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〜三橋涼介〜


【三橋翔子の回顧録】





ーー三橋家之墓ーー




私は頭が真っ白になった。その後目の前が真っ黒に変わった。



その日私は学校が早く終わって、美香と一緒に下校していた。


自転車通学だったから少し遠めの、イートインスペースのあるスーパーに行きお菓子やジュースを買って喋っていた。



「翔子はまたどうせ一位とるんでしょ〜?いいなぁ賢いって、、」



「どうかなぁ。今回の期末は難しかったから綾瀬くんには勝てないかも。」



「それに元々賢いわけじゃないし、ちゃんと勉強してるんだからね!」



「お父さんがお医者さんで、お母さんは元弁護士でしょ?スペックが違うわ〜。」



「お父さんはもともとラグビー部だよ?元は脳筋よ。」



「でも英語もぺらぺらでしょ?」



「そうだけど大学途中でやめてまで留学行ったみたいでさ〜はちゃめちゃだよ。」



「それ余計かっこいいから。よく海外出張も行ってるしかっこいいなぁ。ウチなんて仕事終わればダラダラビール飲んでさぁ。」



「でもそのせいで今日の誕生日は祝えずだよ!」


怒ったように見せて本当は誇らしかった。



「まだ時間あるしうちで勉強でもする?」


私たちは進学校で来年には大学受験も控えていたため毎日勉強に追われていた。



「やった〜!またあれある?」


美香の言うあれとはバームクーヘンのことだ。


父がよく実家に帰ったときに買ってくる抹茶味のバームクーヘンで美香の大好物だった。



「あると思うよ。この前もおじいちゃん家帰ってたし。」



「ほんとに良いお父さんだよね〜。頭も良くて優しくて。羨ましいよ。」



普通の子ならそこは「そんなことないよ。」と返すのかもしれないが、私はあえて何も言わなかった。


今時珍しいのかもしれないが私はお父さんが大好きだ。


美香が言った通り私の父は自慢の父だ。




「あ、そうだ翔子。話変わるんだけどタッシーの新曲聴いた?」



「美香だけだよ?タッシーって言ってるの。普通歌ってるアイドルの名前言うでしょ」


美香の言うタッシーとは女性アイドルグループ《チョコレートパム》の作詞を手がけている人物である。



「だってタッシーが言葉考えてるんだよ?」


タッシータッシーと言っているが決してそんな呼び名はない。むしろ知っている人の方が少ないと思う。現に私は知らないし。



「まぁ聴いたけどさ。でもなんか今回いきなり歌詞重かったよね。」



「同棲したのに別れちゃう、、って少し大人な歌だよ!」



「大人って美香まだ17なのにわかるの?」


私は笑って美香をからかった。




そんなたわいもない話をしているといつのまにか自宅に着いていた。




惨劇は私たちが家に入る前にはすでに終わっていたのだ。




まず異変に気付いたのは美香だった。


「何この匂い、、、?翔子ん家ってペット飼ってたっけ?」



「変な匂い?」


私も変な匂いと言われればそんな感覚を覚えたが、正直いつもと変わらないだろうと思い過ごした。



玄関から廊下へ上がりリビングへ行くと微かに、しかし確実に異臭を覚えた。

と同時に何か言い表せない不安が込み上げてきた。



私は美香とその匂いの元を探した。

とは言っても私には微かにしか感じ取れなかったから美香の鼻を頼りに部屋中を歩き回った。



美香は家から病院へと続く廊下に目を向け、私の名前を呼び手を引いた。


私は呆気にとられ美香に連れられるがまま廊下に出た。




流石に気づいた。その悪臭の出所が。それと同時に不安がこみ上げてきた。



なぜ私が不安を覚えたかと言うと、私の予想した匂いのもとはうちの病院にはあるはずがないから。


うちはおじいちゃんがこの病院を立て、引退し地元に帰る時にお父さんに引き継いだ。




うちは代々精神科医だ。血の匂いがするはずなどない。




病院との連絡路の途中にある備品庫。


小さい頃よくかくれんぼをしたときに使ったっけ。

そんなことを思いながら私は備品庫の扉の鉄製の取っ手に手をかけた。



けどすぐには開けられなかった。久々過ぎて取っ手の構造がどうなっているか分からなかったからだ。



その上匂いに気を取られていたのか、それとも異常事態に興奮していたのか私たちは連絡路の電気をつけ忘れていた。


暗闇の中で小刻みに震える手になんとか力を入れ扉を引くことができた。


扉を開けると同時に強烈な匂いが私たちを包んだ。


その匂いに気圧されながらも勇気を振り絞って中を確認すると、壁沿いには備品用のダンボールが乱雑に置かれていた。



けど一つだけ入ってすぐのところにポツンと。


軽自動車が入るかどうかといったほどの小さな備品庫だったが、そのダンボールの位置は明らかに異質だった。

私は確信した。


これが匂いの元だ。


そのダンボールへ一歩ずつ近寄っていく。



踏みしめるたび

ニチッニチッ

と、乾いたジャムを踏んだような音が聞こえる。



私はダンボールのフタに手をかける。少し粘り気があり湿っていた。


「翔子、、、」


私の後ろで美香の声が震えていた。




私は息を呑み意を決して勢いよくフタを開けた。


私は恐る恐る中を見たが暗くてよく見えなかった。

止めていた息が漏れる。

何か先送りできた気がして一瞬だけど本当に安心した。


「翔子、、、?何が入ってるの、、?」


「暗くてわからない、、けどこれで間違いないみたい。」


匂いが鮮明にくっきりと鼻をつく。




「電気つけるね。」

美香は廊下の電気を探すためあたりを手探りで歩き始めた。



やめて

って思った。だって怖かったから。これが何なのか何となく頭をよぎっていたから。


「あった!つけるね!!」



その中身は思っていた数百倍も上回っていた。



一瞬何かの上にお父さんのお面が載っているのかと思った。






頭で考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて









美香の悲鳴で腰が抜けた。




私は自分の手に赤い粘液がついているのを見て全てを悟った。



それから病院で眼を覚ますまでの記憶はない。




ダンボールに入っていたのは小分けにされた父だった。



丁寧に頭だけが上に乗せられて。





刑事さんの話だと死後4〜6日と言ったところだそうだ。


今日まで変な匂いはしなかったからおそらく今日犯人がここに持ってきたのだろうということだった。



自宅や付近のカメラは全て原因不明の不具合で作動していなかった。計画的犯行だ。




母はうちに勝手に入って来れたということにも恐怖を感じていたようだったが私はそんなことどうでもよかった。




私の心に渦巻いていたのはただ一つ。












いつか犯人を見つけ出して同じ目に遭わせてやる。絶対に。






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