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元英雄の男装従者  作者: 花咲凪海
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04 消えたクラスメイト




 その後、クラスメイト達は退出するように命じられた。

 ちなみにランスはそのまま謁見の間に残っている。まだ話す事があるらしい。


 退出した後、彼らは控室らしき部屋に案内された。

 高校生およそ40人が入っても狭さを全く感じさせないくらい広い。


 ここまで案内してきた人が退出し、部屋にはクラスメイトのみが残った。


 扉が閉まったのを確認して、榊原が口を開いた。


 「皆、今更なんだが勝手に話を進めてしまい…」

 「いいっていいって。これが最善の結果だと思うよ。」


 次々とクラスメイトの感謝の言葉が被さり、榊原の言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 皆の言葉に榊原は安心したような表情を見せた。


 「ふふっ、ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。」


 クラスメイトも次第に笑みを見せはじめ、その場には和やかな空気が流れはじめた。

 そこに唐突にある声が切り込んで来た。



 「誰か、菜々を知らない?さっきから見当たらないんだけど。」


 「え、いないってそんなわけないでしょう? ここに着くまでにもで迷子になるような所はなかったよね?」


 「うん、そのはずなんだけど…」


 誰もが辺りを探しはじめたが、菜々の姿を見つけることはできなかった。


 また、菜々を捜す事ばかりに意識が向いていた彼らは、もう一人の生徒がいなくなっていた事に気づかなかった。






 ✳︎ ✳︎ ✳︎






 「いらっしゃいませ〜」


 「おじさん、これください!」


 ワイワイ、ガヤガヤ


 色んな声が絶えることなく聞こえてくる賑やかな大通り。

 この通りをローブを羽織り、フードを深く被った中性的な顔立ちをした人が1人で歩いていた。


 格好からして男なのだろうか。

 通りを歩いている人達よりも数段上等な服を着ていて周りから浮いても可笑しくないというのに、この男に気づく人は誰もいない。 


 まるでその人が存在していないかのように過ごす。それこそ可笑しいくらいに。


 男はその通りを迷う素振りを見せる事なく一直線に進む。

 王都から出る門に近づいてもその歩みを止めることなく進み、ついには検問をする兵士たちのすぐ側を通り抜けてしまった。


 それでも気づく者は1人もおらず、男はそのまま歩き続け姿が見えなくなってしまった。






 ✳︎ ✳︎ ✳︎






 王都から出てすぐの広い街道。

 菜々は深く被っていたフードをとり、周りの景色を眺めた。


 城ではクラスメイト達が菜々を探していたが、それを知ってか知らずか周りの景色を楽しんでいる。



 実は菜々は3年ほど前にこの世界に迷い込んだことがあった。

 森の中で途方に暮れていた所を親切な男の冒険者に拾われ、そこでこの世界のことについて知った。

 その時、その冒険者は菜々のことを「ボウズ」と呼んだ。バスケット部に所属していた為に髪の毛が短く、チノパンとポロシャツという男と間違えられやすい格好だったせいだろう。

 それなら丁度いいと菜々は「ジル」と名乗り、男として過ごすことを決めた。


 元の世界に戻る手がかりを探す為に、また手っ取り早く収入を得るために、菜々は冒険者になることにした。勿論、男として。

 そして、とにかく生きるのに精一杯だった頃から紆余曲折を経ておよそ5年が経つ頃には、菜々は英雄と呼ばれる存在になっていた。


 菜々はその功績を讃えた爵位を貰ったが、基本は冒険者として生活していた。

 貴族としての責任やしがらみが多くなると帰る手がかりを探しにくくなると考えたからだ。



 それからおよそ10年の月日が経ち、元の世界で生きた時間よりこちらの世界で過ごした時間の方が長くなった頃。 

 手がかりも何も一切見つけられていなかった菜々は元の世界に帰ること諦めようとしていた。

 しかし、時には諦めることも大切だとこの世界で生きる事に覚悟を決めかけた時、菜々は突然この世界から姿を消した。

 何の因果か元の世界に帰ってきてしまったのだ。


 しかし元の世界に戻ってからおよそ3年後、菜々は召喚という形でクラスメイトと共に再びこの世界に戻って来てしまった。

 もう二度と縁が無いだろうと思っていたこの世界に。


 此処が前と同じ世界だと確信を持った菜々は自分の力をこき使われるのは御免だと、王に謁見をした後自分の気配を消してこっそりと外に出た。


 外に出るついでに召喚された部屋にある魔法陣は壊してきた。今後菜々達のような被害者が出るのは避けたいし、何度も英雄(菜々)を召喚しようと試みられても面倒だったから。


 城を出た菜々は城下町の店でローブを買い、姿を消して王都から出た。


 そして今に至るのだ。




 道の広い街道を歩きながら、菜々はこれからの事について考えてる事にした。


 まず先に、菜々が元の世界に戻ってから何年が経ったのかを知る必要がある。王が「グランドールの英雄」を喚ぼうとしていた事と、アレンシア王に見覚えがあった事から、何十年も経っているとは考えにくい。


 それから、菜々の目指す国はグランドールである。

 菜々はこの国で爵位を貰った。とはいえ、この爵位は国に繋ぎ止める為のお飾りの爵位である。

 菜々は冒険者のままでいたかったのでちっとも国に留まってはいなかったが。


 それを許可してもらう条件として国の大事には必ず助けになると契約したのだが、突然元の世界に戻ってきてしまった為にその約束は果たせずじまいだ。


 今、皆はどうしているだろう。

 無事で元気に過ごしているといいけど。

 


 菜々は首から下がるそれを無意識に触っていた。






遅くなりました(汗)


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