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隣の彼女が目覚めたら~恋をしない彼女に恋をした~  作者: 一会
第1章 クリスマスまで
9/60

8 11月28日(木) 夜



 彼女との待ち合わせは、俺たちの住むマンションの最寄駅から二つ手前の、大きな商業施設のある駅にした。

 駅から直結するビルのレストランフロアで、俺は少し緊張して彼女を待っていた。



 店をカフェではなく、カジュアルなイタリアンレストランにしたのは、その方が落ち着いて彼女と過ごせると思ったからだ。

 決してそういう雰囲気を出すためではない!


 親には、「友達と晩飯食ってくる」と連絡を入れておいた。


 

 学校から真っすぐにレストランフロアに行くのではなく、途中の店も軽く(のぞ)いた。

 大人の彼女に似合いそうなアクセサリーは、俺の今の手持ちでは手が出せない。今夜のご飯代で精一杯だ。


 俺はあきらめて、レストランフロアに向かった。




 18時の待ち合わせに、目的地に20分も早く着く。

 少し早いけれど、スマホで再度口コミを検索して、オススメメニューやこの後の話の流れを想定しているので、手持ち無沙汰(ぶさた)になることはない。

 


 「お待たせ。」

 

 彼女は朝と同じ、ふわっとした柔らかい微笑みを俺に向けて声をかけてくれる。

 俺は直ぐにスマホをしまい、彼女だけを視界におさめた。


 「お腹、空いてる?」


 俺が尋ねると、「ぺこぺこよ。」とお腹に手をあてて、大人なのに可愛いらしい仕草(しぐさ)をする。


 

 俺は彼女と店に入り、メニューを見る。

 平日の早めの時間なので、予想通り席に余裕がある。

 予約を取ろうか迷ったけれど、二人なのでそこまでしなくても席があると踏んでいた。

 

 本当は、いい席を取りたければ予約を入れるのがいいのだけれど、彼女にとってこれはデートではない。

 あまり意識しすぎると彼女が嫌がるかもしれないので、そのとき次第で行動することにした。




 「お飲みものはどうされますか?」という店員の質問に、彼女は俺を見てから店員を見て、「お水で」と答えた。


 「かしこまりました」と店員が下がっていってから、俺は彼女に話しかける。


 「お酒は飲まないの?」


 俺は未成年だから当然酒は飲まないけれど、彼女は成人している。

 従姉妹(いとこ)と店にくると、グラスワインの一杯くらいは飲んでいた。



 「一緒に飲む人がいたら飲むわ。」


 彼女は俺に合わせてくれていた。

 俺は、彼女が俺を見てくれていることがうれしくなった。

 俺は彼女のことを知りたくて、いろいろと質問していくことにした。


 「今、どんなことを学んでいるの?」


 「大学の講義は、主に教養的なことね。個人的には、日本人の考え方について学んでいるところよ。」



 「日本人の、どんな考え方?」


 「一般的な歴史観、宗教観、人生観、家族観、それに」


 彼女はすらすらと答え、少し区切ってから微笑んで、次の言葉を言った。


 「恋愛観。」



 食事中、俺の頭は、彼女の言葉でいっぱいになる。

 彼女は俺が今まで考えてもいなかった角度から、日本人の考え方について話してくれた。

 聞く人によっては批判とも受け取られかねないような内容も含め、彼女の考察は興味深かった。


 「だから私は、日本人が好きよ。」


 彼女は最後にそう締め括り、話したいだけ話せれて、満足そうだった。



 デザートのジェラートを、彼女は紅茶、俺はコーヒーと一緒に食べて、俺たちは遅くなる前に店を出ようとした。

 会計を二人分払おうとすると、彼女が自分の分を出した。

 年下の彼女の分をいつも払っていたので、俺は面食らう。


 「また今度、一緒に食べに来ようね。」

 

 彼女が俺に笑顔で言ったので、彼女が自分の分を払うのを止めなかった。

 俺たちは、多分、対等な関係なんだ。

 年上の女の人なのに、俺のことを一対一の関係で見てくれている。


 従姉妹(いとこ)は俺と食べに行くとき、必ずおごってくれた。

 従姉妹(いとこ)が誘うのだし、7歳も年上なのだから、子供の頃からおごられて当たり前だと思い、俺は払おうと思ったことすらなかった。


 俺は彼女に個人として認められた気がして、さらにうれしくなった。



 帰り道は、家が同じマンションで隣の部屋だから、ずっと一緒にいられる。

 二駅分の電車内は座れなくても朝より空いている状態なので、並んで立って言葉を交わして過ごせた。


 彼女と俺の姿が夜の電車の窓に映る。

 俺は窓に並んで映った二人の姿を意識して、彼女にもっと近づきたいと思った。



 電車を降り、改札を通って帰宅の道を進む。

 俺はかなり浮かれていた。



 「ところで」

 

 かなり打ち解けたところで、彼女が俺を見て目を輝かせて尋ねてきた。


 「別れた彼女から連絡がある、という話の続きをきかせて。」


 俺は数日前に彼女に言ったことを後悔した。




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