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隣の彼女が目覚めたら~恋をしない彼女に恋をした~  作者: 一会
第1章 クリスマスまで
6/60

5 11月27日(水)

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 昨日同様に電車を乗り換えてからスマホを確認し、つき合っている彼女から何の返信もないことを当然のこととして受け入れた。


 これはどうみても、諦めるしかない。

 これ以上彼女に連絡を入れてもストーカー扱いされて、気持ち悪がられるだけだ。


 

 『俺の努力が足りなかったせいで、付き合いをダメにしてごめん。

  今までありがとう。さようなら。』


 とって付けたような言い回しだが、彼女が理由を説明しないのならならば、お互いに傷つかないようこう言うしかない。


 俺は彼女に連絡をし、これを最後に彼女のことを忘れることにした。



─────


 

 今朝も彼女と玄関を出て直ぐに会って、会話をしながら駅に向かう。

 俺は昨日から断続的に届くメッセージに辟易(へきえき)していた。



 『なんでそんなにあっさりしてるの?』

 『やっぱり誰かとつき合っているの?』

 『そんなに私と別れたいの?』

 『何を考えているのかわからない』

 『どうして返信してくれないの?』

 『私のことが嫌いになったの?』

 『何とか言ってよ』



 彼女は俺と別れたがっていたはずだ。

 俺はその旨を返信して、昨夜、小まめに振動するスマホの通知を寝る前に切った。


 朝に見てみると、数十件のメッセージが届いていた。

 内容は似たようなものばかりだ。

 彼女がどうしてこんなメッセージを送ってくるのかわからない。



 「何か心配事?」


 俺が浮かない顔をしているのに彼女は気づいたらしい。


 今日は雨が降っているので、外階段ではなくエレベーターで降りた。

 俺は濡れても構わないけれど、彼女が濡れたら風邪をひくかもしれない。


 エントランスを出る時に傘をさしながら、彼女が少し真面目な顔できいてくれた。



 「女の子は、自分から別れた男に、何度も連絡するものなの?」


 「恋の相談? 私には経験ないからわからないわ。」


 俺が質問すると、彼女は困ったような顔で俺を見た。



 「経験ないの?」


 「私、つき合ったことはあるけれど、恋したことないの。

  でも、その彼女、何度も連絡するほどあなたに未練があるのだと思う。」


 俺は彼女が恋をしたことがないという事実に驚いた。

 そして、彼女が好きでもない男とつき合ったという事実に、釈然としない思いがした。

 喉に何か固まりがあって、唾を飲み込んでもすっきりとしない。


 俺は黙々と歩いた。

 彼女は黙って俺が言葉を発するのを待ってくれていた。



 駅に着いて、プラットホームで電車を待つ。

 11月末に降る雨が、冷たい空気を運んでくる。



 「何人とつき合ってきたの?」


 自分でも思ってもいなかった低い声が出て、言葉に出してから後悔する。

 失言だ。


 俺は少し下を向いたまま、彼女になじられるのを待った。



 「気になる?」


 彼女の声色が少し変わり、俺を見ている気がする。

 俺は恐る恐る顔を上げて、彼女を見る。


 電車が入構し、風が吹く。

 物静かで綺麗だと思っていた女の人が、美しい髪をなびかせて、俺を(あや)しい目で見ていた。

 俺の目は彼女の目に捕われて、視線を外せない。


 

 「気にならない。」


 何故そんなことを言ったのか、俺には説明できない。

 でも、そう言わないと、彼女と話せなくなると直感的に思った。

 

 彼女は髪を手で直しながらゆっくりと瞬きし、次の瞬間に優しい目で俺を見てくれた。



 「また、明日の朝。」


 彼女はそう言って、電車に乗るために前を向いた。



  『また、明日の朝。』


 彼女の言葉が頭の中でこだまする。

 また、明日の朝、俺は彼女と会って会話できる。

 俺は気持ちが浮きだってくるのを自覚した。



 電車に乗ってから、俺は彼女の方をずっと見ていた。

 彼女は俺の視線に気づいて微笑んでくれたけれど、電車の揺れに合わせて人に身体を押され、俺の場所からは見えなくなった。

 

 俺はしつこく彼女の方を向いていたけれど、人が多くて彼女を見ることができない。

 彼女が駅を降りた時、俺はやっと彼女のことを見つけられた。

 俺はそんなことでも嬉しくて、彼女が振り向いてくれることを期待した。


 彼女は電車を降り、人の邪魔にならないような位置に移動してから俺の方を見て、俺の期待通り優しく微笑んでくれた。





 俺は一日中彼女のことを思ってぼうっとし、友達に「恋わずらいだ」とからかわれた。



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