〜手紙〜
拝啓 みなさまへ
私は6年前に6件の殺人を犯しました。
その当時はご迷惑をおかけしました。
あのとき私は頑として動機を口にしませんでしたが、旅立ちの時になりましたのでお話しします。
まず私は精神喪失ではありません。
木田さんという刑事さんは始終疑っていたようですが。
なぜ精神喪失を装ったかというと、対抗したかったからです。
やつらは少年法という盾を使って逃れました。
裁判官も検察もわかっていたのです。
あのタイミングであの証拠が相次いで出るのはおかしいと。
当初、あいつらになんのアリバイもなく、犯人に一番近いとされていたとき、少年法擁護派の弁護士達が世論に、過度に、被害者の気持ちを全く考えずに訴えていました。
テレビでも連日放送され、木戸からの圧力で少年法反対派は一時的にテレビから排除されました。
世論は少年に更生の機会をという流れになってしまいました。
その後、よくわからないアリバイや証拠が相次いで出てきて、弁護士の浜谷は
そもそも無罪ではないか、
と吹聴し始めたのです。
結果は無罪。
仮にあの作られた証拠が否定されていたとしても、あの流れでは大した罰は与えられなかったでしょう。
悔しかった。
私は何日も何週間も何ヶ月も成人するその日まで考えました。
奴らを今殺せば自分も少年法で罪が軽くなる。
ただ私は本質に気付いたのです。
私は自分の罪を軽くしたいのではなく、愛する人を惨殺したやつらを苦しめて地獄に落としたい、やり返したいと。
そしてやつらに彼女と同じ苦しみ、それ以上の苦しみを与えるにはただ捕まってはダメだと思いました。自分も無罪に、少なくとも減刑にならなければならないと考えたのです。
そこで目をつけたのが精神喪失です。
私は高校を卒業すると、7つ上の彼女がいるはずでした。
教育実習の先生で私が高校を卒業すれば交際すると約束していました。
彼女はその年の誕生日の日に殺されました。
不良グループ6人によって。無残に。
奥山輝久。
こいつはバイクを盗み、出張先での仕事帰りだった彼女に暴行を働き気絶させ、あろうことか彼女の髪の毛を掴んで付近についていた防犯カメラにこれ見よがしに見せていました。
その後バイクにつないであったロープを彼女の腰に巻きつけ、バイクで人気のない山中まで走りました。
距離にして約1km。
なので私はその20倍走ってやりました。
田代寛。
やつもグループにいたのは知っていましたが、何をしたのか分かりませんでした。
だから直接聞いたのです、正直に話せば助けてやると言って。
やつはこう言いました。
他の5人が彼女を犯している間の見張り、気絶すれば近くに置いてある水の桶のところまで行き顔を突っ込み起きさせる。
畜生としか言いようがありません。
ですから田代は縛って殴り続け、気絶すれば水をかけて起こし、また殴り、その繰り返しを死ぬまでやりました。
浜谷真斗。
こいつはもしバレても親父が弁護するから好きなようにしろとけしかけた張本人です。
浜谷正蔵もいっしょに葬るつもりでしたが、その前に寿命で逝ってしまいました。
浜谷正蔵が弁護した大きな事件の見直しを切に願います。
木戸蓮。
浜谷と一緒にこの事件自体をなかったことにしようとした男。
当時府議員だった父に頼んで色々と手を回していたようです。
三橋の親父に頼み一年前から偽の精神疾患を患っていることにし、奥山の母親に頼み、ちょうど殺害時刻ころに関西空港から沖縄行きの飛行機に乗っていることでアリバイを補強していたのです。結果全員の罪が不問になりました。
三橋涼介。
彼女が死んだ後遺体を切って箱に詰め山に埋めたのはこいつです。
田代が言うには医者の息子ということで自分で名乗り出たそうです。
精神科医で外科ではないくせに。
なので同じ状態でやつの娘にお披露目をしました。
結局6人全員お咎めなしです。
ふざけるな。
そしてその当時彼女の両親が少年法をなくして死刑にしてほしいと公表したとき、浜谷正蔵を含め、少年法遵守、死刑反対と息巻いていた弁護士達にも言いたいことがある。
○加害者の未来はまだある
逆に重きを置け。どっちが被害者か分かってるのか?
被害者の未来はもうない。
あるとしても被害者遺族の悲しい未来だ。加害者の未来なんて優先順位に乗るわけないだろ。
○加害者にも人権はある
無意味に人を殺しておいて人権もクソもない、やつらはやりたいことをしたのと引き換えに獣に成り下がった。人権なんてないに決まってるだろ。
○少年だから善悪がついていないだけ
馬鹿か。少年だからじゃなくてそういう感覚が元々ないからなんだよ。
それに高校にもなって殺人の善悪判断がつかないやつは、成人になってもその感覚は変わらない。
仮に変わるとしても、そんな罪を犯したやつのための小さな希望に対して、なぜ我々一般市民が大きなリスクを取らなければならないんだ?
○負の連鎖を繰り返してはならない、断ち切りましょう
断ち切るのは加害者側でやれ。
何自分は攻撃しといて、いざ自分がやられそうになったらポーズかけるんだよ。
そのセリフを言う権利があるのはこっち側なんだ。
始めたのがそっちなら終わらせるのもそっちにしろ。
私は高校を卒業し復讐するためだけにたくさんのことを学びました。
何年もかけ綿密に。努力を続けました。
苦しくはなかった。あの日を待ち望んでいたから。
そして旅立つにあたり、私はまっさらな気持ちで彼女に会いたい。
そう思い、1人一年ずつ使い気持ちに折り合いをつけました。
憎しみ、悲しみ、後悔、色んな感情を整理しました。
6年が経ちそれも終わりました。
ですので明日旅立ちます。
ほんとうにありがとうございました。
神崎新