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第124話 「黒聖母は冷たく微笑む。下された、シャノン・ブルーの慈悲無き鉄槌」(ストーリー)



 窓、カーテンの隙間から差し込む陽光と鳥のさえずりが、朝の訪れを告げる。

 結局、シャノンは夜中の間、目を覚ますことなく、敵の一切の処理をミコに任せ安眠の海を漂っていた。

 充分な睡眠を終え、蠢きながらゆっくりと目を開けると、シャノンは体を起こしてまどろんでいた。

 シャノンは寝起きが悪く、朝が弱い。半開きの目は一見不機嫌そうだが、単純に脳が覚醒していないだけだ。

「んん・・・む・・・んああ~・・・あれ?」

 毛布に顔を突っ込んでは上げるを何度か繰り返し、ようやくシャノンはベッドが狭いことに気付いた。なにかがベッドの中に入り込んでいる。大方の心当たりは着くが、確認のために毛布を捲る。

「やっぱり・・・こらミコ、寝るなら自分のベッドで寝なさい」


 丸まり、すやすやと眠るミコを揺さぶると、手に違和感を覚えた。何かが掌に付着したのだ。

「な、何?このぬるぬるしたのは?」

 シャノンは掌を見た。そこにあったのは赤黒い液体、血だった。シャノンは一気に目が覚めた。

「ちょっと、ミコ!返り血つけたままベッドに入ったわね!やだ、私も血まみれじゃない」

 覚めた目で改めて見ると、シャノンの寝巻きは真っ赤に染められていた。意識したとたん、鼻には生臭い血の臭いが流れ込む。

「もう、最悪ぅ・・・」


「むにゃああ、あ、シャノン、おはよう」

 丸まった状態から目だけを開けて、ミコが挨拶をする。

「おはようじゃないわよ。返り血をつけたまま、人のベッドに入り込むなんて、なに考えてるの?朝からシャワー浴びなきゃいけなくなったじゃないの」

 無理やり目を覚まさせられ、気の乗らないままシャノンはベッドから降りる。

 寝巻きを脱ぎながら浴室に向かう途中で、足に何かが当たった。

「痛っ・・・え、なに?荷物でも崩れた?」

 下着に手をかけながら足元に目を向けると、そこには四つの人頭が転がっていた。シャノンがぶつかったのはその一つだった。

 転がるそれを認識、理解すると、シャノンの全身に鳥肌が立った。

「ミコぉーーーーー!なんなのこれはぁーーーー!こんなの持って帰ってきちゃだめでしょ!!」

 寝起きの、動きの鈍い喉で弱い絶叫を発する。

 猫は捕まえた獲物を飼い主に見せる行動をすることがあるが、ミコもその行動を見せた。惨殺した盗賊の頭部を持ち帰っていたのだ。

「なにって・・・おみやげだよ。すごいだろ」

「はいはい、すごいすごい。それじゃあ、こんなのいらないから捨ててらっしゃい!」

 本能のままに生きるミコに、いまさら猫の習性を叱ったところで効果が無いことを知るシャノンは、絶叫後、足早に浴室に向かった。


「あーもう最悪、後処理は清掃班に任せて早く発ちましょう。ほらミコ、いい加減に起きなさい。それと血も洗い流してきなさい」

「んー・・・はーい」

 言われるがままに血を洗い流して着替えると、ミコとシャノンは部屋を出た。そして目の当たりにした光景に、シャノンは呆れ声を漏らした。

「ミコ、ちょっと暴れすぎじゃない?」

 そこにあったのは、ミコの爪によって切り刻まれ、崩壊したモーテルとレストラン、そして盗賊たちの残骸だった。建物は大小さまざまな破片へと無惨に姿を変え、無事なのは二人が夜を越した部屋だけだった。


「これだけ荒れてるって事はまさか、馬も・・・ってやっぱり。みんな逃げちゃってる。ミコぉ~~」

 取り返しのつかない状況に、シャノンは脱力してミコの肩を掴む。そのあまりの落胆ぶりに、さすがにミコも負い目を感じた。「ご、ごめん・・・シャノン。少しやりすぎたかも・・・」

「はぁ、もういいわ。済んだことだし、眠いからって、ミコに丸投げした私にも責任があるわ。諦めて、歩くしかないわね」


「シャノン、こいつ見てくれ」

「な、なによ生首なんて持って?」

 シャノンを呼ぶミコの手に握られていたのは、昨夜盗賊たちを傀儡と化して襲撃してきたタイセイの頭だった。

昨夜ゆうべは、こいつが盗賊たちを操って襲ってきたんだ。国王派の異界人だって言ってたぞ」

 白目の頭部を左右に揺さぶりながら、ミコは元気に伝えてくる。

「もう国王派が追いついてきたのね。で、どうだったのミコ?強かった?」

「ぜーんぜん。能力が使いこなせてない素人だったよ。つまんなかった」

 タイセイが素人だというミコの評価は間違いではない。ルゼリオ王国に現れた異界人は、特殊能力スキルというものを習得しているが、当の本人らは元は大半が一般人であり、特殊能力スキルを使いこなせず、身に余る力におぼれた連中が殆どなのだ。

「そう。とりあえず差し向けられた捨て駒ってところでしょうね。私達に勝てれば良し、殺されても損害が無い程度の雑兵でしょう」

「まあな。だってすごく弱かったからな」

「だけど、一人目が来たということは、追撃の異界人が来るのは時間の問題ね。早く発ちましょう」


 徒歩の旅路を覚悟したシャノン。大きなため息をついて荷物に手をかけたところで、険しい顔で動きを止めた。

「どうやら、出立は少々遅れそうね」

 荷物から手を離し、後方を振り向く。そこには瓦礫の上に立つ、所々破れた胴着を身にまとったプロレスラー体型の男の姿があった。男は黙ったままシャノンに不敵な笑みを向ける。

「国王派の異界人ね。私達を止めに来たのかし・・・!」

 シャノンが言い終わる前に、男はシャノンに殴りかかった。


 不意打ちに動じることなくシャノンは軽やかに攻撃を躱す。回避と同時に、女神をあしらったロッドを出現させ、男の顔面を叩いた。鋭い金属音が響いた。

「!?硬い」

 人間を叩いておきながら、腕に走る痺れ。シャノンは男からだが金属に変質したことに気付いた。

「体の硬質化。それがあなたのスキルね?」

 殴った姿勢から、首を鳴らしながらゆっくりと立ち上がり、男はシャノンを見る。

「その通りだ。おれのスキルは外皮の硬質化その名も『超堅鎧ストロングアーマー』。おまえらの攻撃なんかじゃ、傷一つつかないぜ!」


 男の名は『スドウ』。転移する以前は大きな体格とそこからくる傲慢な性格のプロレスラー見習いだったが、道場の厳しいしごきに耐え切れず逃亡をはかった際に偶然この世界に召喚された。

 召喚されてからは授かったスキル『ストロングアーマー』で盗賊まがいの行為を繰り返していたところを、国王配下の異界人専門の捕獲部隊に拘束され、地位と衣食住の安定と引き換えに異界人管理局の管理下に入った。

 得意とする戦闘方法はスキルと肉体を使った単純な打撃。性格と相成って、粗暴な戦い方を好む。


「へへへ・・・女二人殺すだけなんざ、楽勝の任務だ。そんで、てめぇはシャノン・ブルーだな。知ってるぞ、回復と補助魔法が得意らしいな。さっきの攻撃も生身でも効かないぐらいの威力だったからな。へへ、そんじゃあ、さっさと終わらせてやるぜ。死ね!」

 スドウが大きく拳を振りかぶった。しかしその動作に対し、シャノンはロッドをしまい、回避の際についた埃を払っていた。

「なんだぁ?ビビって、抵抗する気がなくなったか?安心しろ、恐怖を感じる前に殺してやるからよ!」

「おかまいなく、もう終わってるわ」

 いきり立つスドウに、シャノンは冷たい視線と共に静かに言い捨てる。その言葉には、全くの温度も感情も無い。

 シャノンの振る舞いを見て、ミコは何かを察したのか、全身の毛を逆立てながら二人から離れた。

「あ?何言ってやがる!?ぬ・・・っ・・・な、なんだ・・・目、目が見えねぇ・・・」


 スドウの視界が、徐々に闇に包まれ始めた。同時に脱力感が訪れ、足が震え、寒気と倦怠感が全身を支配する。

「げ、げぇ・・・な、なんだこりゃあ・・・目が見えねぇ、気分が・・・悪い・・・さ、寒い・・・やわらかいから・・・」

 スドウの体調は急速に悪化し、遂には膝を着いてうずくまった。さらに口から出てくる言葉は、状況に合わないものとなる。明らかに何かの影響で言語に異常が出ていた。

「あなたが言うように、確かに私は回復と補助魔法を扱うわ。だけどそれは得意なんじゃない。その二つを極めたのよ」

「え・・・え・・・」

 シャノンの言葉はスドウの耳に届いているが、その意味を理解できずにいた。それだけスドウの機能は低下していた。

「さっき、あなたの顔を叩いたとき、私はあなたの肺にデバフをかけて、酸素供給能力を低下させたわ。その結果、血中の酸素濃度が低下し、身体の機能不全に陥ったというわけ」

 静かな口調で説明するが、スドウは理解できない。意識が混濁しているのだ。

「そしてその影響は最終的に脳に及び、現在あなたから言語の機能を完全に奪った。と、いうことよ」


 うずくまり震え続けるスドウを、シャノンは冷たい目で見下ろす。

 下がり続ける体温と機能を失った脳。スドウは、己に起こった事態を理解しないまま、ゆるやかに死を迎えた。堅固なスキルといえども、内部からの攻撃には抵抗する術が無かった。


「しゃ、シャノンはやっぱり恐いな・・・」

 ミコは離れた場所で震え上がっていた。

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