流星祈願係
青いパーカーを着た青年が一人、曇りガラスに「流星祈願係」と書かれた扉を3回ノックした。が、誰も出てこなかったのでそーっと覗き込むように部屋に入ると、中では書類を抱えながら電話対応に追われなが忙しそうにしている人たちがいた。誰に声をかければいいのか立ち止まっていると紫色の袴を着た神主さんのような人が青年に気付き、話しかけてきた。
「こんにちわ。どうかしましたか?」
「あっはい、橘流星です。月光神社の橘功の息子です。父から話は行ってると思うんですが、、」
「ああ〜橘さんのとこの!バイトの話ですね。聞いてます、聞いてます。忙しいから助かりました。私はここの神主の月岡です。さあ中に入って入って仕事内容を説明するよ」
「はい、よろしくお願いします」
奥に案内された橘は袴を渡されたのでそれに着替えてきた。
「おお〜!似合ってますね、それでは仕事について説明します。まずはここでは、願い事が入って地上に落ちてきた流れ星を回収、仕分け、全国の神様に届けてその後も願い事が叶うように神様のサポートをする。それが一通りの流れですね。何か質問はありますか?」
「あの、えっと、、地上に落ちた流れ星ってなんですか?」
「ん?お父さんから聞いてないの?星のこと、ほら、これなんだけど、、」
と月岡は白いボールを取り出した。大きさはピンポン球くらいで見た目はキラキラした糸が雪の結晶みたいに張り巡らされていて手毬のようにも見えた。
「綺麗でしょ。これが地上に落ちた星、これを木槌で叩くと面白くてね、見てて」
白いボールを木槌で叩くと、さっきまで球体だったのが一気に砂のように崩れ、中から桃色と青色の金平糖みたいにトゲトゲしたのが二個出てきた。
「なんですかこれ?」
「そしてこれが願い事、金平糖みたいでしょ。神様しか舐められないんだけど、実際、甘いらしいんだ。これが流れ星に願い事をすると中で作られる。それで、願いによって色は大体五色。桃色は恋愛、黄色はお金、緑色は健康、青色は仕事って感じに仕分けていくんだ」
「えっと、、流れ星に願いをすると叶うとは聞いたことはあるんですけど、まさかこんなことが裏で起こっていたなんて知りませんでした」
「あんまり公にしてないからね仕方ないよ。でも君は神社の跡取りだから一応知っておいた方がいいからね」
「はい、あの、、それじゃあ、俺は仕分けをやればいいんですか?」
「いや、君にはこの星の回収を頼みたいから。今から、車で山に一緒に来てもらいたいんだ」
「山?」
その後、月岡の車でちょっと登ったとこにある山に向かった。
山頂に着くと少し雪が積もっている場所で、袴を着た人が三人。熊手を持って作業をしていた。
「おーい!星野、月島、りゅう!」
月岡さんが三人を呼ぶと息を切らして、疲れた表情の三人が近づいてきた。
「お疲れさん、どうよ収穫の方は」
「大量だよ。今年は特に」
「まあ、流れ星の映画の影響が大きいね。皆、それをまねてやってるから」
「神様が作った映画だから信じるのも仕方がないと思いますけど、、今年の量は多すぎますよ、、」
「やっぱりそうか、、そんなお前たちに朗報だ。月光神社のとこの息子が手伝いに来てくれたぞ!」
三人が橘を見る。
「あっ、、橘流星です。よろしくお願いします」
緊張した面持ちで三人に向かって自己紹介をすると。
『オオー!助かる!』
と歓迎された。それほどきつい仕事なのかと思った橘に三人もそれぞれ自己紹介をした。すると驚くことに三人とも名前が『流星』だったのだ。
星野さんと月島さんは月岡さんと同い年の70歳。りゅうと呼ばれてた人は自分と同い年くらいで月岡さんの息子だった。
「驚いたでしょ!流れ星は神聖なものだから名前に『流星』とついた人しか見つけられなくて。まあ、詳しいことは星野に聞いて。じゃあ、お前たち、あとは頼んだぞ」
と言って、月岡さんはそのまま車で事務所に戻って行った。
「それじゃあ、この熊手を持ってくれ、そんで、雪の中を突いてみると感触があるはずだからそれを熊手で掻き出してくれればいいだけだから、まずはやってみてくれ」
と星野さんに熊手を渡されたが、ほんとにそんなものが見つかるのかと疑いながらも近くの雪を突いてみた。すると、何か触った感じがしたので押してみると。
『リリ〜ン、リリ〜ン』
ーえ?今、音がした?
と、星野さんの方を振り返るが「どうだ?何か触った感じしたか?」と何も聞こえていない様子だった。とりあえずそれを掻き出してみると雪玉が出てきたが、大きさがさっき見たものよりひとまわり小さかった。
「お!見つかったか、どうだ!すぐに見つかるだろ!でもこれができるのが俺たちだけなんだよ。って、どうした?さっきからそれ揺らしてるが、、」
「いや、、鈴の音がここからするんですよ」
「音?そんなもん聞こえないが、、とりあえず中、見てみるか」
と木槌で叩くと、中には唐草模様が浮かびあがった金色の鈴が一つ入っていた。三人とも見たことがないらしく疑問符を浮かべていた。
「んー?事務所に戻ったら月岡に聞いてみるか、なんかしら資料とか探せば分かるかもしれないしな、とりあえずそれはこっちの箱に入れとこう」
と、彼らはそこまで気にしない様子で作業を再開した。
その後、薄暗くなるまで作業をした彼らは回収した大量の荷物と共にヘトヘトの状態で事務所に戻った。
「戻ったぞ!おい!誰か、荷物を頼む。あと、月岡はいるか?」
「どうした?」
「橘のにいちゃんがなんか見つけたんだ、見てやってくれねえか」
と、星野は月岡に鈴の入った箱と橘を任せ、他の二人と暖をとりに奥の部屋へ向かった。月岡は箱の中を確認するが、月岡も見たことがないらしく、資料を探して見ると言って鈴を持って奥の部屋へ向かおうとした。
「あ!今日はそのまま部屋に行ってくれて構いませんよ。部屋の場所は息子から聞いてください。バイト初日、お疲れ様でした。ゆっくり休んでください」
りゅうさんから部屋を教えてもらった橘はもらった握り飯を一つ食べ、布団を敷くなり、倒れ込んだ。
(あー疲れた、もうヘトヘトだ。久しぶりに動き過ぎたな、、、)
橘はしばらくして、目を覚ました。時間を確認するために時計を探して壁の方へ目を向けると、モコモコの服を着た子供が自分の鞄を漁っていた。驚いて起き上がると。
「お!ようやく起きたか、食後すぐ寝ると牛になるって知ってるか?にしても、つまらない荷物ばっかりだな!ゲームとかお菓子とかないのか?」
「ちょっ?君、何してるの?」
「フン!妾は神様だ!其方に願いを叶えてもらいに来た!」
と立ち上がり腰に手を当てドヤ顔で言い放った。
「えっと、、迷子?親は?迷子だったら、、」
「迷子ではなーい!失礼を申すな!其方は昼間、妾の鈴を受け取った!その証拠に、掌に印が付いとるじゃろ。その者は願いを叶えなければならない決まりなんじゃ!」
そう言われ、手を見ると確かに雪の結晶の様な印が付いていた。
「なんだこれ、、」
「ヨシ!分かたな、分かったら早速。願いを聞いてもらおう!」
「いや、全然分かんないけど、、」
「いいから聞け!妾の願いは『くりすますけえき』と言うものが食べたいんじゃ!」
「ケーキ?」
「そうじゃ、それじゃ!其方作れるじゃろ。一度でいいから食べて見たいんじゃ作ってくれんか?」
「ケーキなんて作ったことないんだけど、、」
「大丈夫じゃ、作り方なら妾が知っておる!」
「それって俺やる必要なくない?」
「何を言うか、こんな小さき手で作れるわけがなかろう。ほれ、善は急げじゃ!」
神様に押されながら事務所の台所に着いた。神様は風呂敷から小麦、卵、牛乳など食材を取り出し、机に並べ。
「さあ!やってくれ!」
期待の眼差しを向けられた橘は渋々、これはやるしかないと袖を捲った。そして、神様は作り方をひとつひとつ説明していった。橘もその通りにぎこちなく手を動かしていった。
「はい。できたよ」
「おおー!ついに夢に見た、くりすますけえきが食せる、、」
と皿の上を見ると、そこにはおにぎりが乗っかっていた。
「ってこれは、、、ライスボールじゃーーー!」
神様はおにぎりを持ち上げ、それを口に頬張った。
「お!その英語は知ってるんだ。ちなみにケーキはこっち、、いる?」
と今度は、グチャグチャのケーキが出てきた。
「もちろんじゃ!あるならそれを出さんか!それでは、いただきます」
「まあ、見た目と味は保証できないけど」
「ん〜!うまい!これがくりすますけえき、、うん!うまい、甘くて、ふわふわじゃ〜」
小さなほっぺをいっぱいにして幸せそうな顔をした神様はケーキを全部食べきった。
「ごちそうさま」
「ほんとに美味しかったのか?口の周りにクリームいっぱい付けてるし」
「うむ、うまかったぞ!其方には感謝じゃ、ありがとう、、」
すると、神様の周りが光り出した。
「えっ?」
「おお、妾はもう帰る。世話になったな流星よ」
「ほんとに神様だったのか、、」
「ようやっと信じたか!」
そういって神様は窓に向かって手を伸ばすと、周りの光が窓の外に流れていった。
「それでは、さらばじゃ」
翌朝、橘は台所の椅子で寝ていた。窓からの朝日と体の痛みで起き上がる。
「痛って、、、あれ?」
と昨夜のことは夢だったのかと、テーブルに目をやるとメモ紙がついた皿が置かれていた。
(妾からのくりすますけえきじゃ、よろこべ)
と書かれていた。メモをどかすと白い四角いものがあった。それを口にした橘は呟いた。
「硬いし、くりすますけえきじゃなくて、ライスケーキだし、、フッ何だったんだろ、あいつ」
その日、どこかの寺で住職が激怒していた。
「誰だ!ーーーー様のお顔を汚したのは!」
その仏像の口の周りがクリームだらけだったそうな。