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元英雄の男装従者  作者: 花咲凪海
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05 もう1人の生徒

一人称を少し変更しました。




 人の姿が疎らになってきた。


 菜々も広い街道から少し逸れ、獣道に入って行く。そこから暫く歩き、少し開けた場所に出た。

 近くに誰もいない事を確認する。

 

 菜々はおもむろに手を前に出し、何もない空間から洋服を取り出した。

 収納(ストレージ)の魔法である。これで亜空間に色々な物を仕舞えるので、手で持つ荷物が減るので何かと便利な魔法だ。

 今の服装は制服にローブというこの世界に似合わない格好なので、着替える事にしたのだ。

 前回入れていたものが無くなってないか不安だったが、全部あるようで安心した。


 そこで菜々は一つ忘れていた事に気がつき、もう一度収納に手を入れた。

 気絶しているそれを引っ張り出し、とんとん、という程度で軽く叩く。


 「ん…う……うわっ」


 「そんなに驚かなくってもいいじゃん。…おはよう、深見。」


 出したのはクラスメイトの深見葵だ。

 城から出る時、彼にだけ気づかれ腕を掴まれてしまった。

 気付かれたのにそのままいなくなるのは得策でないし、記憶を消すのも時間がかかる為に、さっさと気絶させて収納で亜空間に放り込んだのだ。

 生き物を入れても大丈夫な事は前回で把握済みである。なんで把握してるかは…いや、やめとこう。そのうち話すかもしれないし。

 それと時々誤解されるのだが、彼は男だ。優しくて気がきくので女子からの人気も高い。その上顔もいい方とか、世の中は不公平だ。


 「…酒井さん、これはどういうこと?なんで俺はここにくいるんだ?」


 ——やっぱり戸惑うよね。気づいたら知らない所にいるんだもの。


 「此処は王都から少し離れた森の中。簡単に言うと、城から出ようとしたら貴方が腕を掴んだから気絶させて連れてきた、かな。」


 「はぁ?ちょっと待て。信じたくなくても、此処は異世界なんだぞ!右も左もわからない世界で、安全が保障された所に何故留まらないんだ!あそこにいるのが一番いい選択だろうが!」


 「ああ、皆にとってはそうだろうね。でも私にとっては違う。」


 「…え?」


 「私が『グランドールの英雄』なんだ。信じられないかも知れないけど、私は前にこの世界に迷い込んだことがある。元の世界に帰りたくて頑張っていたら、いつの間にかそんな大層な名前で呼ばれるようになってた。…ただ毎日を必死に生きていただけなのにね。」


 菜々は皮肉そうに笑った。深見は困惑した顔をしている。


 「グランドールは国名。国の危機だ何だは知らないけど、他国の爵位を持つ英雄を強制的に呼び寄せるような国を信用できると思う?…というわけで此処まで来たんだけど、深見も連れて来ちゃったから一緒に来てもらう。でも勝手に連れて来ちゃった事は申し訳なく思ってる。ごめん。」


 深見は「はぁ」とため息をついて、諦めたように言った。


 「もう来てしまったんだから、一緒について行くよ。それしか選択肢がないしな。」


 それを聞いて少し安心した菜々は小さい声で礼を言い、収納から服を出して深見に渡した。

 選択肢が一つしかないとは言え、断られたらと少し不安だったのである。

 深見はそれに知ってか知らずか、今目の前に起きたことに気を取られていた。


 「えっ、今の魔法!?この世界には魔法があるのか!?」


 菜々は呆れたように笑った。

 ——ああそうだ。この人はこういう人だった。


 「ああ。この魔法は少し難しいけど簡単なのなら深見もすぐに使えるようになる。あと、この世界で制服はおかしいからこれに着替えて。私が前に予備で持っていた服だけど、着てないから安心して。」


 深見には後ろを向いて着替えてもらい、菜々も先程出した男物の冒険者服に着替えた。


 その後魔法を解き本来の姿に戻り、更に女の要素をなくして男の姿になる。

 本来の姿というのは、菜々がこの世界で過ごした15年分の体の成長。それからこの15年で髪は緑系の色に変わっていた。


 本来はあまりクラスメイトには見せたくないのだが、深見とは暫く共に行動するので姿を見せる事にしたのだ。


 「酒井さんっ、その髪どうしたの!?」


 ——おい深見、お前私が許可出してないのにこっちを見たな?お前は変態(くそやろう)なんだな?


 「…前回に色々あったの。その影響がこれで、加えて魔法で男の姿になってるから。…あとお前が変態なのはよーくわかった。」


 深見は一瞬考える素振りを見せ、すぐに顔を逸らした。

 …耳が赤いのがまる見えですよぉー。


 「いやっ、これはっ、そういう訳ではなく…」


 「あーそうですかそうですか。私が女の姿でなくて残念でしたー」


 あたふたしている深見をよそに、菜々は着替えた制服を収納の中に入れる。


 「そろそろ行くよ。なるべく早くグランドールにつきたいから。」


 「あ、あぁ。…ごめん。」


 流石に水に流そう。このギクシャクした関係を旅の間中続けるのも面倒くさい。それに、折角だから魔法もこの旅の間で教えたいから。


 菜々は収納から短剣と長剣を一本ずつ取り出した。

 この長剣は私が前回よく使っていた剣だ。

 私は長剣を脇に刺し、短剣を深見に渡した。

 深見は長剣を持ちたかったのか、私が脇に刺した剣と渡された剣を見比べてがっかりした顔をした。


 「これを持って。まず採集とかで刃物に慣れてもらうから。」


 「…俺には長剣をくれないのか?」


 「だったら刃物の扱いに早く慣れなることだね。」


 無理矢理深見を納得させ、ようやく私達はグランドールへ向かい始めた。


 ——咄嗟に連れて来ちゃったけど、こいつの事本当にどうしよう。そりゃあ責任は持つけども。



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