7本目
今回も、パイ姉 視点。
◇◇◇
「あああぁぁぁーっ!」
私は、後悔していた。
愛の告白現場から逃げ出し、ギルドに併設された酒場で私は発狂して、血涙をジョバジョバ漏らして泣き叫んでいた。
女神のご乱心には、酒場の誰もが目をそらす!
「だから言ったのです、見栄を張るのは良くない、仲良しの秘訣は、自分を偽らず誠実に話すことなのですって」
テーブルの向かいに座っていた親友が、人の良さそうな糸目で私をなじる!
「だってぇー、ちゃんと下の毛のある人には、わからないよぉー、私のみじめな気持ちなんてぇー」
大声の下の毛発言にざわつく酒場。
「サイテーなのです……」
さよならなのですと、言い残してテーブルを去ろうとする糸目の令嬢。
「待ってー置いてかないでー」
「女神の今のこの醜態を見せたら、今度は向こうからフラれるかも、なのです」
私がエグエグ泣いていると、さらに傷口をえぐってくる。
「やだあああぁぁぁーっ!」
私は、手足をブンブン振り回す。
「泣いても喚いても事態は好転しないのです、パイ姉は下の毛だけじゃなくて、脳みその方もハゲてるかもなのです」
「ハゲ言うなーっ!」
最近どこぞの男爵家の跡取りと結婚して、毎日幸せに森の中で暮らしているような奴に、指図は受けないと私は号泣した。
「私に下の毛さえあれば! 下の毛さえあれば――!」
クリ坊の気持ちにも、ちゃんとこたえられたはずなんだ――!
「毛さえあれば、ですか。」
そこで、男爵家夫人が、フムンと、私の言葉を聞いてあごを手で撫でた。
「そういえば、うちの旦那に話したことがあるのです、」
「お?」
たしか森で読書会してる時に読んだ本だったかな?と前置きして、親友は言った。
「なんでも、うちの領内のツルツル高地に住むドラゴンには、毛生え薬の素材が取れるらしい、なのです」
「な、なんだってー!?」
私は、糸目の男爵家夫人に詳細の確認をとる。
こんなところ、クリ坊に見られるわけには絶対にいかない。顔を仮面で覆い隠し、ローブを羽織って、すぐさま、くだんの高原へと向かう。
クリ坊と、1秒でも早く、結婚したい!
しかし、親友に聞いていた通り、ツルツル高原は険しく、私の足を拒んだ。
「いたっ! やぶで手、切っちゃった!」
「こんな時にクリ坊がいてくれれば!
たくましい筋肉に守られながら、安全に道を進むことができたのに!」
でもクリ坊は、今はいない。
「だから私は、1人で戦わなくちゃならないんだ!」
「待ってろドラゴン! 私は必ずお前を倒す!」
「また、クリ坊と一緒に冒険するために!うおーっ!」
途中、凶悪な植物やモンスターのトラップに引っかかりながらも、なんとか頂上までの道を歩む。
しかし高原にたどり着いた私の目の前には!
竜との戦いに勝利目前で、私の望みを絶とうとする大男の姿であった。
ユ・ル・サ・ン!
「私は、下の毛を生やして! 弟と結婚するんだ!」
私は、全力で、得意の氷結魔法の呪文を唱える!
愛の力ゆえか、いつもより大きな氷塊が、天空に出現する!
その毛をよこせ!
ラスト2話ー