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第115話 「決着の一手」(バトル)

「な、なんだあれは?なにをやろうとしている?」

 異様な変貌を見せるシラに、さすがのサイガも戸惑いを見せる。

「こ、この魔力・・・あいつ、命と引き換えに死の魔法を暴発させてワイトシェルを丸ごと死滅させるつもりだ・・・」

「なんだと?あいつ、最後の悪あがきを・・・」

 解析魔法の攻撃から解放されたナルが、痛みの残る体を奮わせながら、メイに歩み寄りつつシラの狙いを読んだ。

 その考察どおり、シラの膨れ上がった頭部には、全身の魔力が集められ、暴発の寸前となっていた。

「くっ、どうすればいい?あの距離、おれの跳躍では届かん!ナル、お前達はどうだ?」

「私も駄目だ。解析魔法の影響が残って、魔力が集中できない・・・飛翔もままならない!」

 力及ばぬ現状に、サイガとナルが揃って歯噛みする。それはメイ、リン、タイラーも同じだった。


「諦めるなよサイガ!私を使え!」

 気付けのような激しい声がサイガを叩いた。

 声の出所に顔を向けると、そこにあったのはジョンブルジョンの姿だった。その両腕の義手は構築魔法によって造り変えられ、二門の砲身となっていた。

 ジョンブルジョンの両腕の砲は通常の砲ではなかった。その形にサイガは見覚えがあった。

「あの形状、レールガンか!」

 ジョンブルジョンが装着する最新式の義手は、かつて両腕で発動させていたレールガンを片腕で実現していた。それも左右、二つ同時に。


 向けられたレールガンと「使え」という言葉。サイガはかつて自身がジョンブルジョンに対して実行した戦術を思い出した。ジョンブルジョンを撃破した、レールガンの弾を足場にする移動法だ。

「数は!?何発撃てる!?」

「左右、三、三の計六発だ!それ以上は腕がもたない!」

 ジョンブルジョンの意図を察し、サイガは端的な質問をぶつけ、ジョンブルジョンも端的に返す。

「充分だ!直ぐに撃てるか!?」

「装填する五秒待て!」

 五秒。その言葉を受けて、サイガは一瞬だけメイを見る。

「メイ、魔力を集中させておけ。止めは任せる!」

 しっかりと見据えて、メイに最後の一撃を託したサイガ。その意思を受け取り、メイは決意と共に口を真一文字に結んで頷いた。


「装填完了いけるぞ!」

 宣言どおり、きっかり五秒。電磁の加速路の先から音と共に弾丸が飛び出した。

 そのあまりの速射は、六発の発射音が重なって一つに聞こえるほどだった。

 発射を確認するより早く、サイガは走り出していた。特殊な歩法を用い、短い助走で加速を最高速に到達させると、自身とシラの間、弾の通過点へと右足を差し出す。


 理想的な位置で爪先と弾が触れた。すかさず一瞬だけ踏み込み、サイガの左側の二つ目の弾へと跳び移る。

 左の爪先が二発目の弾に触れた直後には、その身はシラの左側、三発目に移る。

 三発目の弾を踏み、前方への突進力と換えると直進。シラの後方を通過するところの四発目の弾に着地し、足場にするとシラの背後をとった。

 地面からシラの背後までの一連の動きは、レールガンの弾が通過する一瞬の間に行われた。音速を遥かに超える弾丸を利用しての跳躍。当然、サイガ以外は視認どころか察知すらかなわなかった。

 最後の一歩。シラの後方の弾を踏み込み、前に出ながらサイガは忍者刀を右から左に閃かせ、シラの膨張した頭部が斬り離された。


 不思議な感覚に包まれ、シラは戸惑っていた。

 遠方からの砲撃の音が聞こえた直後、遥か下方にいた敵の姿が消え、首に痛みが生じると、視界が回転を始めたのだ。

「斬られた。首から切断された!」

 数回の回転の後、心の中で叫び、シラは自覚した。

「お、おのれ、ならば・・・規模は落ちるが、このまま爆ぜて、せめて貴様らだけでも」

 切断され、宙に舞った首がさらに膨張する。無差別な死の魔法の発動が間近に迫る。

「げぅっ!」

 短い悲鳴と共に、シラの視界か下方に流れた。サイガが魔法の発動を妨害するため、頭部を蹴り上げたのだ。

 さらにサイガの狙いはもう一つあった。

「メイ!今だ、やれ!」

 メイの魔法発動のための時間を稼ぐことだった。


 今だ、解析魔法からの攻撃の影響が残るメイが、何とか体を起こした。片膝をつき、震わせながら手をシラに向けてかざす。掌には炎が生じる。

「くっ、だ、ダメ、狙いが・・・定まらない・・・」

 全身を駆け巡った痛みの残滓は、メイの魔法を乱れさせる。左手で右を支えるも、震えは治まる様子を見せない。

「だったら、私が支えますわ。あなたは狙いに集中して」

 かざされる両手を、上から大きな掌が包むように挟んだ。それはリンの掌だった。

「リン、あんた、動けるの?」

「支えるだけなら、難しくないわ。さあ、前を見て。指示を出して、調整するわ」

「う、うん」

 リンに促され、メイは再びシラをねらう。だが。

「・・・くっ、だ、ダメ、動きが不規則で狙いが定まらない」

 蹴り上げたサイガの力が強かったため、頭部は不安定な動きで宙を舞っていた。


「なら、狙いは私がつける。おまえは何も考えずに放て」

 シラを狙う二人の手に一つの人影が寄り添った。それはナルだった。リンと同じく痛みに耐えながら級友の元に現れたのだ。

「ナル、あんたまで。平気なの?」

「ばか、平気なものか。まだまともに動けないんだ。早く終わらせるぞ」

 ナルは二人の手を自身の肩に乗せた。

「微調整は私がやる。おまえは好きな時に撃てばいい」

 砲撃、射撃を得意とするナルの照準の精度は、暗黒樹を倒す際に見せた、直径二センチの球に砲撃を直撃させたことからも疑いの余地はない。メイもリンもそこには絶対の信頼を置いている。

 安定、照準。二つの問題が解消され、準備が整った。しかし、もう一つの問題があった。


「どうした?早く撃て」

 攻撃に踏み切らないメイに、ナルが問いかける。

「ま、魔力が、高位の魔法に達しない・・・これじゃあ、まともな魔法が撃てない」

 メイの魔力は今だ乱れていた。シラの魔力は、ここにきて主を活かすためにその効果を発揮していたのだ。

「そんな、このままじゃ・・・このままじゃ・・・」

 メイの声色に絶望が宿る。

「大丈夫だ。私達がいる。一人で高位の魔法が使えないなら、三人でやればいい。そうだなリン?」

 励ますナルに、リンが力強く頷いて応じた。

「ええそうですわ。一人で無理なら、三人で。遠慮は無用ですわ」

「で、でも、三人で使える魔法なんて・・・あんたたちは、炎魔法苦手じゃない。中程度だって・・・」

 

 メイの懸念どおり、ナルとリンは炎の魔法を苦手としている。

 レイセント学園では魔法の授業において一通りの属性を修学するが、二人は炎魔法に早々に見切りをつけて得意の氷魔法と格闘に専念したのだ。そのことは、級友であるメイはよく理解していた。

「ふっ、なにも高位でなくてもいいさ」

「そう。あるでしょう、私達がみんなが使える、共通の魔法が」

「え、それってまさか・・・あれ?」

 ナルとリンが微笑む。三人の脳裏には一つの魔法の名が浮かんでいた。

 その魔法の名は「ファイアーボール」魔法を習得する際に全ての者が習う入門用の魔法だ。

「でも、あんな初心者用の魔法で、あいつを?」

「私たち三人の魔力が揃えば問題ありませんわ」

「そうだ。リンが支え、私が狙い、三人で揃って放つ。如何にファイアーボールでも、焼き尽くせるはずだ」


 互いに支えあった三人一体の炎の発射台が完成した。瞳と手と意思が、下降を始めた頭部ヘ向けられる。

「よし、とらえた!リン、しっかり固定していろ。反動があると狙いがずれるぞ!」

「安心して。地面が裂けても動かしませんわ!さあ、メイ、いきますわよ!」

「これで終わりよ!燃え尽きなさい」

『『『ファイアーボール!』』』

 三人が同時にその名を唱え、掌から火球が放たれた。それは、これまでメイが見せた数々の魔法の中でもっとも小さなものだった

お読み頂き、ありがとうございます。

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