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呼び名

作者: ハシモト

 明日、世界に何が起きるのか、それを正確に把握していると言ったら、人は自分の事を予言者と呼ぶだろうか? 


 だがそれは間違いなく起きるし、それを避ける方法もない。それにそれを知っているのは、僕だけではなかった。この世界に住む、大多数の人がそれを知っている。


 事の発端は、アークと呼ばれる小惑星が、地球軌道に接近したことだ。それはまさに方舟(はこぶね)と呼ぶべき姿で、先端が細長く、ハーケンの様な形をしている。そして炭素を多く含む岩石で構成されており、宇宙の闇同様に真っ黒な姿をしていた。


 それがいつから地球と火星の間を漂っていたのかは分からない。だがアークは人類の知らないところで、太陽の重力に引かれつつ、地球へと近づいていた。驚いたことに、それは近年になってやっと発見されたのだ。


 発見当初から、アークは地球にかなり接近することが分かっていて、恐竜以来の大量絶滅を引き起こすのではないかと話題になった。だが各種計算により、それは地球の近傍を通り過ぎはするが、地球に落下する可能性はかなり低いと発表される。


 その計算結果を疑う人達もいたが、NASAやアメリカ国防総省は、それが地球に接近するようであれば、何らかの対処を行うとも発表していた。


 人類はかつての恐竜たちとは違い、プロメテウスから火を盗んでいる。軌道上から放つ核ミサイルでの迎撃が検討されたのだと思う。だが最接近直前になって、予想外の事態が発生した。太陽の爆発とでも呼ぶべき、超大規模フレアの発生だ。


 それは1859年に観測されたのを遥かに上回る規模で、プラズマ粒子から身を守るために、地球を取り囲む衛星群は、センサーをシャットダウンするなどの対応を迫られた。それでも宇宙ステーションを含め、多くの衛星に回路のオーバーヒートなどの被害をもたらす。


 フレアが地球に到達した時、赤道までオーロラが光り、宇宙から見た地球は青ではなく、その全球が緑色の揺らめきに輝いたらしい。だがそれは単なる天体ショーなどでは無かった。


 宇宙だけでなく、地球上の通信網、電力網にも多大な影響を与え、ほぼその全てが不通に陥る。それに太陽からの宇宙線や、太陽系外から飛び込んでくる宇宙線の影響もあり、空は雲で覆われ、梅雨の様な雨をもたらした。


 ほぼすべての目を失った人類が、アークに対して、何らかの観測が出来るようになったのは、電力網の混乱が少しでも終息した後だ。雲の影響を比較的受けない高山にある、それも先端の電波望遠鏡ではなく、従来の光学式の望遠鏡群だった。


 観測した者たちは、自分たちが得た観測結果に驚愕する。アークはいつしか回転しながら、地球への直撃コースへと軌道を変えていた。


 超巨大太陽フレアのプラズマ粒子と磁力線は、アークの結合部が弱かった部分を弾き飛ばし、その作用反作用の影響により、突如回転を始めたらしい。


 回転は地球の重力の影響をうけ、刻一刻と早くなり、まるでブーメランが軌道を変えるように、地球へと向かってくる。


 その時の為に、軌道上に配置された核搭載ミサイル群ならびに、地上から打ち上げるミサイルが、アークを迎撃するはずだった。だがそれらは太陽フレアの影響で、各種回路にダメージを受け、打ち上げることが出来ずにいる。


 つまりアークはここに落ちてくるのだ。世界の種を繋ぐためではなく、その多くを滅ぼす為に……。


 人類の行く末が決まったのち、世界がどうなっているのかは僕は知らない。北海道の蝦夷層群に属する沢の中で、大小の石をひっくり返している自分にとって、未だ世間は遠い存在だ。


 明日世界が終わるからと言って、特に何かをしないといけないという事もない。ならばそれまで続けていたことを続けるだけだ。きっと彼らだって、そうだったのだから。


 手の中には、川底から拾い上げた握りこぶしぐらいの石がある。そこには僕らがアンモナイトと呼ぶ、実はイカやタコの仲間である、頭足類の黒い化石が詰まっている。


 大量絶滅は何も悪いことばかりじゃない。生命はそれを乗り越えることで、大きな進化を遂げてきたのだ。だけど時の流れの先で、こうして僕らを手に取る生き物は、一体僕らを何と呼ぶのだろう。

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