第8章 政府の番犬
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人はそれぞれ異なる価値観をもっている。
自分が信じる宗教がある。
そして自分なりの正義をもって生きている。
それを否定する権利もないし、肯定する必要もない。
感情はその人しか分からない。共感や同情もいらない。
理解しようとしなくていい。
価値観が違っていても、同じ場所にいられる道を探すことが重要なのだ。
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Oliveのサイトのフォローワーがだんだん増えはじめてきた。
【預言者出現!】【こんな世界に本当になるのかな?】【次はどんなことが起きるのだろう】
世界各国からリツイートをしてくれる若者のおかげか、少しずつこれからの出来事について考えてくれる人が増えてきた。
私たちは自分たちの声が少しずつ届いていたことに嬉しさでいっぱいだった。
ただ、それは自己満足でもあった。
【たくさんフォローワー増えましたね!この調子で頑張りましょう♪
このままバズったらテレビとかでも取り上げられ、もっと知ってもらえるかも!】
学校に向かっている最中、オリビアから3人のグループにメッセージが届いた。
桂花は笑顔のスタンプを送り、携帯を閉じた。
「フォローワーが増えることも大切だけど、みんなの心と行動が変わらないと・・・」
オリビアからのメッセージを見て、小さい声でボソッとつぶやく桂花。
「そうだな。でも、まずは人々に拡散することができたっていう小さい目標が達成したな。」
「まだまだこれからだろ?」そういう蒼に、私はもちろん!と蒼の背中に拳をぶつけた。
「暴力反対~」いつものくだらないやりとりをしながら学校に向かった。
いつも通り下駄箱で別れる二人であったが、目の前に現れた人物により
これまでの当たり前の生活ができなくなるのであった。
「柊先生…」
いつもであれば絶対いない柊が、まるで二人を待っていたかのように昇降口にいた。
「おはよう。蓮見さん、荻原くん。」
口は笑っているが、目は笑っていない。何を考えているのか全く分からない先生は、二人とも苦手であった。
蒼は何か危険を察し、桂花を守るかのように前に立った。
「柊先生おはようございます。朝から珍しいですね。それでは遅刻しないよう失礼します。」
一方的に伝え桂花の手を引っ張り、この場から離れようとした。
「なんとなく分かっているようだね。
残念だけど、2人には話があるからついてきてもらうよ。」
柊は蒼のお腹に何かを押し付けた。それは布で覆われたナイフであることが分かった。
「わかりました。」手を挙げ、柊の指示に従うことを表した。
桂花の手を握り、目で“柊はOliveが俺たちであることを知っている”ことを伝えた。
桂花は一瞬驚いたが、これからの発言に気を付けることを悟った。
【俺が相手をする。桂花は口を開くな。
絶対に柊先生を信用してはいけない】
今は誰も使用していない、古い音楽室に案内された。
カーテンがひかれており真っ暗な部屋だった。
部屋の明かりがつけられ、さび付いた椅子やテーブルが置かれていた。
「ここに座りなさい」柊が椅子を指した。
2人は言われた通り座り、息をのんだ。
「Olive。君たちがやっている活動について話がしたいんだよね。」
「君たちのことは調査済みだから、嘘をいっても無駄だからね。」
「何を知りたいんですか。」冷静に蒼が聞いた。
「政府の番犬って知っているかい?市民の活動を観察したり、政治批判をしたら国家反逆罪で逮捕する第二の警察のことを。」
はじめて聞く言葉に、2人は横に首を振った。
そんな映画やドラマのような役職が存在していることに驚いた。
「僕はその一人でね。君たちの行動が、これからの社会に悪影響を与える存在じゃないかって思っているんだよね。」
「蓮見さんの予知能力。それ邪魔なんだよね~」
柊は続けてこう話した。
「君が予知したように、これから社会はどんどん変わっていく。これは宿命なんだよ。
だから君のような存在が増えてデモでも起こされたら政府は困るんだよ。」
まるで柊はこれから起こる社会を知っているかのようだった。
「柊先生は私たちの活動をやめないと殺すということですか。」
「殺すなんてしないよ。国家反逆罪として逮捕するかな。」
2人は目を見合わせ、沈黙が続いた。
このまま終わりにしていいのか。
どうしても桂花は聞きたいことがあり、沈黙を破った。
「柊先生は宿命とおっしゃいましたが、見て見ぬふりをしていいのですか?」
桂花は目をそらさず柊の目を見た。
「君は正義に溢れているね。ときにその正義が刃となることを忘れてはいけないよ。」
先ほどまでの冷たい口調とは違い、悲しい声で話し始めた。
柊は何か過去にあったかのようだ。
「これからいうことは僕の独り言だ。」
「君たちはまだ若い。きっとこれから理不尽なこと、不条理なこと。たくさんのことを経験するであろう。長生きしたかったら表と裏を使いわけ、賢く生きることを最後に教師として伝よう。」
そして最後に耳打ちをし、部屋をでていった。
「活動をつづけるのであれば、このままだと逮捕される。どこかに逃げろ」
取り残された私たちは、しばらく呆然として部屋を眺めた。
おそらく柊先生だけはなく、私たちを監視している。
今後活動を続けると、家族や周りの人間にも迷惑をかけることになる。
私たちは覚悟して始めたことなのに、実際に警告され恐怖が襲った。
「蒼…迷惑かけてごめんね。」桂花から声にだした。
そもそも活動をはじめたいといい、巻き込んでしまったからだ。
蒼が声を出す前に桂花がつづけてこういった。
「でも!私は自分の正義を貫きたいと思うよ。でも私だけじゃなにもできない。
蒼が必要なの。一緒に見えない敵と戦ってくれる?」
長い溜息をついて、手を頭に組み蒼は言った。
「おれがいつも励ましている側なのに。取られたわ(笑)」
「もちろん。ここまできて逃げてたまるか。」
2人は手を握った。
これからどんなことがあろうとも、きっと大丈夫。
まず活動を継続するために、やることは山積みだ。
家族にこのことを伝えること、そして高校を辞め拠点地を探すこと。
生活できるように、政府の番犬に見つからないように仕事をすること。
そして今後次のステップにいくために必要な準備などだ。
2人は教室に戻らず、屋上で話し合った。
「私たちの人生、めいいっぱい生きることになりそうだね~」
「後悔する人生よりいいだろ?」
そういいながらto do listに記入していると、オリビアからメッセージが届いた。
「オリビアちゃんから連絡きた!あとで連絡しようと思ってたんだよね…」
【この速報ニュースみてください!】URLが貼り付けてあった。
URLを飛ぶと、事件があったようで速報ニュースが流れてきた。
緑町市に300人を超える食中毒が発生。原因は不明。
他の市でも同様に食中毒者発生。原因は調査中。
桜町市でも200人を超える食中毒発生。
ある一定の町で集団食中毒が発生しているようだった。
ただ学校や施設などの集団な場所ではなく、家庭や会社など個別で発生しているようだった。
「なにこれ…。」桂花は急な出来事に驚いた。
「何か未来との関係性を感じるな。予知夢にはあった?」蒼は桂花に聞きつつ
急いで予知夢が書かれたリスト開いた。
【人口で作られた病気により人口が減る。】
【人が減ることにより農業が衰え、飢饉に見舞われる。】
2人はこれだ!!と指でさした。
人口で作った病気が今回の食中毒と関係しているのだろうか…
2人は目を見合わせた。
「今回の事件は被害が広がる前に必ず食い止めよう。」
予知夢と関係ないかもしれない。自分たちに出来ることは限られている。
それでも何もしないで後悔するより、やってから後悔するほうがいい。
復讐や悲しみの連鎖を止めたい。
この事件が、未来の紛い物の社会にへと変動させることを知っているからこそ…
次の日の土曜オリビアと集まることにした。