0 拙い恋
初恋は実らないものだと、誰かが言った。
聞き古された言葉を実感したのは、彼女がオレの前から去って呆然としていたときだ。
オレの初恋は、突然降ってきた。
自覚して戸惑い縋り付くような行動をした結果、なんとか付き合ってもらえるようになったというのに、初めての感情に挙動不審になったオレは、彼女と会ってもまともな会話ができなかった。
二人の距離を縮めることができないでいるうちに、彼女はオレの前から消えてしまった。
初めて知った気持ちに捕われたオレは、自分の中に燻る想いを鎮火させられず、どうにかしてもう一度彼女と連絡を取りたいと願った。
思い返すとあの頃のオレは、ストーカーになる一歩手間だったのだろう。
ストーキングは犯罪行為で相手を苦しめることだと知識では知っていたが、いざ自分が恋する立場になると、ここまでなら大丈夫かなと、甘い判断を下してしまう。
こんなに自分が人を求められる熱い人間だとは知らなかった。
こんなに諦めの悪い人間だと自覚していなかった。
なりふり構わず彼女を求める様は情けないものだろうけれど、彼女といられるならば、周囲にどう思われようと構わなかった。
恋をすると周りが見えなくなるというけれど、オレは彼女のことも自分のこともわからなくなっていた。
彼女に恋して盲目になったオレが本格的にストーカーにならずにすんだのは、当時の社会情勢と、彼女とオレの地理的距離、そして何より友人や家族、知人のおかげだ。
これは、そんな情けないオレの、拙い恋の話だ。