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曇天。  作者: 凪
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2月 燠(おき)⑥

 その日の夜、雄太は帰宅すると真っ先にブログをチェックした。それがここ一年ぐらいの習慣になっている。

 コメント欄を見ると、新たに書き込みがあった。


 鬼嫁  

 お願いです。

 うちの姑も害虫なので、駆除してもらえませんか?

 結婚して3年になるけど、子供が産まれない私に向かって、「昔だったら、子供が産めない嫁は離縁されたのよ」って真顔で言う姑。

 勝手にうちの合鍵を作って、家に入り込むし。

 この間、仕事から帰ったら姑がいて、「いいものを食べてないから子供が産まれないのよ」ってにこやかに料理を作ってました。

 ちなみに、その料理は激マズ。

 さすがに大泣きして旦那に「もう堪えられない」って言ったら、旦那は怒ってくれたんだけど。

 それでも、何やかやと理由をつけて、うちに来る姑。

 本気で死んで欲しいと思ってます。


「新たな依頼か」

 雄太が今後の対応を思案していると、新たなコメントの投稿があった。


 クジョレッド 

 クジョレンジャーのクジョレッドです。

 鬼嫁さん、ひどい目に遭っているようですね。

 害虫に我慢する必要はありませんよ。

 その姑は、家に勝手に入り込む害虫の王様、ゴキブリのようですね。

 追い払うだけじゃ、またやって来るので完全に撲滅しないと。

 僕らがさっくり退治しますから、ご安心を。

 レンジャーで相談してから、連絡しますね。


「クジョレンジャーはやっぱ、仕事が早いなあ」

 雄太はニヤニヤしながらコメントを読み、自分もコメントを投稿した。


 代表  

 みんな、この調子でサクサクと害虫退治をしましょう。

 この活動は、社会貢献と言えるかもしれません。

 ロージンなんて、医療費をメチャクチャ高くして長生きできないようにすればいいんです。

 毎日、病院でムダに群れてるロージンの医療費を、なんで俺らが負担しなくちゃいけないのか?

 年金だって、今のロージンは自分たちが払った以上のお金をもらってるんです。

 俺らがロージンを食わせているようなもんです。

 今、定年を伸ばそうという話もあるけど、冗談じゃない。

 ロージンたちの席が空かないと、新入社員は雇ってもらえません。

 結局、俺ら若者にしわ寄せがくる。

 ロージンが減れば、少子化でも何とかやっていけるんだから、日本の将来のためになるんです。



 暇つぶしとストレス発散のために一年前に始めたブログ「もしも世界からロージンが消えたら」は、常連のフォロワーが今では20人ほどつくようになった。


 雄太はロージン撲滅の会の代表と勝手に名乗っている。

 日々、ロージンにどれだけひどい目に遭っているのか、国は高齢者を優遇して若者には冷たいと、ブログに書いて鬱憤を晴らしている。それに賛同する人が増え、胸焼けやクジョレンジャーが現れ、実際の活動へと発展していった。


 今では、このブログを読んだ人から、害虫退治の依頼がある。雄太は応じていないが、胸焼けとクジョレンジャーは連絡を取って請け負っているらしい。


 雄太はスーパーで買ってきた唐揚げ弁当をレンジで温めた。


 ――昼にまっずい唐揚げを食べたら、まともなのを食べたくなっちゃった。弁当のほうが、数十倍うまいよな。


 バランスを考え、きんぴらごぼうと冷奴、味噌汁も買ってきてある。それらを交互に食べていると、スマフォが震えた。見ると胸焼けからメッセージが届いている。


 パソコンの件、知人に聞いてみました。その機種なら、7万円で売ってくれるそうです。

 それと、今使っているパソコンも、よければこちらでその店に売りますよ。もちろん、売ったお金は代表さんにお支払いします。


「おおっ」

 雄太は唐揚げを頬張りながら、小さく歓声をあげた。

 すぐにメッセージを打ち、送信する。


 ありがとうございます! それを買いますので、よろしくお願いします。

 中古パソコンの買い取りもお願いします。


 ――中古のが1・2万円で売れたら、5万円で新品のノートパソコンが手に入るってことだもんな。この人、いいネットワーク持ってんなあ。


 上機嫌で食べていると、またメッセージが届いた。


 了解しました。商品が手に入ったら連絡します。

 今使っているパソコンは、データは削除しておいてくださいね。


 雄太は、『ありがとうございます。お願いします』と短いメッセージを返信した。


 ――いいぞ、運がどんどんよくなってくる。ホント、長かったよなあ、極貧生活。何度も死のうかと考えたけど、死ななくてよかった。


 味噌汁を飲みながら、しみじみと今までの生活を振り返った。


 ――でも、190万ぐらいのカネじゃ、すぐになくなっちゃうよな。年内に500万稼げば、来年はもっとましなアパートに移れるかも。


 今住んでいるのは、家賃3万円の築30年は経つ古いアパートである。

 ワンルームで、トイレと風呂がついている。蕨駅から歩いて20分ぐらいかかるが、それでもネットカフェで生活していた頃と比べると、天国のようだった。


 ――やっぱ、そろそろ第二弾を決行しないと。いつまでもこんな生活を続けるつもりはないし。今週末ぐらいに、行ってみるか。


 夕食を終えるとパソコンに向かい、ネットで検索を始めた。


「都内はやめたほうがいいよな。関東圏内で、田舎にあるようなホームがいいか」

 

 独り言を言いながら、1時間ほど検索を続け、メモに数件のホームの名前を書き込んだ。

 

 神奈川 大山 ハッピーライフ大山

 群馬 水上 せせらぎの郷 

 茨城 潮来 グリーンヒル潮来


「よっしゃ。ここから選ぶか」

 満足そうに雄太は呟いた。


 ――オレは、もっと上に行く。こんな生活から、すぐに抜け出してやる。オレはもっと上にいるべき人間なんだから。

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