漆編:黒き龍、石の下にて。
カウントダウン4?
漆編:黒き龍、石の下にて
「じゃあ、あたし達はあっちで待ってるから………」
「わりぃな、わざわざ待たせるような真似してよ」
「いいですよ、輝さんはちゃんと漆さんと話してください」
千佳が佐原、久遠に由佳をつれて去って行く。静かな霊園で、俺たち以外、この霊園ないでは人の姿が見ることができない。
四人がいなくなって俺は静かに漆の墓に手を合わせた。
「久しぶりだな、漆………」
黒いスーツ姿の俺は漆の墓標の前に立っている………漆が死んでしまって一年がたった。今の俺はあの頃よりも成長できただろうか…………
「不思議だよなぁ、お前がこんなふうに………まさか、死んでしまうなんて思わなかったぜ」
墓が喋ることなんてない。そんなことはわかっているが俺は放さずに入られなかった。
「あの時さ、お前は大丈夫だって思ってあいつらと戦った………だがよ、結局お前は死んじまってたからな………前々からいおうと思ってたんだ」
少しだけ息を吐く。緊張するが、あの時いえなかったことをちゃんと言わなくてはいけない。
「………俺はお前のことが好きだったんだ………」
涙が頬をつたって地面に吸い込まれて行く………漆の墓標は光を浴びて輝いている。
「悪い、さっさと言って普通の恋人と生活送りたかったぜ………俺が笑ってその隣でお前がいてさ。俺の料理食べて笑ってくれるお前が見たかった、喧嘩してたらお前にぼろぼろに負けるんだろうな、俺は。ああ、それと腕相撲のリベンジだってやってねぇよな………」
涙が止まらないが、言葉も止まらない。言えないうちに漆は消えた。勇気があればその時点で言えたのだ………もしかしたら振られていたのかもしれない。だが、今の子の状況よりましだ。
墓の前に膝をついて涙を流すしかない俺を俺は憎かった。
「ちくしょぉぉぉぉおおっつ!!!俺は本当に馬鹿なことをしちまったんだ!お前の、漆の敵さえ殺せなかった!とどめなんてさせねぇよ!漆ぃ!さっさとお前を………お前を病院に連れて行くべきだったんだよぉ………」
漆は返事をしてくれない。一年前はあんなに笑っていたのに、話せていたのに、ちょっとは考えていることを理解できたのに………俺の隣で怒ったり笑ったりしていた漆はもう、動かない。何をしたって笑わないし、怒らない。
情けない姿をさらしているってわかってる。
漆がこんな姿を見たくないって生きていたら言ってくれただろう。
俺を励ましてくれていた。
だが、そんな漆はもういない。
あの日に戻ることが出来たらならば………
もしも、戻れたならば………
俺は首を振って立ち上がる。
「いや、そんなことなんて出来ねぇな………」
涙を拭く事無く俺は立ち上がり、漆に笑いかけた。
「お前がもう笑えないってことはわかってる。だから、お前の代わりに俺が笑うよ………生まれ変わりっていうのがあったら………」
『輝………』
「!?」
湿った土から黒ずんだ右手が生える………そして、それは何かを求めるかのように動き出し、左手も現れる。
「………これは………」
『輝、何であのとき私を助けてくれなかったの?』
「漆………」
俺の目の前に現れたそれは…………漆なんかじゃなかった。陰が実体化した、そんな感じか?時折、砂嵐が混ざるかのようにその姿をぶれさせながらも俺に近づこうとする。
「………あんたは今最高の悪夢を見ている」
「お前………」
そして、もう一人………俺の前に現れた。
忘れもしない、漆を殺した張本人………一年前に俺がとどめをさせなかったやつだ。
「悪夢だぁ?お前が何かしたんだろ!?」
「違うね、この漆は君が心の中で育てた漆だ。後悔、絶望、負い目………そんなものをこいつは喰らって育ってきた………」
嫌な笑みを俺へと向ける。
「君に漆を倒せるかな?確かに一度目は僕が殺した………」
お前に出来るのかと、そいつは言ったのだ。
「………俺は………」
『輝、一緒にいようよ、ここは暗くて一人………だから、怖い。私はまた一人ぼっち』
まるで機械音。時折走るノイズに背筋を寒気が襲う。地の底から聞こえる声とはこういった声のことを言うのかもしれない。
『輝ぁ………』
「………」
酷く緩慢な動きでこちらへとやってくる。俺に出来ることなんて………ないのかもしれない。




