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第122話 「不思議な凸凹コンビ?新たな六姫聖ミコ・ミコ。シャノン・ブルー」(ストーリー)

 サイガ一行が東に向かいワイトシェルを出立したのと同じ頃、王国を東西に横断する中央道を、グランドルから西に二人の人物が並走していた。

 だがこの二つの人影、大きな違和感があった。並んで走行しているのだが、一方が乗馬し一方が徒走かちはしり。決して馬が人間に合わせて徐行しているのではなく、人間が馬と同じ速度で疾走しているのだ。

 二人はマントを纏い、フードを頭まで被りその顔と性に判別がつかない。


「なぁ、シャノン。走りっぱなしおなかがペコペコだ。そろそろ日も落ちるし、次に宿があったら今日はそこまでで休もう」

 徒走の人物が馬上の人物に語りかけた。走る人物の名は『ミコ・ミコ』。六姫聖の一人で、『超獣』の二つ名で呼ばれる、齢十六の少女だ。

 ミコ・ミコは自身の足で馬と同じ速度で街道を駆け、その上で相方に語りかける余裕まである。規格外の身体能力と体力の持ち主だ。

「そうね。おそらくワイトシェルからもこちらに向かって出立した頃でしょうし、あちらはかなりの実力者ということだから、夜通し走って合流を急ぐこともないでしょう。今日はもう休みましょうか」

 ミコ・ミコの提案を穏やかな口調で受け入れたのは、同じく六姫聖の一人『黒聖母』の二つ名で知られる『シャノン・ブルー』。回復と補助魔法を極めたとまで称される使い手だ。


 二人が意見を一致させてから、さらに走ること約三十分。街道沿いにモーテルが現れた。ミコが喜びの声を上げる。

「やったぁ!宿が見えたぞ。シャノン、急ごう、ほらレストランも併設してるぞ!うぉおおおおおお!」

「?こんなところにレストランなんてあったかしら?って、あら、ミコ?」

 空腹が追い風となって、ミコは速度を上げてシャノンを置き去りにした。

「こ、こら、ミコ、ちょっと待ちなさい。一人で先走らないの」

 馬を加速させ、シャノンはミコを追いかけた。


 先行するミコを追いかけ続け、ようやくシャノンは追いつくことが出来た。しかしそれは、ミコがレストランに到着し、入り口で今や遅しとシャノンを待ちこがれていたからだ。

 ミコは不満そうな顔でシャノンを迎えた。

「ミコ、先走っちゃダメでしょ。私達は任務中なのよ。欲に任せた行動は慎みなさい」

 到着したシャノンは開口一番、ミコをたしなめた。シャノンの言うように、今が任務中であることは念頭に置くべきことなのだ。

「遅いぞシャノン。さ、早く入ろう。ごはんだ、ごはんだ、わーい!」

 シャノンの忠告に一切耳を貸さず、食欲のままに行動するミコ。その振る舞いに、瞬時にシャノンを取り巻く空気が変化した。

「え?聞こえてない?私は、勝手なことをするなといっているの。わかる?聞こえてる?あなた今どういうつもりで行動してるの?」

 早口だが、重く冷たい感情の無い口調でシャノンはミコの後方から問いかけた。わがまま娘に対し、静かな怒りを見せたのだ。

「ひっ!ご・・・ごめんな・・・さい」

 重々しい空気を察し、ミコは体を硬直させた。全身に鳥肌が立ち、謝罪はするものの、シャノンを見ることが出来ないほど怯えている。

「ごめんなさいって言ってるけど、何が悪いかわかってるの?」

 冷たい口調のまま、シャノンが近づく。

「は、はい。自分勝手な行動をしたことを反省してます・・・」

 穏やかな雰囲気をかもし出してはいるが、シャノンは規範に反するものを強く嫌悪する。ミコの振る舞いは、そんなシャノンの逆鱗に触れたのだ。

「そうね。じゃあ、これからはどうするの」

 問いかけに温度は無い。

「ひ、ひとりで先走ったりせず、シャノンと一緒にいます・・・」

「うん、そうね。自分の何が悪いか理解できて反省できてるわね。はい、よくできました。さ、ご飯にしましょう」

 一瞬で真冬から真夏に切り替わったかのように、シャノンは態度を一変させた。その急変ぶりにもミコは一層怯える。

「は、はい・・・」


 レストランの扉を開ける前に、シャノンはフードに手をかけ剥いだ。顔が露になる。

 チョコレートブラウンのセミロングの髪に優しげなスカイブルーの瞳。細身で華奢な体格だが、一挙手一投足から身についた静謐さと気品がうかがい知れる。

 シャノンは、フードに続いてマントを脱ぐと、静かで洗練された最小限の仕草で綺麗にたたみ、埃もたてずに袋に仕舞い込んだ。

「さ、入りましょうか」

 陽気な口調のまま、足取りも軽やかに、硬直するミコを追い抜いて先にレストランに入っていく。

「ほら、ミコ、早く来なさい。お腹すいてるんでしょう?たくさん食べましょう」

 まだ硬直が解けないミコに声をかけると、シャノンは戸の奥へと姿を消した。


 数十秒の後、体と心に整理をつけたミコがフードを剥いだ。現れた顔は、十六という年齢らしい幼さの残る顔立ちだった。

 髪は軽いカールがかかったクセ毛のショートヘア。アーモンドのような形の大きな瞳は、まるで子猫の印象を受ける。さらにその子猫の印象を強調するように、頭には猫耳のカチューシャをつけている。

 マントを脱ぐと、猫の印象はさらに強まった。黒一色で統一されたタンクトップとスパッツにスニーカー。さらには黒い尻尾のアクセサリーまでつけている。全身で一匹の黒猫を表現しているようだった。

 乱雑にマントをたたむと袋に押し込んで、ミコは腹の虫を鳴らしながら店内に駆け込んだ。数十秒の間に盛り返した食欲は、恐怖を凌駕していた。本能のままに生きる様は、正に猫を体現していた。


「ほんと、ミコは六姫聖でよかったわね。もしそうじゃなかったら、こんなにご飯食べられないわよ」

 テーブルの上に次々に運ばれてくる料理を迎えながら、シャノンはミコの食欲に感心していた。

 ミコは高い身体能力に比例して、その消費カロリーは一般人と比較にならないぐらい高く、一日に約二万キロカロリーを必要とする。さらに戦闘後となれば他の六姫聖と同じく大量のカロリーが必要となり、その量は十倍近くに達する。

 六姫聖の食費は膨大なものになるが、任務においての食事は公費となるため、ミコは心置きなく腹を満たすことが出来る。


「わーい、いただきまーす」

 四人掛けのテーブルが肉料理で埋め尽くされると、ミコは料理にかぶりついた。

「!」

 口をつけた瞬間、わずかに間をおいて、ミコは食事を続けた。

 こぶし大のハンバーグは一口で消え、金串に連なった牛肉は咥えた端から一気に引き抜くかれ、ステーキはすべるように喉を通る。その食事風景はさながら獣のようだった。


「あらあら、相変わらず、すごい食欲ね。見てるだけでお腹いっぱいになっちゃうわ」

 ミコの食事量に感心しながらも、シャノンの前には山盛りのパスタが置かれている。自らの足で走り続けたミコほどではないが、乗馬はそれなりに体力を消耗するのだ。

「シャノン、そのパスタ全部食べるつもりなら気をつけておけ。この料理、睡眠薬が入ってるぞ」

 食事を続ける中で、ミコの声が殺気で引き締まった。料理に仕込まれた小細工に警戒心が高鳴っている。

 ミコの忠告でシャノンは察した。このモーテルとレストランは、旅人を襲って金品と命を奪うために盗賊が用意した蜘蛛の巣なのだ。

「それは厄介ね。それじゃあ分解しておこうかしら」

 シャノンの指先から淡い光が発せられた。光がパスタに触れると睡眠薬の成分が分解、無効化された。シャノンはあらゆる薬物に通じているのだ。

「ミコ、あなたの料理も無効化しておく?」

 指が肉料理に向けられる。

「いらない。この程度の睡眠薬だったら私には効かないからな」

 ミコは薬物に対する耐性も常人の比ではなかった。


「どうする?ご飯の腹ごなしに、こいつらやっちゃうか?どうせ全員盗賊だろ?」

「まぁ待ちなさい。せっかく料理はおいしいんだから、ここはいただきましょう。幸い、宿とレストランは併設してるみたいだから、睡眠薬が効いてきた寝込みを襲う段取りでしょう。つまり、就寝までは安心よ」

 二人は、盗賊の仲間であろう店員や、周囲の客達に正体を悟られぬように食事を続けた。あわよくば食事と宿を唯で頂こうと画策したのだ。二人は強かだった。

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