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学舎と寄宿舎生活:僕がいる意味

 最近、疲労が溜まっている。


 サクラさんからも「体を触られることがなくなるのなら」ということで、装備品の修復を頼まれた。

 レイン君からは、ようやく修復してもらえたことに感激された。

 ところが、他の部屋の人達からこんな声が上がった。


「修復じゃねぇだろ、これ。改良とかじゃねぇか?」

「性能、上がってない? 耐久力高くなってるよね?」


 魔術のレベルが上がったのか、効果が高まってたようだ。

 もちろん自分の装備品にもかけたことは何度もあったけど、激しい戦闘からは遠ざかってるからその効果の変化は知らなかった。


 でも次第に評価は高くなってきたことでうれしく思ってたこともあったし、頼りにされるようになったら気分も良くなる。

 それでも浮かれるわけにはいかない。


 他の学年からの、僕らの学年への嫉妬は高まってることを聞いた。


 異なる学年の交流はなるべくしない方針だって。

 理由は、学舎生活で先輩後輩の繋がりが強くなり、卒業後もそのしがらみに囚われやすくなるから。

 相手からそんな感情を持たれたら、相手の都合のいいように使われっぱなしになる。

 そういうことを避けるためらしい。

 そのおかげで他の学年から絡まれることはなかったけど、全学年が利用する食堂ではゆっくりできなくなった。

 妬みの的になりたくないし。


 しかし、修復の依頼はますます増える。

 癒しになってくれるご飯の時間は短縮せざるを得ない。


「休みたいなぁ……」


 もちろん休日はある。

 が、休日はあくまで学者の休日であって、僕の作業の休日じゃない。

 それにその品は授業で使われる。

 当然期日もあるから、休みたくても休めない。

 休むには、目の前にある仕事をすべて終わらせて、修復の仕事をいったん休むしかない。

 けど、目の前にある一人分の装備を修復すれば、この後の仕事を断ればゆっくり休めるんだけどね。


「……撫でるだけで修復が終わるから、簡単と言えば簡単なんだけどね……」


 誰かのためになる作業をするほど、その対象とならない誰かから、憎まれ口が耳に入る。

 作業の先にあるものを想像するだけで憂鬱になる。


 それに……。


「おい、ルスター。次の修復の依頼、これな」


 高貴な貴族の生まれ、ということで社交性はかなり高いんだろうか。

 カーク君が部屋に持ち込んできたのは、またもや別の部屋の誰かの防具と武器。

 一人で抱えて持ってきたから、多分一人分だ。

 けど、防具が胸と腰、両肩、両腕、籠手、両足、その他いろいろと数は多い。


「……ちょっと休みたいんだけど……」

「あぁ? 頼りにされてんのに何贅沢言ってんだ。明後日まで全部終わらせろよな」


 疲れが溜まってる。

 ただ撫でるだけでいいんだけど、結構な数の防具と武器を目の前に置かれるとやる気と気力が失せてくる。

 僕の前に物を置いたカーク君はすぐに部屋を出ていった。


 今は晩ご飯の時間。

 行きたいけど、他の学年の目が気になる。

 彼らの間で流れてる僕らの学年の噂の的は、僕とは誰も知らないけど、賑やかな時間帯は避けたいし避けるべきだし、行きたくない。

 おそらくみんなは、自分じゃない、と言い切れるだろうから堂々と食堂でご飯を食べてるんだろうなぁ。

 部屋には僕一人。


 目の前が次第に暗くなっていった。


 ※※※※※ ※※※※※


 気がついた。

 目が開いた。

 僕らの部屋の中じゃないことはすぐに分かった。


「……ん……?」


 そこは医務室だった。


「うぅ~……」


 起き上がろうとするけど、体が重い感じでなかなか動けない。

 起き上がるために力を入れた拍子に唸り声がつい出てしまう。


「ルスター君、気が付いた?」


 そこにタイミングよくミラー先生が入ってきた。


「レイン君達が部屋に戻ったら、防具の上にかぶさるように気を失ってたって知られてくれたの。大丈夫?」


 心配そうにのぞき込む先生への返事も言葉ならない。


「その様子じゃ出席は無理ね。今日一日ここで眠ってていいから」

「へ?」


 思わず声が出た。

 今日は学舎の休日じゃないの?


「丸一日寝てたのよ。みんな学舎に行ってるわ。いいから、まずはお休みなさい」


 休んだ気がしなかった。

 体が辛く感じてる。

 待てよ?

 ということは、ご飯食べてない。

 なのに、食欲がない。

 風邪でもひいたのかな……。


 待てよ?

 ということは、あの防具は……。

 って言うか、今日、実戦の授業がある日……。

 ……今日は、もういいや。

 どうにでもなれ。


 そうしてもう一度眠ることにした。


 ……その前にトイレ、行こう。

 道理でもそもそしてしまうと思った。


 ※※※※※ ※※※※※


「……い……。……ター……」


 遠くから呼びかけられてるような声が聞こえた。

 意識が次第に鮮明になる。

 その声はレイン君だった。

 両目が開くと、やっぱりそこにいた。

 ラミー先生が来た時よりは、いくらか体は楽になってた。

 うめき声を出さなくても、体を起こすことはできた。


「ん……。あ、あぁ……。えっと……」

「まだきついのか? 今授業が終わって帰ってきたとこ」

「あ、あぁ……。お帰り」

「うん。ただいま」


 頭は何とかまともに働いてくれてるみたいだ。


「先生から……ラミー先生から大体話、聞いた。今日はここで休むことにするよ」

「そっか。早く体調戻るといいな。そうだ、ご飯は?」


 まだお腹が重い感じがする。

 多分まともに食べられそうにない。


「……いや、いい」

「そっか。……今日の実践でさ、ルスター君の仕事ぶりに喜んでた奴がいたんだよ」

「え?」


 今はあんまり話を聞きたくない。

 というか、もう少し寝たいなぁ。


「君が部屋で気を失った時に抱えてた防具の持ち主。修復の依頼だったらしいね」

「あぁ。うん」

「まるで別物みたいな、質の高い防具と武器だったって喜んでたよ」


 ……手をあてがわなくても修復できる、ってことなのか?

 体が元気になったら試してみようか。

 でも気力は、そこまで戻ってない。


「で、カーク君達がやたら不機嫌だった」


 いつものことだろうに。


「レベルが一つも上がらなかったから。まぁ僕ら全員だけどね」

「……そか」

「でも、ただでさえ他の人とかなり差があるから、追いつかれることはなさそうだけど」


 そりゃそうだ。

 必ずレベルを一つは譲渡してたからな。


「まぁゆっくり休むといいさ。時々様子見に来るよ」


 そんなに長く休むつもりもないんだけどな。

 でも気持ちはうれしい。


「うん、ありがと」


 見舞いに来てもらいたいほど重病でもないし、長く休むつもりもない。

 でもレイン君から聞いた実践の報告を聞いて、レベル以外は僕がいなくてもあんまり変わんなさそうって思った。


 でもさ。

 自分がいなくても困らない、というなら……。


 自分がいたおかげで命が救われた、という人はいなかった。

 そうならないように予防はしてたけど。

 自分がいたおかげで楽ができた、という人はいたけど、いなくなったら困る、というほどじゃない。

 そして、自分の能力を使うことが、問題を巻き起こす原因になりつつある。

 それに王冠の紋章は、努力しなくなる、努力させない力でもあるかもしれない。


 紋章はずっと刻まれたままだから、あの衝動が起きることはないから、日常生活に困ることもない。


 勇者のみんなも言ってたし、ここに拘る必要もないのかなあ……。


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