第2話 ハリス家のアーサック
第2話 ハリス家のアーサック
人は皆、生まれた時に職業を貰う。もちろん「現実世界」の人々にも。産まれてすぐは、能力にほとんど他人との違いはないが、少し成長し、教会で儀式を行うと自分の職業が分かり、それに見合ったスキルが与えられる。「現実世界」の人々には儀式の行い方が伝わっていないため、スキルを貰えないことはもちろん、それぞれの個性を伸ばすこともほとんどない。
しかし稀に、儀式を行う前にスキルに覚醒してしまうがある。そうなってしまった子供たちは、スキルの力に耐えられず、死んでしまうことが多い。
しかし俺はもう職業も知っているし、スキルも覚醒している。俺の職業は「転生者」、スキルは「転生」と「超記憶」だ。
スキル「転生」は死ぬと二つの世界にランダムに強制転生させられる。シンプルながら鬼畜なスキルだ。死んでも死ねず、天国に行きたくてもまたリライフだ。
「超記憶」も文字通り記憶力が飛躍的に向上する。1度覚えたことは死ぬまで(死なない)覚えることができ、忘れることは出来ない。これもよく考えると鬼畜スキルで、前世でやらかした黒歴史も忘れることが出来ないというデカすぎるデメリットがある。
そんなクソみたいな職業、「転生者」は、おそらくユニーク職業で、この職業を持っているのは多分この世で俺だけだ。こんな職業を貰ってしまった人が他にいるのなら深く同情する。
「はい、サックちゃーん、お乳の時間ですよ〜。」
「ずるいぞアーサックーー!!」
父と母はいつも賑やかで見ての通りバカップルだ。100組目の両親だが、ここまでラブラブカップルは初めて見た。
それでは、100人目の乳をご賞味いたす。
・・・12位だな。何がとは言わない。
「現実世界」で生きていた数百年間の間にこっちの世界の文明がどのくらい進歩したのかを早く知りたいのと、もうひとつ、人生を始める時に必ず行うことを一刻も早く行うため、外に出たい。しかしそのためには、歩けるようになることが必要だ。そのため、毎日寝る前に筋トレと歩く練習をしている。
26度目の人生の際、筋トレを過剰に行い、ムキムキになり冒険者として活躍したこともあったが、死んだら鍛えた体も元通り。キュートなムチムチボディに戻ってしまった。これ以降、筋トレはやめた。
1歳になり、そろそろいいかと思い、歩き出した。
「サックちゃんが歩いたぁ〜!」
母は号泣。
「いいぞアーサック!その調子で走れ!」
父はスパルタ。
どさくさ紛れで外に出ようとすると止められはしたが、室内を探索できるようになった。
家にあった本で大抵の状況が分かった。やはり科学は1ミリも進歩していなかった。大きな変化と言えば、魔王が倒され少しの平和が訪れているということだ。しかしこれは我々庶民には縁のないことなので興味はない。
2歳になり、タイミングを見計らい、「ママ」と言ってみた。
「サックちゃんがママってぇ〜!」
ママは号泣。
「ママじゃない!パパだ!!パパ!!」
パパは横暴。
最初さえ決まればどんどん喋れるようになってもそこまで違和感はない。4歳になって会話をするようになり、5歳で父を言葉で泣かせられるようになった。
6歳になり、初めて外に連れ出された。俺の住んでいるところは小さい村で、約15世帯位の人が住んでいた。久しぶりのシャバに興奮し、ついはしゃいでしまった。
「サックちゃーん、」
母に急に呼ばれた。呼ばれた方に行くと、もう1人母と同い年ぐらいの女性がいた。よく見るとその後ろに少女が隠れている。
「サックちゃん、村で唯一あなたの同い年のミーシャちゃんよ。」
少女は照れているのか出てこようとしない。彼女の母が挨拶するよう言うが、拒絶している。このシチュエーションは初めてではないので、この場面における最善の行動は把握している。
「よろしくね、ミーシャちゃん。」
彼女は少しためらったが、「よろしく」と小声で言い、また彼女の母の背後に戻った。
さて、こんなことをしている場合ではない!俺は今1番しなくてはならないことが残っている。それは・・・
お、意外と近そうだぞ・・・
これを達成するには両親の目を欺く必要がある。
「ママちょっと遊びに行ってくるね。」
「あら、じゃあママも今から行くから待ってて。」
まあ、そうなるよな。
「いいよ、1人で遊べるよ。」
「だめよ、危ないもの。」
しぶとい。こうなったら、最終手段、
「ミーシャちゃんと2人で遊ぶ約束をしてるんだ。」
そう言うと母は何故か照れくさそうにいってらっしゃいと言い、1人で行かせてくれた。
もちろんミーシャと遊ぶというのは嘘だ。今生初めて嘘をつき、罪悪感を覚えたが仕方がない。
母に心の中で謝りつつ、地図を見て走り出した。