6 11月27日(水)夕方
部活が終わって帰ろうとすると、学校の最寄駅に年下の別れた彼女がいた。
気温は上がらず、制服のスカート姿の彼女が寒そうにしている。
友達と一緒にいた俺は、からかわれていたたまれない気持ちになりながら、彼女を目立たないよう駅の端に連れて行った。
彼女はまだ中等部に通っていて、寒くてかわいそうだけれど、制服姿で店に入ることはためらわれた。
せめて風が当たらないような場所で話すしかない。
「どうしてここまで来たの?」
俺はあまり冷たくきこえないよう、優しく尋ねた。
「全然返信してくれないから!」
彼女は怒っているのか泣いているのかわからないような様子で、目元を赤くしている。
「俺と、別れたいんだよね?」
「違う! なんでわかってくれないの?」
彼女が涙を流し始めた。
「なんで私ばかり、好きなの? 私のことを、好きになってくれないの?」
彼女のことは、嫌いではない。
でも、好きかと尋ねられたら、答えられない。
これでは、隣の部屋の彼女と同じだ。
俺は好きでもない人とつき合った。
「ごめん。」
でも、頑張ってつき合ったんだ。
きちんと努力はした。
ただ、恋にはならなかった。
彼女はぽろぽろ泣いている。
「ごめん。」
俺は謝るしかない。
いい加減なつきあいはしていないけれど、女の子が泣いていたら、どうしても俺が悪いような気がしてくる。
彼女は口をきゅっと結んで小さなハンドタオルで涙を拭き、俺をじっと見て口を開いた。
「クリスマスイヴのデート、楽しみにしてるからね。」
夏休みに会った時、彼女がそんなようなことを言っていたのを思い出す。
定番のデートスポットだけど、彼女はとても楽しみにしていたようだ。
俺は気持ちを押し付けられたような気がして、途端に嫌な気分になっていく。
「別れよう。俺は、別れた方がいいと思う。」
二人の気持ちが噛み合っていない。
このままつき合っていても、いい結果を生まないとわかりきっている。
彼女は目つきを鋭くして、俺を見た。
「他につき合っている人がいるのは知っているわ。」
「そんな人、いないよ。」
俺は即、否定したけれど、彼女は確信している様子だ。
「友達と出かけた時、女の人と一緒にいるところを見たのよ。
ふたりで仲良さそうに、食べさせあっていたわ。」
彼女のまなじりが上がっていく。
「いつのこと?」
「先週の土曜日。」
先週の土曜日?
俺はぼんやり思い出す。
11月23日 土曜日。
俺は「勤労感謝の日だ! 日頃の労働を労え!」と従姉妹に言われ、食べ歩きのスポットに連れて行かれたのだ。
代金は従姉妹持ちなので懐は痛まなかったが、こんなところにしわ寄せがきた。
「あれは従姉妹だよ。」
俺はあきれて言った。
「従姉妹?」
「そう。がさつな従姉妹だ。」
「じゃあ、私のこと、好き?」
彼女が目を輝かせて言う。
俺は答えに窮して黙ってしまう。
好きでもないのにつき合った罰をあびているようだ。
彼女は俺の態度に不満があるようで、強気な態度で俺に向かってくる。
「イヴにきちんと会ってね。」
別れ話はどこに消えたんだ?
「他につき合っている人はいないけれど、君とはもう付き合えない。」
「嫌よ。別れないわ。」
こんな子だったっけ?
告白してくれた彼女は、もっと健気で繊細で、かわいらしかったはずなのに、今目の前にいる彼女は俺の気持ちを無視して自分の気持ちを優先してくる。
「ごめん。俺は君に気持ちがないから。」
彼女は目を見開いて俺を見た。
俺は初めて見る女の子のように、彼女を見ていた。
「わかったわ。クリスマスイヴのデートで最後にしよう。それくらい、譲ってくれてもいいでしょ?」
俺は急ぐこともないと思い、渋々頷く。
あと一ヶ月、今まで通り過ごせばいいだけだ。