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第10話 「快方」(ストーリー)

 太陽が昇りきり昼を迎えようとした頃、村長が駆け込むようにセナの家を訪ねてきた。

 サーラの状態を村の誰かから聞いて、いても立ってもいられなかったのだろう、玄関につくやいなや息を切らせながらサーラの名を呼んでいた。

「村長、少し落ち着きなよ。それじゃあ、どっちが病人かわかりゃしないよ」

「そうね、せっかく元気になったことだし、つきっきりで看病してあげようかしら」

 あきれながらもその身を気遣い寄り添うセナと、サーラが自身の状況を踏まえた冗談を交えながら、膝に手をつき肩で息をする村長を迎えた。

 見上げた視線でその姿を捉えた村長が声も出さずにサーラの手をとり、名を呼んで涙する。

 村長の感涙を受け、母娘も再びその目から涙をこぼした。

 つづいて村長はサイガの手をとった。その口からはサイガへ、そしてこの奇跡のような結果を招いてくれたこの出会いへの感謝の言葉が震えた声で発せられた。

 それから後、セナの家には次々と村の住人達が訪問をしてきた。そして来客の相手を続けていくうちに日が落ちてしまい、この日は接客に終止するかたちで夜を迎えた。

「サーラさん、そろそろ休みましょう。まだ無理をしていい状態ではないのです」

「そうだよ母さん、うれしいのはわかるけど、自分を大切にしてくれよ」

 サイガとセナに諌められ、サーラは消化のよい食事をとってベッドに入る。

「明日は村を散歩したいわ。久しぶりにお日様の光を浴びたいもの」

 そう言うとサーラは明かりを消して床に就いた。


 六日目の朝、三人は朝食を済ませると、一通りの家事を済ませてサーラはセナに付き添われて村の散歩に出た。

 サーラの闘病の期間は約一年で、その間に家から出ることはかなわなかったそうだ。それだけに、喜びはひとしおだろう。

 二人が散歩に出かけている間、サイガは村人達と協力して迅速に畑仕事を終わらせ、翌日の魔録書の完成と出立に備えて荷物の手入れと整理を行っていた。

 この数日で乾燥させて軽量化させた保存食に、最新技術で軽量小型化された武器や道具を手入れしつつ、体のいたるところに忍ばせる。

 機動性を重視する忍びにおいて、荷物を背負うという姿は自殺行為に等しい。そのため、出来る限り衣に収めるのだ。

 刃物、飛び道具、暗器、携帯食、その他の活動を補助するための道具を目立たぬように体に纏い、傍目にはまったく重量感を見せないように仕上げる。

 無論、それぞれの重さが加わり、総重量は三十キログラムを超えるほどになる。だがサイガはその重量をものともしないほどの筋力と体幹をほこっている。装備を身につけたまま軽がると立ち上がると、敵を想定してその攻撃をかわして攻撃を仕掛ける動きを軽やかにこなす。そして最後に、体になじませるように何度か跳ねると、空中で後方一回転をして足音をたてずに着地した。

「よし、このまま出発できるぐらいには整ったな」

 仕上がりに満足したサイガが、装備を外すために手をかけた。が、その瞬間、サイガの手が止まった。外から何かと争うようなセナの声が聞こえたのだ。

 考えるより先に体が動き、サイガは家の外に飛び出した。


 飛び出した直後、家から遠い場所、村の中央の広場に人だかりが出来ているのが見えた。その中心から、姿は確認できないがセナの声が聞こえる。そこをめざし、サイガは駆け出した。

「サイガ殿、お待ちください」

 家から広場までの距離を半分まで詰めたところで、長老がサイガを引きとめた。

「今、あそこにいるのは、この地の領主様です。あきらかな余所者のサイガは近寄らぬ方がよいでしょう」

 村長は領主について語った。聞けば領主は先月に着任したばかりで、それまでは北方の国境警備隊の隊長を勤めていた男であり、それだけに王都の政治家達とのつながりも強く、異界人の情報を耳にしている危険性があるというのだ。

「ここでサイガ殿のことを気付かれれば、明日の旅立ちに支障がでましょう。我々で治めますので、隠れて見守ってください」

 そういうと、村長は人だかりの中、セナと、その腕を掴む小太りの男のもとへと向かっていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ペストが一人発症してたら周囲のひとに既に感染っていて同居の家族はまず感染っているし母親にうつしたやつも保菌してるだろうしほぼこの村詰んでない? 主人公だってやばいよね? 薬なんて50人分ある…
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