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(セシル視点)


「ハァ……ハァ、大丈夫か? ケガはしてないか?」


 息を切らしながら、男性が尋ねてくる。

 飛び降りる直前、背後から物音がして振り返ったら、人影があった。

 暗闇で詳細は分からなかったけど、そんな事どうでも良かった。


 ただただ恐怖した。

 何でこんな場所に人がいるのかも怖かったし、外の人間と会う恐怖がぶり返してきて、頭が真っ白になって、気付いたらその場から逃げ出そうとしていた。

 その瞬間足元を躓いて__、


「……は、はい」


 状況が飲み込めなくてそう返事する事しか出来ない。

 よく見ると男性は王直属の騎士団の制服を着ていた。

 幼い頃、父に連れられて王宮に足を運んだ時に、何度か見たから覚えている。

 私が放心状態で、男性を見つめていると、


「ああー、良かったああああああああ!!」


 彼は盛大に尻もちをついて、床に仰向けに寝転がった。

 ……良かった?

 一体何がだろうか。


「助かって本当に良かった!! いきなり落ちたから本当にビックリした!!」


 助かっ……、そうなのだろうか、私は生まれて来る事を望まれなかった人間で。

 本当に助かって良かったのだろうか。


 胸にモヤモヤした何かが残る。

 この騎士様だってそうだ。

 きっと私が誰なのか知らずに助けたのだ。

 私の正体を知れば、きっと彼だって、今だって私は『魔力吸収ドレイン』で彼の力を__、


「セシル・アルデンスで間違いないかい?」


 心臓が跳ねる。

 彼は私の正体に気付いていた。

 ……気付いていて、私を助けたの? どうして?

 私が頷いて彼の行動に疑問を抱いていると、


「この状況、何て言えばいいのか……いや違うな、君を助けに来た」


 彼はそう言った。


「……え?」


 私の理解が追いつかない中、彼は話を続ける。


「確認しておくけどさ、君は俺に気付かなかったら、そのまま死のうとしてたんじゃないかい?」

「……」

「……やっぱり」


 私は何を口にすれば良いのか分からなかった。


「俺は陛下から君の話を聞いて、陛下の命でこの領土に来たんだ。領民に迷惑をかける『怪物』や『人殺し』がいるって噂が王宮まで届いてね」

「……私」

「あ、済まない! 大丈夫だ、安心して欲しい! 俺はそんな事微塵も思ってないし、陛下も君の身を案じていたよ。幼い頃に陛下と面識があったんだろう?」

「……ええ。幼い頃に父に連れられて、王宮に足を運んだ際にお会いした事は、何度かあります」

「陛下は君の事を『明るくて元気な子』って言ってたよ。だから、当時の記憶と今の噂のイメージが合わなくて、心配だから様子を見に行って欲しいって頼まれたんだ。一応聞いて置くけど、今俺の力が弱まってるのも君の意思とは関係無いんだろう?」

「も、申し訳ありません!」

「いや、全然大丈夫だから! ここには俺と君しかいないし。俺は別に何も困ってないし。そうか、ならやはり」


「違います。能力は私の意思では、ありません。ですが、私が周りの方に迷惑をかけている事実は変わらないと思います」


 私がそう言うと、彼は姿勢を正して、改めて私に向き直った。


「良く聞くんだ。君は悪くない! むしろ君は被害者なんだ!」


 私の主張を彼は力強く否定した。

 突然の彼の言葉に私が驚いて固まっていると、


「ああ、済まない。つい熱くなってしまって」

「……いえ」


 数秒の間があって、彼が再び口を開く。


「君の事を良く知りもしないで、分かったような口を聞くのは良くないな。反省しなければ」

「……いえ」

「だから君に頼みがあるんだ」

「え?」

「会ったばかりの俺に話すのは抵抗があるかも知れないけど、俺に、君のこれまでの経緯を話して欲しい。一体何があったのかを」

「……私のこれまで、ですか?」

「そうだ。君の力になりたいんだ」

「……」


 まっすぐ私を見つめる彼の真剣な瞳。

 そこには一切の偽りを感じさせなかった。


 なぜこの人は、ここまで私の味方になってくれるのだろうという疑問。

 それと、自分の事を彼に話す事への恐怖。


 彼の言う通りだ。

 私の事を詳しく知らないから、そんな事が言えるのだと考えていた。

 もし私がやってきた事を詳しく知ったら、彼の私に対する評価は今とは真逆になるかも知れない、だから怖かった。

 でも、彼は、


「約束するよ。最後まで話を聞いても、俺は最後まで君の味方でいるから」


 ……どうしてだろう。

 この人になら話してみても良いのではないか、信じてみても良いのではないか。

 そう思った。

 心のどこかでそう思った瞬間から、


「……私は__」


 気付けば私の口からは、少しずつ言葉があふれ出ていた。


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