表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/322

第123話 「吹き荒れる殺意の大旋風。超獣ミコ・ミコ大暴れ」(バトル)

 子牛一頭分ほどの肉料理をたいらげ、膨れ上がった腹をさすりながら、満足げにミコ・ミコはモーテルのベッドで仰向けになった。

「にゃあああああ、薬が盛られてたけど、料理は美味かったな。さー寝るぞー!」

 ベッドの上で猫のような声を上げた。ミコ・ミコは捨て子として拾われ、十歳まで猫科の獣人家族の保護下で育てられた。その後、人間に発見され、才能を見出されて六姫聖になったのだが、獣人との生活の中でその習性は猫的なものへと偏っていた。猫耳や尻尾のアクセサリーは、その獣人族の家族を忘れないために身につけているのだ。


「ミコ、寝る前にお風呂に入っちゃいなさい」

「えー?お風呂嫌いだー。濡れたくなーい」

「だーめ、あなた放っといたら、何日もお風呂入らないどころか歯も磨かないし、すごく汗臭くなっちゃうでしょ。少なくとも、私と一緒のときは、入れるときは毎日入らせるわよ。いいわね?」

「むぅ・・・わかったよぉ」

 精神状態と連動した猫耳と尻尾をしおれさせながら、ミコは部屋を出て風呂へと向かった。



 六姫聖の二人が就寝の準備を行っている頃、モーテルの周辺には食事に仕込んだ睡眠薬の効果が現れる頃合を見計らった盗賊たちが取り囲むように集まっていた。

 盗賊たちの人数は二十人に及ぶ。

「どうだ、寝たか?」

 部屋の様子を伺う盗賊の一人に、仲間が尋ねた。

「いいや、まだだ。しかしおかしいな、メシに薬は盛ったんだろ?あいつら一体いつまで起きてやがるんだ?」

「確かにおかしいな。いつもならとっくに昏睡してる時間だ。まさか薬が効いてないのか?」

 盗賊二人は怪訝な顔で部屋を睨む。


「そりゃ彼女達は六姫聖だからね。下手な小細工なんて通じないよ」

「だ、誰だ!?」

 二人の背後から軽い口調の男が語りかけてきた。盗賊は気付かれないよう、大声を出さない程度で同時に振り向く。

 夜闇の中に、何かが二つ光った。光の正体は針。振り向いた盗賊の額に、男が投じた針が突き刺さった。

「ああ、あががががが・・・」

「きききききき」

 針は脳にまで達し、二人の言語と身体の自由を奪った。直立のまま揃って痙攣する。

「ふふふ・・・雑魚だけど、まぁ、捨て駒にするには丁度いいかな」


 男の名はタイセイ。異界人であり、この世界に転移した際に天から授かった特殊能力スキル魔傀儡デスマリオネット』を使う、国王側の刺客だ。

 タイセイは脳に針を打ち込むことにより、相手を完全に支配することが出来る。さらにその能力は決して解除されることは無く、一度支配下となった相手は、死ぬまで傀儡という人形として生きることになる。命の尊厳を軽視する特殊能力だ。

「さて、君達は先に部屋に向かってな。残りの連中にも針を打ち込んでこなきゃね」

 そういうと、タイセイはレストランとモーテルのスタッフを装う盗賊たちのところへと向かった。



「ふぅ、さっぱりしたわ。さ、早く寝ちゃいましょう。って、あら?もう寝ちゃってるじゃない」

 風呂から戻ったシャノンが目にしたのは、ベッドの上で猫のように丸くなって眠るミコの姿だった。性格が猫なら、行住坐臥あらゆる動作が猫なのだ。

 すっかり夢の中に落ちたミコに毛布をかけてあげると、シャノンもベッドに入り早々に眠りに落ちた。


 二人が眠り一時間が過ぎた頃、ミコが目を覚まして頭を上げた。きょろきょろと辺りを見回すと、シャノンに声をかける。

「動きがあったのね」

 目を閉じ、眠りの姿勢を保ったまま、シャノンは返した。

「ああ、すっかり囲まれてるな。だけど、何かおかしい、気配はあるけど意思がない感じだ。すごく気持ち悪い」

「どうするの?私も出たほうがいい?」

「いや、嫌な予感がする。なにか後ろに控えているかもしれない。まずは私だけでやる。シャノンは待っててくれ」

「わかった。任せるわ」

 一瞬で戦闘体勢に切り替わったミコは、音も無くベッドから飛び上がると空中で数回転し、静かに着地した。正に猫の身軽さだ。

「んな゛ぁ~~~お゛」

 喉を揺らして短く啼くと、ミコはわずかに空いた窓に頭を突っ込み、するりと外へと抜け出た。

 猫は頭さえ通れば体は通過できるといわれるが、ミコは正にその芸当を人間の体でやってのけたのだ。


 盗賊たちは夜の闇に紛れ、モーテルを取り囲んでいた。しかしそこに、本来の盗賊たちの意思は無い。彼らは、額に打ち込まれた針により自我を失わされ、操られるままに武器を手に取り、生気なく行動していた。

「な、なんだこいつら、気持ち悪い。まるでゾンビじゃないか。やっぱり何かおかしいぞ」

 自室の屋根の上、周囲を見渡せる位置でミコは盗賊たちの異様な状態を確認した。ミコの目は夜目が利き、暗がりでもしっかりと対象を視認できる。

 ミコは戦闘の装束を展開していた。手足が露出したレオタードのようなスーツに、肩や腿に動きを妨げない防具をつけ、四肢に篭手と具足を装着している。もちろん、猫耳と尻尾も装着済みだ。


 生気のない盗賊たちに動きがあった。二人の泊まる部屋の扉に斧を持った大柄な盗賊が歩み寄って、大きく振りかぶる。

「にゃ!」

 大柄の男に向かって、ミコが飛び出した。

 振り下ろされる斧を横から右の蹴りで弾き飛ばすと、左の蹴りで首を蹴り頚椎を砕く。軽量だが頑丈な具足は人間の骨ごときは易々と粉砕する。

 ミコの猛攻は止まらない。大柄の男に蹴りを叩き込んで着地するまでの間に、篭手を装着した両手のネコパンチを全身にくまなく叩き込む。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!にゃにゃにゃにゃあああああああ!」

 『ポコポコニャンニャン』。その気の抜けた名前とは裏腹に、その身体能力に任せて数秒間で数百発の打撃を叩き込み肉塊に変えてしまう、純粋ゆえに容赦の無い攻撃だ。


 攻撃が終わったとき、大柄の男は原型がなくなるほど、ぐずぐずな物体となっていた。

 一人目の始末を皮切りに、ミコの無双劇が始まった。

 後方から襲い掛かる二人の盗賊。その攻撃を後方に向かって高々と跳躍し躱すと、宙で体をひねらせて両脚の踵落としを二人の盗賊の頭にそれぞれ叩き込んだ。盗賊は頭が体にめり込み、制御を失い倒れた。

 ミコは大きく横の盗賊に向かって跳んだ。跳んだ勢いで横回転すると、後ろ廻し蹴りを盗賊の頭に叩き込む。盗賊は頭部が百八十度回転してよろけて倒れた。

「本気でいくぞ!シャアアアアア!」

 気合とともに魔力が迸り、ミコの篭手と具足から爪が飛び出した。四肢一箇所につき爪が三本。まるでヒクイドリの爪のような黒光りする鋭いく大きな爪。小柄な体に不釣合いな姿が異様さを強調する。


「ふみ゛ゃああああああ!」

 爪を装着することにより、ミコの動きは大きく変化した。瞬時に的確に頭部を打ち抜いていた正確無比の打撃から、ただひたすらに爪で切り裂く大雑把な、正に獣の狩りのような動きとなった。

 内側から外側に向かって引っ掻くように右腕を払った。盗賊三人が同時に横に四つに分断された。

 左手を上から下に振り下ろした。盗賊は股下まで切り裂かれて四枚に下ろされる。

 その身軽さで盗賊の頭に着地すると、爪は頭頂部から顎下まで貫いて脳を破壊した。

 爪の切れ味は並みの武器では比較にならないほどで、対象の素材を問わず、触れるだけで切断してのける。ミコが無造作に両手足を動かすだけで、その度に盗賊は一人また一人と命を落としていく。


 一分間ほど過ぎ、ミコの大暴れが終了した。足元には血にまみれた屍が累々と転がり、全身が血にまみれ、特に爪は赤黒く染まっている。ミコ自身は体に着いた血を舐めとっていた。二十人ほどいた盗賊たちは全滅していた。

「そこにいるんだろ?出て来い」

 ミコは夜の闇に向かって呼びかけた。

 闇の深いところから、ゆっくりとした歩みでタイセイ姿を現す。

「やるねぇ。さすが六姫聖」

「私のことを知っている?ということは、おまえ、盗賊じゃないな。さっきの盗賊たちの様子といい、おまえの仕業だな」

「そうだ、おれはタイセイ、異界人でありお前たちの敵だ。王の敵となるおまえには、ここで死んでもらう。死体の形を残していたことが、おまえの失態だ!」


 タイセイが両手を天にかざす。指は糸を操るように踊る。

 指の動きに合わせて、形を保っていた死体が動き出す。タイセイの『デスマリオネット』の強制力は意識、生命の有無を問わない。

 死体がタイセイの前に集合し、人間十人分の肉の壁が作られた。

「おまえの戦い方、見ていたぞ!一対一なら敵は無いようだが、密集した状態の敵には分が悪いだろう!さあやれ、一斉攻撃でしとめろ!」

 タイセイの指示により、死体が一斉に攻撃を仕掛けた。剣、槍、斧、弓、魔法が同時にミコに迫る。


「ははははは!どうだ、なす術が無いだろう!さあ、くたばるがいい。おれの特殊能力スキルにかかれば、いかに六姫聖といえど・・・げぇ!」

 タイセイの勝ち誇った振る舞いは、悲痛な叫びで幕を閉じた。

 十体の死体もタイセイの体も、ミコの爪の一撃によりひと括りで鮮やかに切り裂かれたのだ。

「ぐぁ・・・ば、ばかな・・・攻撃が、届く・・・だと・・・」

「私は六姫聖だぞ。あの程度が私の本気のわけないだろう。黒幕ぶったことをやりたいなら、ちゃんと観察する目を持てバカ」

 切断されたタイセイの体が地面に転がる。スキルの解除を見届けると、ミコは部屋に戻って再び眠りに着いた。

 シャノンは外を一切気にかけることなく、すやすやと眠っている。ミコを信頼しきっているのだ。

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ