くために本気の戦いを最低でも一度は行わなければならない。相手を間違えれば、即座に死を迎える計画なのだ。

「まぁ、あちらさんも、女相手なら多少は手加減してくれるだろう。優しくしてくれることを祈るしかあるまい。ははは・・・」

「要は無根拠ってわけやな?たいそうな計画やで」

 望遠鏡を外しながら、シズクヴィオレッタは不安な先行きに大きなため息をついた。


「お、どうやら出発するようだぞ。しかもちゃっかり刺客の馬まで奪ってやがる。したたかなもんだな」

 アールケーワイルドの言葉どおり、運良くスドウの馬を徴発したシャノンとミコが西へ向かいモーテルを発った。

「そんじゃあ、わしらも追いかけるとするか」

 立ち上がると、アールケーワイルドは野営の焚き火に土をかけて後始末をした。

「こっからまた西に進むんよな、そんなら何処で落ち合う予定なん?」

「サイガの一行も既にグランドルに向かっとるそうだから、予定通りなら『一角楼』だな」

 シズクヴィオレッタの問いに、西を見つめながらアールケーワイルドは答えた。その視線の先には、遥か遠くに、天を突くようにそびえ立つ一本の角のようなものがわずかに見える。遠方のため、その姿は揺らいでいるが、周囲の木々や山などと比較しても抜きん出て高い。その名が示すとおり、一本の角そのものだ。

「一角楼か。待ち合わせ場所としてはちょうどええか。そやけど、そうなったら勢ぞろいしてまうんと違う?」

「だろうな。シズクヴィオレッタ、腹をくくっておけ、こいつぁひと波乱あるぞ」

 二人は馬に飛び乗ると、六姫聖を追って西、一角楼へと走り出した。



 生徒達の見送りの声を背に受けながら、東の地グランドルへ向けてワイトシェルを後にしたサイガ一行。しかし、その行程は決して楽なものではなかった。

 ワイトシェルを脱した直後から、一行を乗せた馬車の後方には賞金に目がくらんだ冒険者がつきまとい、四人は命の危機にさらされ続けていた。

「サイガさん、前方に大きなものが見えてきました。きっと、あれが一角楼です」

 馬車の手綱をさばきながら、エィカが屋根の上のサイガに語りかけた。冒険者達の執拗な追撃を撃退するため、サイガは屋根の上でその動きを観察していたのだ。

「よし、手紙の通りだな。あそこに入れば冒険者たちもおいそれと手は出せんだろう。エィカ、急いでくれ」


 冒険者達の追撃を退けながらサイガ達は、ひとまずの目的地として一角楼を目指していた。グランドルより派遣された六姫聖との合流の地として、指定されていたためだ。

 一角楼とは、ルゼリオ王国を東西に横断する大街道沿いに突き出すように佇む大岩の名称だ。

 高さ五百メートル、外周は二キロ。長年旅人達の目印としてその周辺に宿場町が展開されていたが、近年の掘削技術の発達により一角楼の内部を加工できるようになると、大岩自体を集合施設と利用し岩石都市として発展させた。

 現在では、その内部に宿泊、商業、居住、冒険者ギルドといった施設が完備され、住人、旅人、冒険者、商人と様々な人物が行き交う一大都市となった。

 サイガ達が乗った馬車にはナルからの手紙があり、そこには新たに派遣された六姫聖が一角楼にて待つことが記されていた。

 一角楼の情報を持たない四人だったが、セナの魔録書でその詳細を確認し、一角楼が一般人も住む都市であることを知ると、冒険者達の追跡を断ち切るために一角楼を目指したのだ。


「おらぁ逃がさねぇぞ!」

 騎馬で馬車を追いかける冒険者の一団から、一騎が加速して抜きん出た。大戦斧を両手で振り回す、巨漢の下級冒険者バドルだ。

 バドルの馬は巨漢と斧の重量にも負けず、懸命に加速して馬車の横についた。

「げははははは、全員まとめて首をふっとばしやるぜ!くらえ!」

 戦斧がうなりをあげながら横から車体に迫る。

「セナ、しゃがめ!」

 バドルの斧の威力は凄まじく、一撃で馬車の上半分を粉砕し吹き飛ばした。

 サイガは飛び上がり、セナは指示を受け床に伏せて回避した。


「セナ、怪我は無いか?」

「ああ、大丈夫だよ。なんとか避けられたよ」

 着地したサイガは真っ先にセナに声をかけた。頭に手をかけ、いたわりの態度を見せる。

「あのー、私達もそれなりに巻き込まれてるんですけど?」

「ぶー」

 馬車の前部から、破片を避けるために身をかがめていたエィカが不満そうな顔を見せた。リシャクは頬を膨らませている。

「す、すまない。セナのほうが近かったから、つい・・・」


「おらぁ!よそ見してんじゃねぇぞ!」

 再びバドルが斧を薙いできた。

 サイガは回避の体勢に入ったが、セナは武器を手に取り前のめりになる。しかし、その武器はサイガの見覚えの無いものだった。両手に一本ずつ握られた鉄の棒、所謂、鉄鞭てつべんと呼ばれる武器だった。

「セナ、なんだそれは?いつの間に用意したんだ?」

「これは戦鎚が変化した武器だよ。なんか、私が力の加護を使いこなすたびに武器が変化してって、今はこんな棒みたいになっちゃったんだ。サイガ、ここは私に任せてくれ!」

 襲い来る巨大戦斧をセナは片手の鉄鞭で弾き返した。

 力の加護と新生した武器の威力は強く、そのあまりの衝撃にバドルは戦斧を支えきれずに落馬した。


 落馬し街道の真ん中に転がるバドルを避けながら五騎の冒険者が接近して来た。弓が二人、魔法が一人、剣が二人。

 剣を握る二人は中央から直進し、弓は左右に展開、魔法は剣の後方で援護に入る。

「氷柱よ、敵を貫け。『アイスフォール』」

 女魔道士の手から馬車の進行上、前方上空に黒雲が作られた。規模は小さいが、氷柱を降らせる氷魔法、危険度は高い。

「そんな、上空では対処の使用が・・・」

 エィカが絶望を口にする。その横で、間髪入れずにリシャクが口に手を突っ込み、一匹の虫を引きずり出した。

 『タツマキトンボ』。体長は二メートルを超え、八枚の翅を激しく羽ばたかせて旋風を巻き起こす地獄の虫。

 タツマキトンボは氷雲に飛び込むと、内側からの旋風で雲を散らして魔法をかき消した。

「そんな、魔法が消された?なんなの、あの見たことない巨大な虫は?」

 女魔道士は再び詠唱を開始した。次は地面に氷を発生さえる『スリップフロア』を放つつもりだ。


「むー、あいつ、うっとーしい」

 進行を妨げる魔法に苛立ちを見せると、リシャクは空に向かって大きく口を開いた。喉の奥から発達したアゴを持つ、無数の『オオガクカミキリムシ』が大きな羽音と共に湧き上がり飛び出した。

 真横で行われるおぞましい光景に、虫を苦手としないエィカですら全身に鳥肌を立たせる。

 空に黒い川が発生し、その流れは後方で詠唱をする魔道士に向かう。

「しばしその足を止めよ『スリップフロ・・・』ひぃっ!」

 詠唱も半ばに、オオガクカミキリムシの先鋒が女魔道士の口の中に飛び込んだ。それに続いて大挙して押し寄せたオオガクカミキリムシは次々と魔道士と馬に飛びつき、魔道士の詠唱を中断させた。

 魔法で追い払おうにも、口に侵入した虫は舌の上に居座り、その詠唱を妨げる。

 外皮の虫は皮膚に群がり、完全に動きを封じた。


 リシャクに続いて、エィカも動いた。

 弓に二本の矢をつがえ真後ろを向く。横向きに弓を構えると、同時に放った。二本の矢は真っ直ぐに進む。風の精霊の力を借りて、矢は疾風の速さで二人の剣士の間を通過した。

 見当違いの方向に向かった矢に対し、街道の二人の剣士とその少し後方で左右に広がる弓使いが嘲り笑う。

 冒険者達が笑っていられなくなったのはその直後だった。剣士の間を通過した二本の矢は、剣士の真後ろで矢じりを衝突させ、磁石の同極が反発するように左右に散った。そこに風の精霊の力が加わり、矢は勢いを増し、展開する弓使いに迫った。

 弓術『拡矢』(かくし)。突然方向を変えた矢は、見事に弓使いの不意を突いた。

 冒険者二人は、ほぼ直角に進行方向を変えた矢に対応しきれず、弓を扱うための軽装によって露出した利き手に矢を受けて弓を手放した。


 仲間の死を受けて、あだ討ちとばかりに剣士二人が加速して馬車に近づく。

 切っ先が届くほどの距離まで接近すると、剣士は左右二手に分かれ挟撃の体勢をとる。

 が、その程度の戦法で下級冒険者とサイガの実力の差が埋まることは無かった。

 サイガは右の騎馬に前から飛び移り、冒険者の眉間に膝を叩き込む。さらに冒険者を足場にサイガは飛び去り、左の騎馬に向かって身を翻しながら飛び移る。踏み台にされた剣士は落馬した。

 最後の一人に対してサイガは特に技術を用いることは無かった。

 一行の戦闘力の高さに動揺した最後の一人は、サイガが馬に飛び乗ると同時に慌てふためき、剣をやたらに振り回すと馬の高等部を叩いてしまった。それにより、興奮した馬に振り落とされて冒険者は何一つ腕前を披露することなく街道に転がった。

 サイガはいち早く馬から離脱して馬車に帰っていた。


 わずかの時間に展開された、とるにもとらない戦いだったが、終わりを迎える頃には一行は一角楼の麓に到着した。

 サイガたちは、命を狙う敵を誰一人殺すことなく戦いを終わらせた。

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