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隣の彼女が目覚めたら~恋をしない彼女に恋をした~  作者: 一会
第1章 クリスマスまで
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3 11月25日(月)



 

 「昨日は、大丈夫でしたか?」


 俺は隣室を越えた先の、建物の端にある階段の方に二人で歩きながら、気分よく女の人に話しかけた。

 偶然なのか、女の人も階段の方について来てくれた。


 俺が建物中央付近にあるエレベーターの方に向かわないのは、朝はエレベーターが混雑するため、階段の方が早く降りられるからだ。



 「昨日は見苦しいところを見せてしまって、ごめんなさい。

  雨が上がって何となく外を見たら公園の紅葉が綺麗で、ベランダから写真を撮っていたの。

  人がいないと思って部屋着のままだったのに、隣のベランダにあなたがいたから、恥ずかしくて慌てて家に入った。

  挨拶もしないでそのままだったことに後から気づいて、急いで着替えてベランダに出てもあなたは居なくて。

  私、感じ悪かったわよね。」


 

 彼女はよく通る声で昨日のことを謝って説明してくれた。

 僕たちはマンションの階段を降りて、駅に急ぎ足で向かいながら話している。


 今日は晴れの予報だ。

 ここ三日続いた雨の後で、気温が上昇するらしい。

 もうすぐ冬になるというのに、今朝は寒さを感じなかった。



 ちらっと見た限り、彼女の顔は純粋な日本人にしては彫りが深く、目の色も薄い。

 流暢(りゅうちょう)な日本語を話す様子から、彼女が日本に定住しているか、長いこと日本語に親しんできた環境にあると思われる。

 


 

 「いえ、俺こそ驚かせたようで、すみません。スマホ、大丈夫でしたか?」



 去年大学を卒業して社会人になった従姉妹(いとこ)に鍛えられた会話スキルで、俺は難無く話を続ける。

 同じ方向を歩いていく、学生服を着た人やきっちりとスーツを着た人たちが作る駅への流れにのって、そのまま改札を抜けていく。

 


 「ええ、無事でした。心配してくれて、ありがとう。

  優しいのね。」



 俺は彼女の方を見て「そんなことないですよ。」と言おうとしたけれど、彼女が俺の方を見て微笑んでいるのを見て、黙ってしまった。

 彼女は僕が言葉を返さなくても気にしていないようで、ホームに入ってきた電車に視線を移し、電車の風圧で煽られるストレートの髪を手で押さえている。



 誰もが彼女の方を見ているのに俺は気づいた。

 通り過ぎた人が、振り向いて彼女を見ている。

 ただ、電車に乗るのを待っている、その様子ですら一枚の()になる。

 そう思ったのは、俺だけではないだろう。


 


 それぞれが目的の駅を尋ねあって、同じ方向の電車に乗ることが分かっている。

 俺と彼女は人の流れのままに車内にばらばらに乗った。


 途中の駅に着く度にいつものように人に押され、その度に彼女の位置を確認する。  

 朝の車内は混んでいて、とても話せる状況ではない。

 それは彼女のような存在感のある人ですら例外ではない。



 彼女の降りる駅の方が俺が降りる駅よりも先に着く。

 俺は彼女が降りる駅に着く少し前に、彼女の方をじっと見た。

 彼女は俺に気づくとにっこり微笑んでくれた。

 俺は何だか照れくさくなって少し目をそらしたあと、彼女と目を合わせて少し笑顔になった。



 この混雑のなか、悠長にお別れをする場所はない。

 彼女はそのまま前をみて電車を降り、少し振り返って俺に笑顔を見せたけれど、人に飲み込まれるようにして改札の方向に向かっていった。

 




 乗り換え駅で電車に乗ってから、夢から覚めたように、俺はつき合っている彼女のことを思い出した。


 俺は彼女と会っているとき、彼女のことを大切に思って、俺なりに努力して楽しませようとしていた。

 女の子が好きそうなお店を調べて情報を得ておいて、オススメのメニューを彼女に伝えたり、雰囲気のいい場所に連れていったり、彼女がじっと見ていたアクセサリーを買ってあげたりした。


 確かに全然会えていなかったけれど、彼女も理解していると思っていた。



 スマホを確認したけれど、彼女からの返信はきていない。

 せっつくと、彼女が嫌がるかもしれない。

 俺は一言だけ、連絡を入れることにした。


 『理由を教えて欲しい。』

 

 わけもわからず初めてつき合った女の子と別れるのは納得いかない。

 俺はそのまま彼女からの連絡を待つことにした。




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