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第97話 「地獄の軍勢」(バトル)

 ヘドロのような瘴気を滴らせながら、鱗に覆われた巨大な女の顔面が現れた。舌で巻き取り、シラを口内に収めると、にたりと笑う。

 続いて瘴気から現れたのは、蜘蛛のような節足の生えた、一メートルほどの眼球だった。

「ナル、あいつらってまさか・・・」

「間違いない。『忌みいみおんなジャグン』と『眼卿めきょう』だ。口の中でシラを回復させている」

 メイの予想をナルが補完した。


 ジャグンはその口腔内に魔物を生み出すほどの魔力を蓄え、年に数度、数千個の魔物の卵を吐き落とす。

 眼卿は炎、雷、氷、闇の複合属性の光線を瞳孔から放ち、激怒すると黒目が八つに増える。

 共に多数の軍勢を保有する地獄の将だ。

 目卿がジャグンに向く。

【ジャグンよ、そやつがワシらを呼び出したのか?】

【そのようじゃ。魔言を唱えるから、どこぞの高等種族かと思うたが、見知らぬ小僧じゃ。若ぅて渋みがない】

【しかし、その小僧の魔力、覚えがあるな。誰だったかいのう?】

【おお、そうじゃ。この魔力、サルデスじゃ。ツラが違ぉてわからんかったが、死の神じゃ】

【そうかそうか、サルデスか。しかし随分と若い体に転生したもんだのぅ。で、転生のそばからアヤツらにのされとるということかい】

 会話を終えると、目卿は塀の上のサイガたちを見渡した。瞳孔が収縮を繰り返し、カメラレンズのように一同を捉える。


「あいつら、変な音出してたけど、あれって会話かな?」

「おそらくな。おれたちには理解できない言語なのだろう」

 二体の魔族を凝視したままメイとサイガが言葉を交わす。

「こうやって見ていても始まりませんわ。敵なのは明らかです。早々に始末をつけましょう!」

 漂う黒い気配に、額に汗をにじませながらリンが攻撃を促した。全身が緊張し、筋肉が強張っている。眼下の存在の危うさを感覚で理解しているのだ。


「同感だ!動き出す前に先手を打つ!マッハド弾装填!発射ァ!」

 抱えた魔法砲ハチカンから、最高威力の魔法弾、マッハド弾が発射された。超低温の砲弾が目卿に迫る。

 が、目卿は瞳孔から発射された光線でそれを相殺した。

 衝突した魔力が、火花のように両者の中間地点で舞い散る。

「くっ!かき消された!私の現状最大火力の一撃だぞ!咄嗟にあの威力が出せるのか?」

 目卿が放った光線の威力に驚愕しながらも、ナルは次弾の装填を開始した。


「気をひいてくれたなら、それで充分だ」

 ナルを尻目にサイガが飛び出した。

 出し抜いた行動に、目卿は反応が遅れた。そして、それが命取りとなった。

 サイガは目卿の眼前に着地したと同時に、その黒目に雷の魔法珠を取り付けた魔法剣を突きたてていた。

「ギュイイイイイイイイイイイイ!」

 ノイズのような悲鳴をあげて、巨大な眼球は節足を振り乱す。

「む、思ったより堅いか。深く刺さらん。だが、これで終わらせる」

 雷の魔法剣が発動し、強烈な電撃が眼球を焦がした。体液が沸騰し、行き場を失った熱が後部を破裂させた。


「ははっ、問答無用じゃん。やるぅ!」

 サイガの神速の技に、メイは思わず歓喜の声を上げた。

 続いて、事切れた目卿から魔法剣を引き抜きつつ、サイガはジャグンの鼻孔に炸裂弾を放り込んだ。直後、爆発と共にジャグンの鼻は消えた。

「ゴァアアアア!グゥオオオ!」

 黒い沼の上を、ジャグンは痛みを紛らわせるために転げ回る。


【ありゃあ。目卿は死んじまいましたかね。だらしないねぇ、しょせんは序列最下位だよ】

 聞き取れない、言葉と思わしき音が、足元から聞こえてきた。目卿とは比べ物にならないほど、黒く重々しい。

 サイガはジャグンへの止めをあきらめて離脱した。新たな敵の出現を予感したのだ。

 壁上の足場に戻ったサイガが黒い沼に向き直る。

 沼に、新たに次々と複数の影が現れた。人型、獣型、物体と、その形は様々だ。


 死体細工師したいさいくしエンディンゲン。

 無差別処刑人オンゴール。

 おどろ面手めんしゅ

 脳漿コレクター・グリオン。

 暗がりの鬼子ビリム。

 ヨ・マー。

 蠱毒の主リシャク。

 キラークラウン・ウェイシー。

 幽剣将ハインス。

 泥犬どろいぬ

 冥王の骸。

 北の獄卒長パッティオ。

 地獄の判事ニムリケ。

 十三の魔族。

 ジャグンを含め、計十四となる。

 目卿をあざけったのはグリオンだった。


【あれ?私達だけ?上位のみんながいないじゃない】

【あいつらがそう簡単に動くものかよ。つまらん召喚には、ワシらだけで充分ってことだろうさ】

 全身に昆虫を這わせるリシャクが、召喚された面々を見渡した。その数に不満を漏らす。

 冥王の骸はミイラのように乾いた体で、笑いながら答えた。

【みなさん、今回我々を召喚したのは、死の神サルデスの生まれ変わり、シラ。新たに王して君臨する予定のものです】

 ニムリケが全員に呼びかけた。右手には天秤を持つ。

【サルデスか。久しぶりに聞く名だな。封印が解けたんだな。だけど、追いつめられてるんだな。みじめなんだな】

 ビリムはよく研がれた包丁を見つめつつ、死の神を嘲笑した。


「どういうことだ?魔将の数は三十ではないのか?さっきの目玉と合わせても十五体だぞ?」

「わからん、だが、これは好機だ。先手を打って、数を減らすぞ」

 問うサイガに対して、ナルが提案した。それを聞き、全員がメイと、リンも頷く。

 真っ先にサイガが動いた。悠長に談笑をしている魔将の一体、パッティオに背後から迫り、その首をはねた。一瞬の出来事だった。

 分断されたパッティオの体が、膝をついて倒れた。


 魔将たちは、いきり立った。聞き取れない声で叫び続ける。おそらく【殺す】と叫んでいる。

 グリオンが脳を掻き出す為のナイフを逆手に持ち、着地して膝をついているサイガに振り下ろす。それに泥犬とウェイシーも続く。

 だが、それはサイガの誘いだった。

 サイガの背が破れた。服の下に仕込まれた装置から、無数の針が飛び出した。グリオン、泥犬、ウェイシーは針を正面からくらい、前面を針で埋め尽くして絶命した。


 瞬く間に四体の命が奪われた。

【こいつは危険です。みなさん、散りなさい!】

 状況を判断してニムリケが指示を出した。判断力、指揮能力がこの魔将達の中で、明らかに別格の質を誇る。

 瞬時に九体の将が散開した。

 しかし、判断が遅れた冥王の骸がサイガにつかまり縦に両断された。

 冥王の骸が討たれる隙を突いて、ジャグンは黒い沼に潜って姿を隠した。


【おまえら、こいつらは幽体の分身とはいえ、私を倒した連中だ。油断するな】

 サイガから距離をとって、ハインスが将たちに警告を発した。ハインスは本来地獄の将だが、この世界に分身を送り込み地獄とサルデスの橋渡し役となっていたのだ。

【そういうことは早く言わんかい!おどれのせいで無駄に五体死んじまったぞ、バカヤロウ!】

 オンゴールが怒鳴った。この中では一番気性が荒い。

【どうやら、人間相手だからと、油断が過ぎたようですね。特にあの黒装束の男、あの男に対しては出し惜しみ無く仕掛けるしかないでしょう】

 ニムリケがサイガの評価と対策を述べた。

【ならば、その役は私がやろう。こいつには分身の借りがあるのでな】

 ハインスが飛び出した。分身よりも速く巧みな剣さばきで、サイガの動きを防戦に封じた。


「ナル!リン!私たちもいくわよ!」

「ああ!」

「参りましょう!」

 任務を果たすために、三人の六姫聖が飛び出した。

 メイの炎が、ナルの砲撃が、リンの鎖の乱舞が将達の攻撃とぶつかった。



「おやおや、これは困りましたね。地獄の将なんて呼び出してるじゃないですか?まずいですよ。今は下位の連中しかいませんが、もし気まぐれで上位の将が出てきてしまえば、ワイトシェルは壊滅です。これは任務どころではありませんよ」

 例によって、集合墓地から離れた高所から事態を傍観しながら、ギネーヴはため息混じりに悲観の感想を漏らした。

「ならばどうするというのだ?ギネーヴよ」

 暗い顔のギネーヴの横に立ち、ジョンブルジョンは義手に取り付けられた構築魔法の魔法珠により右手を望遠鏡に作り変えて戦況を観察している。

「仕方ありません、私の任務が達成できたとしても、都市が陥落してはそちらの方が問題です。ここは、不本意ですが六姫聖たちに協力するしかありませんね」

「では、私は事が片付いた後にでも、任務に戻るとするか」

 そういうと、二人は集合墓地に向けて空中を歩き出した。

読んでいただいてありがとうございます。

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