プロローグ
ふぅ、と私は一息吐いた。
チャイムと同時に授業が終わる。肩が凝りそうなほど机に向かっていたが、それともしばらくおさらばだ。先生も教室から出ていき、教室は騒音に包まれた。
私は無意識に首元からこっそりと下がっているそれを触り、ちゃんとそれあることを確認する。
いつものようにお弁当を持ちながら、この平凡な日常から少し顔を背けようと脳裏に焼き付く思い出に想いを馳せた。
——そこまで昔でもないが、もう二度と訪れることのない場所に。
「…っ」
「菜々ちゃん?」
それも唐突に終わりを迎える。
* * *
私は自分のことを、人より少し経験が豊富なだけのごく普通の人間だと思っていた。
少し運動が得意で、本も多少読む。オタクの素質はあったかもしれない。あと、割と感情の起伏が少なめ。
それでも何処ぞの有名人の子でも無ければ富豪の子でもない一般家庭。
高校だってごく普通の公立高校。真面目に勉強をして入るような高校だ。
ありがたいことに、県内トップ5に入らせてもらっている。トップだったら響きがいいのに。
進学校だったおかげでいじめやスクールカーストなどというものは無く、どの子も友達との関係は割と良好。
“テンプレ“と呼ばれるものからこんなにも外れた高校生達なのに、何故こんなことが起こったのだろう。ほんと不思議でたまらない。
——理由があるなら、それはきっと…
* * *
周りではクラスメイトが落ち着きなく騒いでいた。
——ここは何処?
ぐるりと周りを見渡す。
世界遺産のように美しい円形の広間のような場所だ。白い壁に繊細な模様がいくつも彫られている、シンプルだが美しく上品。
ヨーロッパか、あるいはイスラムか。こんなところに一度来てみたかった。大学生や社会人になったら、海外旅行でこのような装飾がなされた城とかを観るのがささやかな夢だった。
「ようこそいらっしゃいました」
唐突に発せられた声に、みんなが驚き振り向いた。
そこにはローブのような服を着た男がいた。あら、普通のおじさん。
ん、とそこで違和感に気づく。その男は「ようこそ」とか言っておきながらも、待ってましたというような安堵や歓喜の表情ではない。むしろ驚きと少しの不安を隠しきれないでいる。
何か不都合でもあったか。
また男が言葉を発する。
「安心してください。とりあえず、隣の部屋に移動します。説明はそれからです。」
——まずお前が安心してくれ。
みんなの心が一致した瞬間だった。
いや、一部そんなことを言っている場合ではなかったかもしれない。
はぁ、一体どうなることやら。
こんにちは。花咲凪海です。
よろしくお願いします。