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隣の彼女が目覚めたら~恋をしない彼女に恋をした~  作者: 一会
第1章 クリスマスまで
3/60

2 11月24日(日)


 


 11月も終わりに近づく日曜日の午後、片手にスマホを持ちながら、マンションのベランダから外を何となく眺めていた。

 雨上がりの空は、まだどんより曇っている。


 英語のエッセイも書かないといけないのに、全く数学の問題集に集中できない。

 かといって、外出する気力もない。



 昨日、付き合っている彼女から、わけのわからないメッセージが届いた。


 『ごめんなさい。別れて下さい。』


 こんなメッセージを前触れもなしに送られて、普通、素直に応じるか?


 『どうして? 俺、何かした?』

 

 俺のメッセージは当然のことをきいているはずだ。

 でも、俺からの連絡を最後に、続きの文字はどこにもない。


 今は彼女からの返信待ちだ。





 俺は中学から共学の私立の学校に通っている。

 中等部を卒業する直前に、告白してくれた一つ下の学年の女の子と付き合い出した。


 告白してくれたとき、彼女はとても恥ずかしそうにしていて、勇気を出して告白してくれた彼女を傷つけたくないと思った。

 俺は、その場で直ぐに返事をした。


 僕はその日から彼女と毎日連絡を取り合うようになった。

 高等部に上がる前の春休みに、一緒にテーマパークに行って、同じ学校の同級生の奴らに見つかって冷やかされもした。


 高等部に入った後は、学園の校舎が男子部と女子部で分かれる関係もあって、中等部とは物理的な距離ができるため、なかなか会えていない。

 休日は、俺は部活の練習や試合で忙しかったし、彼女も習い事がある。

 平日は彼女の家の門限が早いので、そもそも時間が合わない。


 夏休みも友達と会ったり家族で旅行に行く用事や講習があり、お互いに忙しくて、結局一日、ショッピングに出かけたきりだった。


 しかし、彼女が毎日くれる『おはよう』と『おやすみ』のメッセージに、きちんと返信していたから、会えなくても問題ないと思っていた。





 ーーやっぱり、あまり会わなかったというのが原因なのか?

   他の奴らは、どうやって時間のやりくりをしてるんだ?




 俺が6階の自宅のベランダの手すりに腕をのせて、うだうだ考えながらマンション前にある公園の紅葉した木々を見ていると、写真を撮る電子音が聴こえた。


 音がした方向を何気なく見ると、隣の部屋のベランダに、スマホを手にした茶色い髪の女の人がいた。

 女の人は俺と目が合うと、わかりやすくびくりと身体を動かして驚き、その拍子に手に持ったスマホを落としそうになる。


 「う゛あ、、!」


 変な声を出してスマホを握りしめ、落とすのは免れたようだ。

 女の人はベランダの内側に入り、ベランダの(へだ)て壁があるため姿が見えなくなった。

 

 


 何か物にぶつかる音がした後、パタパタと慌てた足音がして、ベランダのドアを開ける音と閉める音が続き、静かになった。

 


 ーー何だったんだ?




 ファミリータイプの部屋と単身タイプの部屋がこのマンションには混在してる。

 隣の部屋は賃貸に出されている単身用の部屋で、たまに住人が入れ替わる。

 

 隣の部屋には、先日新しい住人が引っ越してきた。

 晩御飯の時に、確か母が、隣には大学生の女の子が一人で住んでいると言っていた。



 ーーさっきのがその大学生?


 

 俺は多少なりとも、年上の女性に幻想を抱いていたようだ。

 何か夢を壊されてしまった気がして、腑に落ちない。





 俺はベランダにいることに飽きて、部屋に戻った。

 スマホには彼女からの連絡がまだない。


 たまの休みに家にこもって課題をこなすというのもつまらないが、天才でも秀才でもない俺は、やるべきことをやっておかないと、そこそこの成績にならない。

 系列の大学の行きたい学部に進学するためには、しっかりと成績を上げておかないといけないのだ。


 成績が下がってから上げることの大変さを先輩を見て知っているので、凡人の俺は嫌々だけど課題に取り組むことにした。






 翌日、朝になっていつものように玄関を出ると、ちょうど隣の部屋の玄関も開いて、人が出てきた。


 「おはようございます。」


 隣人は、爽やかな笑顔で、朝の挨拶をしてくれた。

 俺も反射的に同じ挨拶を口にするけれど、頭の中では昨日のことを思い出していた。



 ーー同一人物だよな?



 目の前には、落ち着いた様子の、整った顔の綺麗な女の人が、俺が思い描いていた通りに存在していた。


 

 



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