表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣の彼女が目覚めたら~恋をしない彼女に恋をした~  作者: 一会
第1章 クリスマスまで
7/60

6 11月27日(水)夕方


 

 部活が終わって帰ろうとすると、学校の最寄駅に年下の別れた彼女がいた。

 気温は上がらず、制服のスカート姿の彼女が寒そうにしている。


 友達と一緒にいた俺は、からかわれていたたまれない気持ちになりながら、彼女を目立たないよう駅の端に連れて行った。

 彼女はまだ中等部に通っていて、寒くてかわいそうだけれど、制服姿で店に入ることはためらわれた。

 せめて風が当たらないような場所で話すしかない。



 「どうしてここまで来たの?」

 

 俺はあまり冷たくきこえないよう、優しく尋ねた。


 「全然返信してくれないから!」

 

 彼女は怒っているのか泣いているのかわからないような様子で、目元を赤くしている。



 「俺と、別れたいんだよね?」


 「違う! なんでわかってくれないの?」


 彼女が涙を流し始めた。



 「なんで私ばかり、好きなの? 私のことを、好きになってくれないの?」


 彼女のことは、嫌いではない。

 でも、好きかと尋ねられたら、答えられない。


 これでは、隣の部屋の彼女と同じだ。

 俺は好きでもない人とつき合った。


 

 「ごめん。」


 でも、頑張ってつき合ったんだ。

 きちんと努力はした。

 ただ、恋にはならなかった。


 彼女はぽろぽろ泣いている。


 「ごめん。」


 俺は謝るしかない。

 いい加減なつきあいはしていないけれど、女の子が泣いていたら、どうしても俺が悪いような気がしてくる。

 

 彼女は口をきゅっと結んで小さなハンドタオルで涙を拭き、俺をじっと見て口を開いた。


 「クリスマスイヴのデート、楽しみにしてるからね。」


 夏休みに会った時、彼女がそんなようなことを言っていたのを思い出す。

 定番のデートスポットだけど、彼女はとても楽しみにしていたようだ。


 俺は気持ちを押し付けられたような気がして、途端に嫌な気分になっていく。



 「別れよう。俺は、別れた方がいいと思う。」


 二人の気持ちが噛み合っていない。

 このままつき合っていても、いい結果を生まないとわかりきっている。


 彼女は目つきを鋭くして、俺を見た。



 「他につき合っている人がいるのは知っているわ。」


 「そんな人、いないよ。」

 

 俺は即、否定したけれど、彼女は確信している様子だ。


 「友達と出かけた時、女の人と一緒にいるところを見たのよ。

  ふたりで仲良さそうに、食べさせあっていたわ。」


 彼女のまなじりが上がっていく。


 「いつのこと?」


 「先週の土曜日。」


 先週の土曜日?

 俺はぼんやり思い出す。

 



 11月23日 土曜日。

 俺は「勤労感謝の日だ! 日頃の労働を(ねぎら)え!」と従姉妹(いとこ)に言われ、食べ歩きのスポットに連れて行かれたのだ。

 代金は従姉妹(いとこ)持ちなので(ふところ)は痛まなかったが、こんなところにしわ寄せがきた。



 「あれは従姉妹だよ。」


 俺はあきれて言った。



 「従姉妹?」


 「そう。がさつな従姉妹だ。」


 「じゃあ、私のこと、好き?」


 彼女が目を輝かせて言う。

 俺は答えに(きゅう)して黙ってしまう。

 好きでもないのにつき合った罰をあびているようだ。


 彼女は俺の態度に不満があるようで、強気な態度で俺に向かってくる。


 「イヴにきちんと会ってね。」


 別れ話はどこに消えたんだ?



 「他につき合っている人はいないけれど、君とはもう付き合えない。」


 「嫌よ。別れないわ。」


 こんな子だったっけ?

 告白してくれた彼女は、もっと健気で繊細で、かわいらしかったはずなのに、今目の前にいる彼女は俺の気持ちを無視して自分の気持ちを優先してくる。



 「ごめん。俺は君に気持ちがないから。」


 彼女は目を見開いて俺を見た。

 俺は初めて見る女の子のように、彼女を見ていた。


 「わかったわ。クリスマスイヴのデートで最後にしよう。それくらい、譲ってくれてもいいでしょ?」


 俺は急ぐこともないと思い、渋々(うなず)く。

 あと一ヶ月、今まで通り過ごせばいいだけだ。


 

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ