第4章 日常と出会い
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世界の片隅では、戦争が勃発している。そこで苦しいでいる学生がこういった。
“夢も希望も諦めない。困っている人たちの心の支えになりたい”
彼らたちは、自分が苦しいはずなのに他人を助けたいと願う。
自分たちが望んで、戦争に巻き込まれたわけじゃない。
たくさんの悲しみと苦しさを背負っているだろう。
それでも前を向き、誰かのために行動をしたいと願う彼らに、人間を変えることができるのは人間だけなのだろうと感じた。
“人間は他人に勇気と感動を与えることができる。
それなら少しずつでいい、自分たちの行動が結果的に誰かを変えることができるのではないか”
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2人が某SNSサイトに記事を掲載してから、月日がたった。
春を迎え、同じ高校に入学した。
頭がいい蒼は特進クラス。桂花は普通クラスに。
クラスは違うけれど、相変わらず一緒に登下校をし、2人で始めたオリーブは頻繁にSNSを通じて活動を続けている。
始めて記事を掲載してから、1年がたつ。
中学2年生のときに桂花が予知夢をみて、蒼とオリーブという名のチームを結成した。
誰も信じてくれないであろう、一見”ただの夢”を蒼だけが親身になって一緒に考えてくれた。
継続は力なり、というけれど。いまだ該当する人からは連絡がこない。
1年半も書きつづけると、少しずつだがコメントがくるようになった。
アンチ意見もあれば、賛同してくれる人。10代~30代の人が閲覧してくれているようだ。
予知夢の1つ、動物にチップをいれるニュースが報道されてから少しずつ社会に変化がでてきた。
これまで解明されなかった、貴重な動物の生態が明らかになったり、動物園での事故が全くなくなった。また野生動物が民家に出没することもなくなった。
まるで、人間と動物の間に一枚の厚い壁ができたかのようだった。
これまで被害にあった人たちは、喜ばしいことだと思う。
だが私は今の社会は、自然と共存ではなく、片方のみの一方的な活動のように感じた。
動物にチップをいれるニュース以降、予知夢でみた2つ目の大きな事件は起きていなかった。私はすっかり気が抜け、予知夢の一部だけが起きているのかもしれないと思いこんでいたのかもしれない。
「蓮見さん!」先生の大きな声で目が覚めた。
上の空だった私は一気に現実世界に戻された。
「次は教科書P105を解いてください。」30代後半の男性教師、柊先生。
油断していると容赦なく指してくる教師で、生徒からは裏で棘っちと呼ばれている。
今は4限目の生物の授業中。
私がおどおどしながら黒板と教科書を見ていると、隣の席から一枚の紙が飛んできた。
【クローン】
「遺伝子組込み技術により、同じ遺伝子をもつ生物をつくることができるクローン技術です。イギリスでクローン羊ドリーが誕生しました。」
蒼が前にクローンについて話していた内容を思い出し、はっきりと応えることができた。
「…正解。」柊先生は教科書の続きを読みはじめた。
私は答えを教えてくれた、隣の席の友達に【ありがとう!】と紙を書き渡した。
授業を無事終え、「棘っち」見逃さないね~と笑いながら話しかけてくれた子は、隣の席の友達、翠。入学式も隣の席で、その時からずっと仲良しだ。私は愛情を込めて、みーちゃんと呼んでいる。
「みーちゃん、さっきはありがとう!仏様~」と、翠の手をぶんぶん握った。
「でも桂花も、補足説明よく瞬発的にでたね。さては荻原のおかげかな?」とニヤニヤしながら聞いてくる。どうやら、翠は私と蒼の仲を疑っているようだ。
「腐れ縁が役に立った!お腹すいた…ご飯にしよ~」私は気にせず、お弁当箱を鞄から探す。
「そうだね!早く中庭向かう!」2人はお弁当箱をもって走って体育館の近くの中庭に向かった。人があまりこない秘密基地みたいな場所でもあるが、体育館で遊ぶ先輩たちを見ることができる場所でもある。
翠は、体育館で遊んでいる先輩たちを観察することが趣味で、私はその付き添いだ。
体育館をのぞくと、「まだ誰もきてないね~」といいながらお弁当を広げ食べ始めた。
「ねー!すごい可愛い子発見!」翠が携帯でSNSサイトをみていたようで私に見せてくれた。
「うわ、お人形さんみたい。」そこにはブロンドヘアで、日本人と外国人のハーフの女の子が写っていた。
名前は桜田オリビア凛。まだ中学3年生とは思えない大人の表情だ。
「モデルさん?」と聞くと、予想外な答えが翠からかえってきた。
「違うの~この子ネットで炎上してて。こんな可愛い子なのに、結構発言がきわどいみたい。」
ほら見て、っと彼女の書いている記事をみせてくれた。
そこには、私と蒼が探していた言葉が書かれていた。
「動物にチップは、いずれこの世を絶望される。私は夢でみた、恐怖の未来を。」
他にも私が見た夢の内容が書かれていた。
見つけた!!!!!
急いで蒼に教えなきゃと思い、記事のURLをメールした。
「先輩たちきた!」と翠が小さい声でいう。
私は体育館のほうに視線を向けると、先輩たちがぞろぞろやってきてバスケットボールをし始めた。
「青春っていいよね!」と隣でおっさんのような発言をする、翠に呆れつつも
蒼からの返信がこないかドキドキした。
すると中庭に水やりにきた柊先生が、私たちに声をかけにきた。
「お前たちもうすぐ昼休み終わるぞ。」
「柊先生がこの時間に水やり珍しいですね。」柊と何気なない会話ができる翠。
ホースを止め、柊は私たちの目をみて質問してきた。
「生物の時間、蓮見に質問したクローン。お前らクローンの世界が当たり前になったらどうする?」
突拍子な質問に目を見合わせる私たち。
翠は「想像できないですね。怖いって思うけれど、きっといい面もあるだろうからAIと同じ感じなんだろうな。」と答えた。
「私は進化や発展は決して悪いことではないと思うけれど、好奇心で作ってほしくないです。クローンを生むことでデメリットを受ける人や生き物を考えたいです。」
夢でみた世界が頭をよぎり、拳を握った。
私が発言した後、一瞬空気が張り詰めたが、
「桂花!」と走る音ともに蒼の声が聞こえた。
私のメールを見てくれたようで、中庭にきてくれたようだ。
「特進の荻原くんか。」蒼は優秀な生徒なようで、知らない先生はいないようだ。
柊先生をみつけた蒼は、一瞬苦手な顔をしたが営業スマイルで先生に挨拶をした。
「柊先生、こんにちは。珍しいですね、先生と蓮見たちが一緒にいるの。」
「先生水やりにきたんだって。」翠が、応えつつ蒼に、ハローと挨拶をした。
翠と蒼は、桂花を通じてお互い知っている。
「桂花メールの件なんだけど…」と翠と柊先生と少し離れて話をした。
「そうなの!放課後どっちかの家で会議しよう。」
「蓮見さんと荻原さんは幼馴染なのか?」2人の様子をみて翠に質問をする。
「そうみたいですよ。性格もクラスもバラバラなのに仲良しですよね~」とニヤニヤしながら応える。
キーンコーンカーンコーン…予鈴が鳴った。
「先生お先に失礼します!」といい、それぞれ教室に戻った。
この時私たちは、柊先生が私たちを要注意人物として監視するようになるなんて気付きもしなかった。
…放課後…
学校が終わると、急いで蒼の家に行き、パソコンで「桜田オリビア凛」について詳しく調べた。
彼女は、はじめは日常の出来事をSNSに綴っていたようだった。
だが予知夢の記事を書き始めたのはここ数か月前のようで、半分以上の内容が桂花がみた予知夢と一緒であった。
見た目が可愛いせいか、ファンがいたようだが、最近の記事に誹謗中傷のコメントが書かれていた。
【「病んでるの?」「痛いわ」「予知夢、なにそれ。ださいわ」「ヒーロー気取りか」】
「ひどい…」言葉の刃が、私の胸にささった。
「桜田さん、こんなコメント書かれて大丈夫かな?」と無償に心配になった。
「連絡とってみる?」と蒼が文章を作ろうとした。
すると、ピーンと音が鳴った
それはオリーブのSNSサイトにコメントがきたお知らせの音だ。
「はじめまして。急なご連絡すみません…私も貴方と同じ夢をみました。桜田といいます。」
なんと先ほどサイトでみていた桜田さん本人から連絡がきたのだ。