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第107話 「焼殺」(バトル)

「おらっ!ジタバタすんな!観念しろ!」

 メイの燃え盛る巨大な手が暗黒樹シラを覆う蔦と枝の集合体をで作られた外殻を掴む。

 業火の勢いが、立ちはだかる木製の外殻を呑み込み、瞬く間に木炭へ変え、さらには灰となった。

 表層を焼かれ、蔦と枝の守りの外殻は朽ちた土壁のごとく次々と崩れ落ち、守りの力を失っていく。

 炎の両手が開いた。それに引っ張られ、暗黒樹の守りも解かれ開かれる。

 開かれた守りの奥から、炎の光と熱にシラがその姿をさらした。


「ようやくご対面ね。さぁ覚悟しなさい」

「おのれぇ、メイ・カルナック!」

「あら、何よその体、随分と素敵じゃない」

 目の当たりにしたシラの姿は異形なものとなっていた。

 邪教シアンの狂信者達によって手に入れた、中性的で麗しかったシラの見た目は、顔の右半分は闇色の謎の物質が張り付き美しさが損なわれ、両腕は怪物のごとく肥大して禍々しい爪が伸び、下半身は木と一体化していた。

 ヨ・マーから注がれる地獄の力を御するために、その体は人の形を捨てたのだ。


「貴様、誰のせいでこうなったと思っている?」

「何言ってんのよ、私達は王女に使える六姫聖よ。国家の敵を見逃すわけ無いでしょ。命を奪うのが当たり前の神なんて、言語道断よ!」

「やかましい!死ね!その命を捧げろ!」

 シラが口を開けた。黒い魔力が口腔に集まる。

 生命を直接損傷たらしめる闇魔法『ハデスハウリング』が音速で放たれた。

 一瞬で到達する殺人音波は、メイの全身を通過した。

 音波の衝撃は凄まじく、赤い頭髪が逆巻き、毛細血管が千切れる。感情ではなく、メイはわずかに血涙を流した。


「馬鹿な、我のハデスハウリングを魔力で凌いだだと?」

「その程度で死ぬわけ無いでしょ!私の魔力舐めんな!」

 怒りと共に放たれた、炎を纏ったメイの生身の拳が、シラの顔面を叩いた。炎の噴出によりジェット噴射の加速を得た拳は、首をほぼ真後ろに向かせるほど深く突き刺さる。

「うご・・・ご・・・」

「まだまだぁ!これで終わると思うな!『シヴァヴァルカン』!オラオラオラオラオラオラオラ!」

 『シヴァヴァルカン』。拳を数千度を超える高温の炎で包み噴射と逆噴射を連続で繰り返すことにより、身体能力の限界以上の速さで無数の炎拳を叩き込む。その数は一秒間に千発以上となる。打撃音は重なり合って一つに聞こえる。


「あんたはねぇ、最初っから今まで、ずっと気持ち悪いのよ。死の谷では私の体に絡み付いて。つきまとって広場にまで出てきて。そんで私の細胞で体まで作って!もう、完全に消滅させないと、私の気がすまないの。おぞましいのよ!」

 乱打する拳を止めないまま、目覚めたはずの慈悲の心をかなぐり捨ててメイはシラに対しての思いのたけを叫び続けた。

 シヴァヴァルカンで殴り続けるメイの体から、炎の分身『スレイブブレイズ』が四体現れた。

 分身は拳を構えると、本体に習いシヴァヴァルカンを繰り出した。威力と速度は本体にわずかに劣るが、動きを模倣した分身の加わった五重奏はさらにシラを追いつめる。


「おおのぉおおおおれぇええええええ!」

 一方的に殴られ続けていたシラが反撃に出た。

 全身から黒い瘴気と波動を突風のように発現させる。さらに、地獄から呼び出した苦悶の表情の亡者でヘドロのような物体を作り出すと、拳を受け止める緩衝壁として展開した。

 亡者で作られた壁は厚く、メイの数千発の打撃はわずかにシラに休息の暇を与えた。

 懸命の抵抗で稼いだ時間を有効に活用するため、シラはヨ・マーの力を用いて回復に勤しむ。

「はぁはぁはぁ・・・」

 炎の猛攻により肉を焼から、削がれ、骨と内臓が露出した体に、地獄の魔力が注がれ傷を癒す。瞬く間に肉体が補われ傷を塞ぐと、恨みのこもった眼で亡者の壁の向こうのメイを睨む。

「このままで終わると思うなよ!」

 シラが右手を亡者の壁に突き刺した。溢れんばかりの魔力を注ぎ込み、その形を壁から武器へと変貌させる。

「貴様の魔力と地獄の魔力で作り出した槍で貫いてやるぞ!」

 シラは、亡者の集合体に地獄の業火を宿した漆黒の地獄の槍『マルファスラウム』をメイに向けて突き出した。

 怒りと恨みを込められた槍は、シヴァヴァルカンの猛攻を強引に退けながら直進すると、みぞおち目掛けて飛び込んだ。


 迫る殺意の強さは、メイの直感を働かせた。

 槍の穂先がその肌に触れた瞬間に、左右の掌を胸の前で向かい合わせ、穂先を極炎で包むと融解させた。

「残念、通じないのよ。そんじゃあ、この炎、そのままくれてやるわ!」

 両手で前方に押し出された炎は、槍の全てを呑み込みながら、シラへと迫った。

 再生を終えたばかりのシラの肉体は、あまりの熱気に再び炭化する。炎は喉を焼き、叫びを発することすら許さない。



「とんでもない火力だ。とてもじゃないが、助太刀に入ることは出来ないな」

「ていうか、そんなのいらないんじゃないかい?あのまま一方的に押し勝つよ」

 炎と闇が、互いの首元に喰らいつく獣の如く絡みあい、熱気と瘴気が入り混じった混濁の波を生じさせる。

 サイガたちは波の影響を受けない距離に避難すると、激戦の感想を述べた。

「そうなると、残るのはリンさんですね。はやく助けてあげましょう。あの将に取り付かれてから、全く動いてないですよ」

 そういいながら指し示されたエィカの指の先には、無数のビリムによって作られた肉の球体に閉じ込められた、リンの姿があった。それはすでに、生きているか死んでいるかの判別も難しかった。


「あの、リンに取り付いた奴は何だ?何故あんなに数が増えている?」

 身動きの出来ないニムリケにナルは尋ねた。その猛攻を見てメイの勝利を確信しているためか、口調は悠長だ。サイガたち同様、熱気の届かない距離で、ニムリケを踏みつけながらリンを遠方に見る。

「ビリムはその個体数を無限に増殖できるんですよ。一度に出現できる数に上限はありますが、量は無限です。まぁ、そのせいで身体が脆くなるのが欠点ですがね」

「無限・・・か」

 当たり前のように無限という言葉が出てくるあたり、ここもまた人間と地獄の将との能力の質の違いが出る。

「だが、その程度の無限では、あいつは止められないようだな」

 肉塊の球を見ながらナルは薄く笑う。先ほどまでのリンへの心配が杞憂であると悟ったのだ。


 ビリムで構成された肉の球がわずかに動いた。左右に何度か揺れると、数十センチほど浮き上がる。球はわずかに震えていた。

「うぉおおおおおおお!」

 球の中から唸り声が聞こえてくる。

「な、なんだ?あの声は?まさかスノウか?」

 地鳴りのような低い声に動揺し、ジョンブルジョンは思わずニムリケを拘束する蛇腹剣を握りなおした。

「まさかもなにもリンさ。ほら、球の下を見てみろ」

 ナルに促されて、ジョンブルジョンとニムリケは同時に目を向ける。そこには球から生える二本の太い足があった。言うまでも無く、リンの屈強な足だ。

「あれだけの肉の塊に取り付かれて、難なく立ち上がっている。あの咆哮も納得の力強さだろ?」


「うぉおおおおおおお・・・はぁっ!!」

 爆発したような気合の一声と共に、リンに纏いついていたビリムが花火のように飛び散った。

 リンは筋肉の膨張力と気合のみでビリムの体を破壊して見せたのだ。 

 張り詰めた頑強な筋肉の表面には、食い込んだ牙や爪が深く刺さっていたが、両手を掲げ振り下ろす勢いを利用して、「ふん!」という一声と共に全て吹き飛ばした。

 全身から血を流してはいるが、深手ではなく、かすり傷程度のおさまっていた。

読んでいただいてありがとうございます。

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