2本目
◇◇◇
「まあ元気出せよ、」
あまりのショックに、そこからどこをどう歩いたか、まるで記憶にない。
ふとオレが意識を取り戻すと、そこは、冒険者ギルドに併設されている、飲み屋だった。
目の前には、親友である男爵家の3男坊がいて、俺に語りかけている。
「あのなぁ、クリ坊、人間の価値ってのは外見じゃないんだぜ?」
その言葉を聞いて俺は、テーブルに、拳を叩きつける。
「うるさい! 既婚者が綺麗ごとを!」
テーブルの上のビールジョッキが跳ねて、泡が飛び散る。親友は、それをサッと避け、オレに反論した。
「だから落ち着けよクリ坊、あいつはそんな事でプロポーズを断るような奴じゃない、きっと何か他に理由があるハズさ、」
「同情はやめろ! 毛以外に、理由なんてあるものか!」
村長の息子で、跡取りで、金持ちで、イケメンで、チートスキル持ちで、力持ち。おまけに器用で、肉体美で、牛だって30頭も持ってる! 馬は3頭だけど!
「これで、プロポーズ断られるなら、お前だってぜったい結婚出来てねぇ!」
だってお前貧乏じゃんと、オレは八つ当たりをした。
「オイ、人に向かって失礼な奴だな!? だが、俺の妻は、そういう物差しで俺を選ばなかったんだ、どうだ羨ましいか? ほら、羨ましいだろ? 羨ましいって素直に言えよ!」
当然、反撃が来た。
「ああああ!ちくしょー! 既婚者めー、俺は羨ましくないぞー」
気持ちは、まさに怒髪天を向くという感じだ。
しかし、天を向く髪がないので、どうにもしまらない。
村内でも1・2を争う筋骨隆々とした巨体で、胸を激しくドラミングし、酒場の天井に向かって雄たけびをくり返す!
「いつもいつも、オレは差別と偏見に苦しんできた、」
「みんなオレをハゲ禿げ、剥げはげ、言いやがって! バカにして!」
「髪の毛があるのが、そんなに偉いのか?」
「じゃあ毛が一本のやつは、ハゲじゃないのか!?」
「髪の毛が何本生えれば、ハゲでなくなる!? 10本か? 20本か?」
「ハゲとはなんだ!」
「知らねーよ」
「オレは17歳だぞ? そう、もうこれから一生「はえる」望みはないんだ!」
自分の頭をさする。
ランプの光が反射して、壁に光のもやを浮かび上がらせる。
オレたちの日常や正義の中に、オレたちを否定する悪意が潜む!
オレたちは見た目でふるいにかけられる!
オレはそれが許せない!
「まだ苦しまなければ、いけないのか!!?」
「生まれつき盲目の人が、光を欲しがることは罪なのか!?」
「育毛――、それは人の夢! 人の罪! 人の業!」
「人は一体いつから、ハゲになる!?」
産まれた瞬間はみんなハゲなのに! それでも可愛いって言ってもらえるのに!
「いや、ふんわり生えてる赤ん坊もいるだろ?」
「17歳のハゲは、むさ苦しいのはなんでだ!」
「話聞けよ」
「冒険者でパーティ組んでも、モンスター退治じゃ、いつも必ず前衛だ! 戦闘で大ダメージ食らっても、回復も支援も、いつも後回しにされる!」
親友の反論。
「いや、だからそれは、チートスキル持ちで、パワーあって、体力大量で、状態異常耐性あって、回復スピード遅かったら、回復も後回しになるんじゃ……ハゲ関係ねーよ」
「そんな中、パイ姉だけが、いつもオレを優先して回復してくれた! オレにはパイ姉しかいなかったんだ! パイ姉は、オレの女神だった!それなのに!」
「だから聞けよ、話、」
「やめろー! フサフサの髪の毛のある奴に、成人式の誕生日にプロポーズを断られた、このオレの、世にもみじめな気持ちがわかってたまるかぁ!」
オレは、手足をブンブン振り回す。
「お前、髪だけじゃなくて、脳みそのシワの方もハゲてんじゃねーの」
「ハゲ言うなーっ!」
最近、結婚したばかりで、毎日幸せに森の中で暮らしているような、おハッピーな奴に、お指図は受けないとオレはお激高した。
「オレに髪の毛さえあれば! 髪の毛さえあれば――!」
ほかのすべては持っていた。
だからきっと、髪の毛さえあれば、パイ姉も、オレの気持ちにこたえてくれたはずなんだ――!
「髪の毛さえあれば、か。」
そこで、親友は、フムンとあごを手で撫でた。
「そういえば、妻に聞いたことがある、」
「お?」
たしか森で読書会してる時に聞いた話だったかな?と前置きして、男爵家の三男坊は語った。
「なんでも、うちの領内のツルツル高地に住む竜からは、毛生え薬の素材が取れるらしい、」
「何!?」
思わぬ言葉に、オレは親友の肩を掴んで揺さぶる。
「ン今の話は本当か!?」
詳しく聞かせろとまくしたてる俺に、やつはテーブルの酒を一口含み、それから静かに語りだした。
下urlは男爵家3男坊が主役の作品です、
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