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隣の彼女が目覚めたら~恋をしない彼女に恋をした~  作者: 一会
第1章 クリスマスまで
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9 11月29日(金)



 朝だ。気分は微妙だ。


 彼女に会いたい。

 でも、彼女に誤解されているような気がしていたたまれない。


 

 昨夜、彼女に期待に満ちた目で"別れた"彼女とのその後を尋ねられ、俺は正直に話した。


 駅で待ち伏せされたこと。

 彼女に泣かれても別れ話を進めたこと。

 彼女はなぜか別れたくない様子だったこと。

 クリスマスイヴに会う約束をさせられたこと。

 それが最後だと、俺は思っていること。

 別れるというのに、毎日連絡を取り合っていること。



 要点だけを話すと、マンションの玄関の前に着いていた。

 駅から徒歩5分。きちんと説明するには時間が短かすぎる。


 俺は年下の彼女には気持ちがないということをもっと説明したかったけれど、彼女は自宅の前に着くと、「おやすみなさい。また明日。」と言って、玄関を開けて入ってしまった。


 怒ったのだろうか?

 二股かけたと思われた?


 いや、彼女にとって、俺はただの隣人だろう。

 俺は立場をわきまえている。

 あんなに素敵な人が、年下の、まだ高校生の俺を、恋愛対象として見てくれるはずがない。



 昨夜のことを思い出しながら朝飯を食べていると、母が「最近様子が変だけど、大丈夫? 何かあったの?」と声をかけてきた。

 隣の席で、歳の離れた小学生の弟が、もぐもぐと元気に朝飯を食べている。

 俺は「大丈夫。何もないよ。」と返して、(うつ)々とした気分のまま玄関を開けた。

 



 俺の気分に反して、朝から太陽が光を振り()いている。

 玄関から彼女が出て来た。


 「おはよう。」


 彼女はいつもと変わらない笑顔で俺を見て、挨拶をしてくれた。


 「おはようございます。」


 俺は挙動不審にならないよう、いつも通りに挨拶する。

 いつも通りに駅に向かい、いつも通りに電車に乗り、いつも通りに彼女を見送った。

 話の内容は「最近の天気について」で、とても中味(なかみ)が薄い。

 俺は彼女の姿が見えなくなってからため息をついた。


 

──────


 学校の最寄駅から校舎に向かう途中で、部活の一つ上の先輩に声をかけられた。

 昨日は「体調不良」で部活をさぼった。

 何か気付かれたのかと思い、用心しながら先輩と会話する。


 「俺の妹が中等部にいて、お前が付き合ってる彼女と友達なんだ。

  お前、彼女に冷たいって言われているぞ。」


 俺は寝耳に水のことに、驚いて反応する。


 「俺、彼女から、別れたいって連絡をもらったんです。だから俺も別れようと言ったら、彼女が急に泣いたり怒ったりして、、。

  最後にクリスマスイヴに会って欲しいと言うので、そのときにきっぱり別れるつもりです。」

 

 「お前は別れるつもりだろうけど、その子は別れる気なんてなさそうだな。」



 「なんでですか?」


 「クリスマスイヴに、別れるつもりの奴と会おうだなんて思わないだろ?」


 俺は考えてもみなかったことを言われて、思わず先輩の方を見た。



 「俺、どうすれば彼女と別れられるんですか?」


 先輩もこちらを見た。


 「お前、他に好きな女でもいるのか?」


 頭に、隣の部屋に住む彼女の姿が浮かんだ。

 いや、ダメだ。彼女は年上で、留学生で、とても俺と付き合ってくれそうにない。



 「憧れている女の人ならいます。」


 親切な先輩に嘘をつく必要はないだろう。


 「それ、うまく付き合えそうなの?」


 先輩が俺の痛いところをつく。

 俺は「うぐっ」と声が出そうになるのをなんとか(こら)える。



 「付き合うだなんて、そんな関係にはなりそうにないです。」


 「なんだよ、それ。なんか問題でもあんの?」



 「年上の、綺麗な女性なんです。俺なんて、相手してもらえません。」


 「・・・お前、一度鏡見ろよ。付き合うかどうかは別として、遊んでもらえると思うぞ?」


 彼女になら、遊ばれてもいい気がする。


 「妹の友達のことは心配するな。俺がなんとかしてやる。」


 

 「ありがとうございます!」


 どうやって「なんとか」してくれるのかわからないが、ありがたい。

 本当は彼女の異変が少し怖かったのだ。

 持つべきものは、面倒見のいい先輩だな!


 俺は少し気持ちが楽になった。


 


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