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第109話 「レイセントの輝き」(バトル)

 神域に達する炎と死を司る神との激戦は、思わぬ形で横槍が入った。

 強敵と刺激を求めるリンの戦闘欲が限界を突破し、暴風の通り名の如く暴れだすと、遂には激突するメイとシラの間に割って入ったのだ。

「さあ、メイ、その大きいのをよこしなさい!私、もう我慢できませんわ。これぐらいの敵が相手でなければ、満足できませんの!」

 周囲のあらゆるものを引き込む暴風のミキサーを繰り出しながら、リンは一歩また一歩と、炎と闇がせめぎあう地へ近づく。


 暴風が近づくにつれ、炎と闇は対峙することがかなわずリンの方向に引き寄せられる。

 メイとシラは一旦攻撃の手を止め、距離を置いた。

「貴様、我の崇高なる戦いの邪魔をするか!」

 一歩一歩近づき続けるリンに向け、シラは根を触手のように躍らせると、槍と化し突き出した。殺意と闇魔法が直線となってリンに迫る。

 急速な突進力の根はリンが反応するよりも速く到達し、三本の根の槍がその分厚い胸に突き立った。

「リン!」

 その身を案じ、全員が一斉に名を叫んだ。


 メイと対峙する暗黒樹本体のシラは、わずかに唇の端をゆがめて笑う。

「ビラムを散らしたことで調子に乗って近づいたか?愚か者め。我の戦いに水を差すというのなら、不様な骸を晒すのみよ!」

 シラはこらえきれずに声を出して高らかに笑った。

「なに寝言言ってんのよ」

「!?」

 シラの勝利の笑いをメイが止めた。怒りの眼差しで魔炎を睨む。

「キレたリンがあんなので止まるわけ無いでしょ。実際触れているのにそれが解んない?あんたの体の一部でしょ、神経通ってんの?」

「ほざくなよ、ならば、すぐにでもこの大女の骸を拝ませてくれるわ!」


 伸びきって、長尺の槍状となっていた暗黒樹の根が、リンの串刺しの骸を引き寄せるために力を込める。

 しかし、シラの思惑とは裏腹に、その根は微動だにせずに、伸びて張り詰めたままだ。

「な、なんだと、根が、動かん!?まさか・・・」

 シラはリンを見た。そこには力なくうなだれる屍があるはず、そう確信していた。だが、その確信は浅はかな妄想だった。

 リンは立ち続けていた。鎖を振り回す手は止まり、風は止んでいるものの、その足は力強く地を踏みしめる。


 ここで、シラは根が不動となった原因を知った。リンの手の六本の鎖が根に絡みつき、食い込み、動きを制していたのだ。

「そんな馬鹿な、たかが鎖で、我が体を縛るというのか?」

「たかが、じゃないわよ。あいつの桁外れ握力と腕力に耐えられるように、ドワーフの名工が一年かけて作り上げた、リン専用の特別製よ。さすがの神様でも動けないみたいね」

「な、なんだそれは?貴様ら、ただの人間の分際でそんな大それた武器を・・・ぐわっ!」

 メイに返す言葉の途中で、暗黒樹が大きく横に動いた。リンが鎖を手繰り寄せ始めたのだ。


 一度。二度。と、鎖を掴む手を手前に引くたびに、暗黒樹は抵抗むなしく引き寄せられていく。

「ぬぅうう、なんだ、この力は?この暗黒樹の巨体をもってしても抗えんというのか?」

「さぁ、こっちにいらっしゃい!はぁっ!!」

 気合と共に、リンが全力を込めて暗黒樹を一気に引き込んだ。

 巨大な体が横移動し、リンがそれを受け止めた。

 暗黒樹は根を地面にしがみつかせて、かろうじてこらえるが、リンの腕力の前にその全体を露出させていく。

「おのれ、こんな野蛮な、力任せの攻撃に、我が、我が・・・」

 徐々に確実に地面から引き剥がされる感覚が、シラを自身が司るはずの死への恐怖へと駆り立てる。


「往生なさぁああああああい!」

 気合と共に剛力一閃。大腿筋、腹筋、背筋、上腕二等筋、胸筋。全身のあらゆる筋肉が同時に最大の力を発揮し、シラの巨体を持ち上げた。

 二メートルに満たない人間が、折れたとはいえ数十メートルを超える巨木を担ぎ上げる。その姿は、常識が破壊された光景だった。

「おのれぇええ、こんな、こんなことがぁああああああ!」

「でぇええええりゃあああああ!!!」

 担ぎ上げたシラを垂直に振り下ろし、真下へと投げた。

 暗黒樹の重量、質量。リンの筋力と投げの速力。その全てが相乗し、頭部から垂直落下式に地面と激突した。

 地面と暗黒樹が衝突した瞬間。噴火、落雷、雪崩、あらゆる災害が同時に発生したような轟音がワイトシェルの隅々にまで響き渡った。


 頭部を支点として、暗黒樹が垂直に立った。

「・・・・・・」

 数秒間の沈黙の後、巨体が徐々に傾き、地面と空気に振動の波を走らせながら倒れた。

 巻き起こった土ぼこりが収まるまで、暗黒樹シラは動くことが無かった。

 メイを初めとする一同も、同士討ちを懸念し、視界を確保するまで攻撃を控えていたが、姿を現したシラを確認すると、とどめの体勢に入った。

「リン下がって。こいつで燃やし尽くして終わらせるわ!」

「はーい、後は任せますわ」

 動かない暗黒樹の上空で、メイは見下ろす形で両手を天にかざした。手の先にはこれまでで最大級の火球が燃える。

「ナル、氷の壁を作って」

「それはかまわんが、私の氷ではお前の炎は耐えられないぞ」

「大丈夫よ。一点に集中して火柱が上がるようにしてあるから。余熱を防いでもらいたいだけ」

 メイの頼みを受けて、ナルは暗黒樹を八角形の高い氷の壁『四対氷炉』(しついひょうろ)で封じた。


 ここで、暗黒樹の巨体が動き始めた。全身を小刻みに震わせながら壁に手をかけると上体を持ち上げ、身を乗り出す。

「ま、まだ動けるのか?なんてしつこさだ」

 ナルが驚愕する。

「ぐぅおおおおおお!う、撃てるか?メイ・カルナック・・・い、今撃てば、我と、一緒に・・・仲間共も・・・燃え尽きるぞぉ」

 メイと暗黒樹の間に闇の球が発生した。炎の球にぶつけて、その魔力を暴走させようとする算段だ。

「まずい・・・このままじゃ撃てない。あいつに回復の時間を与えちゃう」

 シラの足掻きに、メイがためらい手を止めた。闇の球はさらに魔力を収束させ巨大化する。

「ナル、もっと壁を高く厚くして!」

「だめだ、あいつの魔力が邪魔をして氷が精製できない!」

 補強のために四対氷炉に必死に魔力を送り込むが、シラの闇の魔力がそれを押し返す。


「壁が低いのならば、足場を沈めればよい!」

 絶望するメイのさらに上から、豪快な声が聞こえた。

 声の方向にメイが顔を向けると、上空から迫る人影、タイラー・エッダランドの姿があった。肩には巨大なツルハシを担いでいる。

「待たせたな!こいつを見つけるのに手間取った!でぇいりゃあああああ!」

 上空から急降下し、落下する勢いのままタイラーは担いでいたツルハシを強烈に地面に叩き込んだ。

 タイラーから暗黒樹を囲う四対氷炉へ向けて亀裂が走り、通過した。直後、亀裂が地割れを発生させ大きく口を開き、氷炉ごと暗黒樹を呑み込む。


 大きく振動しながら氷炉は垂直に亀裂に沈む。氷と土に阻まれ、暗黒樹シラは身動きが取れなくなってもがく。

「な、なんだと?地割れを起こすだと・・・?くっ・・・か、体が・・・動かん・・・ぬぅおおおおおお!」

 亀裂の両壁に枝を密集させて作った手をあて、シラは強引に這い上がろうと力を込める。

 必死に足掻く地獄の皇太子を、メイが見下ろす。その眼前には再び火球が燃え盛り、メイの顔を照らしていた。

「じたばたすんなよ。いくらあんたがしぶとくったって、私達が力をあわせれば、絶対に負けたりしないのよ!」

 劫火の火球『ヘリオスタワー』が地割れに向かって投じられた。

 メイによって完全に制御された火球は、その熱を外に漏らすことなく進み、地割れに呑まれた。

 火球が暗黒樹に触れた。瞬間、その熱の封が解かれ、炎が乱れ舞い、塔と化した。

 上昇する炎が天に達し、その内で暗黒樹の体を再生を上回る威力で燃やし続ける。

 深い地割れは、地獄の皇太子の墓穴となった。

読んでいただいてありがとうございます。

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