QBAQHEXPDAQEN: 2020
「準備は整ったね?」
長老の一人が、旅立つ若者たちに訊ねた。
「『はじまりの一節』にあるとおり、準備を整えました」
若者たちは、海、そこに浮ぶいくつもの質素な船を背に、答えた。
| はじめに世界があった。
| 私たちはなにも知らなかった
| 世界があることも知らなかった
| だから、知りたいと思った
| さぁ行こう、若者たちよ
| この一世代で、
| 世界にはないがあっただろう
| 知りたいとは思わないか
| 私たちは知りたい
| さぁ行こう、若者たちよ
長老たちの背後から、部族の皆が歌った。
| 知らないということは恐ろしいとは思わないか
| 忘れるということは恐しいとは思わないか
| 知るだけで充分だとは思えなかった
| だから、伝えようと思った
| さぁ行こう、若者たちよ
| 君たちが知ったことが、消え去ってはいけない
| 私たちが、それを許さない
| 許さないだけでは充分ではないだろう
| だから、歌を授けよう
| さぁ行こう、若者たちよ
若者たちはその歌を聞きながら、いくつもの質素な船に乗り込んだ。
| 櫂の最初の一漕ぎを
| それは世界に繋がっている
| 君たちが歌でしかしらない世界に繋っている
| 知りに行こう、世界を
| さぁ行こう、若者たちよ
船に乗った若者たちは、その節に合わせて漕ぎ始めた。
赤道に近い、ある島の人々。それは知られてはいない。
彼らは自分たちをこう呼んでいた、“QBAQHEXPDAQEN” と。その意味は「見て歌う者」。それは別の名前でも呼べるだろう、「記憶者」と。
| 私たちは出会った、記憶を守る者たちと
| 彼らは問うた、なぜ歌うのかと
| 私たちは答えた、知りたいからだと
| 盟約のもとに、海を越えよう
| さぁ行こう、若者たちよ
浜辺といくつもの船から、歌声が聞こえていた。
コロンシリーズへのネタ提供的な短編です。
元ネタは、Netnews時代のグループで作成したTRPGに提供した "RACADA" という設定です。




