久遠編:歌は二人を癒した。
今回で久遠編終了っ!カウントダウン1
久遠編:歌は二人を癒した。
「ぐがぁぁっ!!」
『あがぁぁぁぁっ!!』
巨大な白い龍は絶叫しながら彼女の大切なものを奪った存在であるちっぽけな人間をその長い身体で締め上げていた。徐々に人間の身体は悲鳴を上げ、足から順に骨が折れゆき、このまま朽ち果てて行くのは時間の問題だった。
「やめろ、やめるんじゃ久遠ちゃん!」
近くにいた老人の声など聞こえず、狂ったような瞳は焦点が合わなかったその目に映しているのは居場所を失っただけのちっぽけな人間だった。
もとより、その人間がこの場所にやってきたのは死ぬためだった。
彼の住んでいた屋敷は何者かの襲撃によって炎上し、彼が一週間後に継ぐべきはずだった屋敷は消え去って多くの人たちが見事に自分だけを残して逃げて行った………どうやら見捨てられたとしったのはそれから少し後………どうせ、このまま捕まるのならば自分の兄を手にかけた後に死のうと決めていたのだ。
死ぬ………いや、それは違うのかもしれない。こうやって今、伝説上の龍に、しかも自分達が作り出した存在に…………命を絶たれなければ旅立てない自分が情けなかった。結局、自分がやってきたことは八つ当たり。それだけだった。
「おい、久遠!」
そんな時、先ほど死んだと思われた人間が、元の場所に立っていた。
「あ、輝!?」
「嘘ぐがぁっ!!」
龍の力がいっそう強くなり、声が押し出されるように大気へと溶けてゆく………両腕はもう使い物にならないただの肉塊に成り果てた。
「もうやめとけよ、そいつはもう充分反省している」
そんなことを言いながら近づいて行く一人の少年…………人間は荒れている龍に愚か者が近づけばどうなるか知っていた。
もはや目の前さえちゃんと理解できていない龍がするべきことは………
邪魔するものに襲い掛かることだった。
「げほっ!!がはっ…………」
そのおかげでちっぽけな人間は解放されたが身体がもう動かない。首だけ動かして白い龍と一人の少年を見やる………尻尾で潰すために振り上げるが、相手はよけようともせずにじっとみるだけ。
振り落とされた尻尾、ぐしゃっ!という音が聞こえてくるとふんでいた音は全く聞こえずその代わりに左腕でその尻尾を受け止めている一人の少年がいた。
「………ほら、もうやめようぜ?よくよく思えば今頃あいつら全員俺たち二人を探してるからよぉ」
『ぐるるるる…………』
龍が人の話など聞かないことを知ってかしらしらずか………その少年は龍に話しかけていた。もはやあれは人でもなんでもない、龍だ。
案の定、龍のほうも話を聞こうと思っていなかったようで彼に再び尻尾で襲い掛かっていた。
だが、それもまたおさえる。人間にはその少年がもはや人ではない人に見える。
「はぁ…………ったく、腕相撲なら腕でやれよな?………俺は男女差別しないほうなんだ」
それだけいってつかんだ尻尾を振り回し、それに比例して龍の身体も宙舞って最後に公園の遊具を一つ破壊し、大地に沈む。
「頭冷えたか?…………ああ、そうそう、久遠、覚えてるか?この言葉………」
鋭く開けられた少年の瞳………それは人間のそれではなく龍と同じような瞳………白い光が彼を中心に夜空へと舞い上がって四方八方に地面を這う。
『ええと、とりあえず人型になれや!!』
それだけで、たったそれだけの言葉で光は消えて、荒れ果てた公園は姿を取り戻して人間は再び両足で大地に立つことができた。
「これは一体…………」
言葉も出ない人間、そして、大地に沈んだはずの龍はジャングルジムの内部で奇妙な恰好で少年のほうを見ていた。
「あ、輝さん………輝さん!輝さんっ!」
「まったく、変な恰好しやがってよ………つーか、俺の言うことぐらい………おわっ!!」
「輝さん……」
白き龍は少年を抱きしめて放さない………
「お、おい………」
「よかった………死んでなくて」
「………ああ」
白き龍を抱きしめたまま、その少年は人間のほうへと静かに視線を動かして顎をしゃくった。
行け…………そういう意味がその一つに含まれていることを人間は知った。
「…………」
ここにこれ以上いても無駄なだけ………それを悟って人間は公園を後にしたのだった。
―――――――
夜道を歩く人間の背中から声が聞こえてくる。
「まったく、こいつが白河のところのガキかよ………」
「晶様、口が悪いですよ」
「あ〜はいはい、悪かった。まったく、こいつが白河のところの子どもかよ………これでいいか?」
「はい、いいですよ」
内容的にあまり代わりのない、だが一寸のすきさえ見せずにそんなやり取りを終える。
「とりあえず、警察にでも転がしておいてやるか」
急いで後ろを振り向く人間だったが、相手は人とは思えないすばやさで彼の握っていた拳銃を弾き飛ばし、力任せに引き倒す。
「ぐぁっ!!」
「甘い、甘いねぇ!その程度の腕じゃ、うちの『お姉ちゃん』にはおよばねぇぜ?」
「お、お前………白瀬晶………か?なりそこないのくせして!」
胸倉をそのままつかまれてあげられる。
「藍、さっさとこいつを縛ってくれよ」
「はい、わかりました」
付き添っていた藍色のワンピースの少女………可憐だが、その背中には羽が生えていた。
そして、動く力の残っていなかった人間はあっさりとぐるぐるまきにされてつかまれる。
「ふふっ!僕を捕まえたところで無駄さ!どうせ僕は裏切られた!見捨てられた人間だ」
そういう彼の頬を涙がつたう。人に裏切られるのを生まれて知った瞬間だったのだ。それまでは裕福に過ごしてきた、誰も彼の言うことを聞かないということはなかった。しかし、最近になって全てが狂いっぱなしだったのだ。
「まったく、かわいそうな野郎だよなぁ………」
「本当ですね、晶様がこのようにならなくてほっとしました」
「ほっとけ、ほらさっさと帰ろうぜ?俺まだこっちに帰ってきて一週間もたってねぇ」
「ちょっと待った!」
帰ろうとしていた二つの陰に、追いすがる二つの陰。
「そいつは俺の弟だ!おいて行ってくれ!」
「あぁん?弟ぉ?」
振り返る一つの陰だったが、相手を確認して目を細める。
「………おいおい、まだラスボスがいたのかよ?藍、こりゃ死ぬ気でいくしかねぇぜ?」
「え、ええ………この人何者なんでしょう………」
しかし、追いかけてきた少年は両手を挙げた。
「待った、俺らはあんたらとやる気はない」
「そうよ、愚弟」
そんな声が聞こえてきて全員が声のしたほう、夜空を見上げる。
「姉さん!?」
そこには黒スーツの女性が翼をはためかせることなく、浮いていた。
「おいて行ってあげなさい。どうせそいつを捕まえたところで意味なんてないわよ」
「………いいのかよ?」
「ええ、いいわ。大体、あんたも私もそこの久遠ちゃんがいてくれたからこっちに戻ってこれたのよ?またあの猫耳と一緒にサバイバルしたいの?」
何を思い出したのか汗を流しながら縄でグルグルにしたちっぽけな人間を道路に下ろして、白き龍へと頭を下げる。
「君が久遠ちゃんかぁ………君のおかげで俺はまたこっちに戻ってこれて友人達と会えた。礼を言う」
「いえいえ、そんな………」
照れる白き龍にもう一度だけ頭を下げて愚弟と呼ばれた男は隣にいた藍色のワンピースの少女と一緒に歩き出した。
「じゃ、まぁ、今回は素直に身を引くけどな………ま、縁があったらまた会おうや」
「失礼します」
「じゃあね、久遠ちゃん、輝」
三人が消え、三人が残った。
「…………」
「さ、帰るぞ、久遠」
「え、ええ………けど、本当にいいんですか?逃がしちゃって」
縄を解いて自由にする。
「ああ」
「悪さをしたらどうするんです?」
「そんときゃあの三人が何とかしてくれるさ」
単なる人間ではなさそうだと感じて人任せ。
「いつかまた会ったら『兄ちゃん』って呼んでくれ」
それだけいって少年は人間に背を向けた。
「あ、待ってください輝さん!」
そして、白き龍もそれを追いかけて白けてきた夜に消えたのだった。
「…………」
一人残された人間は立ち上がり、どこかへ消えた。
ここに、漆と久遠の夏休みは終わりを告げるのだった。




